プジョー408 GT(FF/8AT)
予想外と想定内 2023.08.23 試乗記 眺めただけで「プジョー408」がどんなジャンルのクルマか形容するのは難しい。それもそのはず、セダンとワゴン、SUVの特性を併せ持ち、「セグメントやカテゴリーの壁を越えた」とうたわれる新型車なのだ。実際にドライブしてその素性を探ってみた。これでもCセグメント!?
「全方位、予想外。」あるいは「解き放たれた、新種。」という惹句(じゃっく)で好奇心をもたげさせるプジョー408はいったいどんなクルマなのか。読者諸兄もそうでしょうけれど、今回、初対面の筆者も大いなる興味をもって試乗に臨んだ。
まずもって、408はプジョー初のファストバックシルエットを持つ、Cセグメントの頂点のクロスオーバー、と位置づけられている。少なくとも、つくり手のプジョーはそう定義する。
Cセグメント!? 全長が4700mm、ホイールベースが2790mmもあるのに? Cセグの代表格の「フォルクスワーゲン・ゴルフ」は全長4295mm、ホイールベースは2620mm。「プジョー308」だって4420mmと2680mmである。408はCセグとしては予想外にデカい。
それでいて、パワーユニットは1.6リッターと電気モーターを組み合わせたプラグインハイブリッドと1.2リッター直3ターボの2種で、なるほどCセグである。408が「予想外」の「新種」である。というプジョーの主張にもうなずける。
そのサイズからして、「シトロエンC5 X」の兄弟車であることは疑いない。408の日本仕様のホイールベースは前述したように2790mm、トレッドは前:1600/後ろ:1605mmである。C5 Xは、ホイールベースが2785mmと5mm短いけれど、408の本国仕様の諸元表には2787mmとある。2mmしか違わない。日本の自動車のサイズ表記は5mm単位、ということもある。横着してC5 Xの本国仕様の諸元表は確認していないのですけれど、同じでしょう、おそらく。トレッドは両車同じ。205/55R19のタイヤサイズも同じだ。本国の408には20インチもあるにしても。
シトロエンに近づいたプジョー
プジョーがシトロエンを傘下に迎えたのは1976年。以来、プジョーとシトロエンはプラットフォームその他を共有しつつ、こんにちに至っている。シトロエンはアバンギャルド、プジョーはコンサバ、というブランドのキャラクターを維持しつつ、どっちかというと、シトロエンがプジョーに近づいてきた、というのがこれまでの歴史だった。これではいかん、と別の道を歩もうとしているのが最近のシトロエンであるとして、ここに至ってプジョーもまた変化しようとしている。それが408なのだ。
ファストバックのクロスオーバーというボディー形式からして、これまでのプジョーからしたら「予想外」。この「新種」はシトロエン方向に近づいてきた初のプジョーと呼べるのではないか、と私は思う。もちろん、その背景にはフツーのセダンが売れなくなった、という市場の変化がある。もしかして、すでに自明のことに長文を費やしてしまった……。
さてそこで、いよいよインプレッションに入るわけですけれど、まず申し上げたいのは、新型プジョー408とシトロエンC5 X、同じプロポーションで同じ5ドアのファストバックだというのに見た目が全然違う、ということである。
乗り心地は極めてスムーズ
そんなの見れば分かることですけれど、それを書くのが自動車ジャーナリズムの一面であることもまた事実である。どうですか。C5 Xがどことなくサンショウウオみたいな印象を与えるのに対して、ま、丸いですからね、408は前後の造形がスパッとナイフで切ったみたいにエッジーで、大径ホイールの効果もあって、私にはオスのライオンの立ち姿に見えた。
やっぱりフロントの牙型LEDが効いているのか。あるいは、立て髪のふさふさしたライオンのオスの横顔マークから、ライオンライオンライオンライオン……という念が出ているのか。ともかく、ファストバックのスペシャリティーっぽい、むかしだったら絶対に2ドアクーペで採用されていそうな、アグレッシブなデザインでまとめられている。
走りだして驚いたのは、乗り心地のスムーズさだ。ま、それに尽きますね、408の魅力は。硬くてスムーズ。C5 Xの、とりわけシトロエン独自のソフトでストローク感たっぷりのダンパーを電子制御化した「アドバンストコンフォートアクティブサスペンション」を備える「ハイブリッド」(という車名のプラグインハイブリッド車)の対極にある、といってもよい。
書き忘れていたけれど、今回の試乗車はピュア内燃機関の1.2リッター直列3気筒ターボを搭載する「408 GT」である。これまでのプジョーの例からして、GTを名乗るから硬いのである。首都高速の目地段差を通過すると、垂直方向にショックが入る感じがする。一方で、それを軽くいなして衝撃を和らげている印象もある。当然、いい路面では滑らかで、一般道の悪路、凸凹道でもボディーはフラットに保たれる。ボディーの剛性感も高い。シートがスポーティーな形状で、硬めなこともある。
気になるエントリーグレード
ピュアテック直3は、1.2リッターの小排気量ながら、ターボチャージャーを装着することで、最高出力は130PS/5500rpm、最大トルクは230N・m/1750rpmを発生する。408 GTの車重は1430kgと見た目よりも軽いこともあって、控えめだけれど、十分な動力性能を備えている。決してダルではない。
ダルどころか、近年のプジョーの特徴的な小径ステアリングホイールがもたらすハンドリングはクイック&シャープで、スポーティーな印象をドライバーに与える。試乗を始めた当初、この小径のステアリングのリムがメーターとちょうど重なって、とりわけ速度計が見えないことに困惑した。ところが、あれこれシートを動かして姿勢を変えているうちに、ちゃんと見えるポジションがあることが分かった。ま、実はいつの間にか見えるようになっていて、気にならなくなった、というのが本当のところです。「プジョーi-Cockpit」は不思議に慣れるようになっている。
エンジンはあれば十分で、加速は遅くとも、高速巡航にひとたび入れば、可能な限りの高い速度でえんえん走り続けることができる。というのがフランス車の伝統的長所とされている。その意味では、プジョー408は、予想外ではなくて、想定内かもしれない。
私的に気になったのは、もうひとつの直3モデルの「アリュール」である。408 GTが499万円なのに対して、408アリュールは70万円お求めやすい429万円。受注生産なので試乗はできないかもしれないけれど、こちらはGTよりもうちょっとソフトな足まわりに仕立てられているにちがいない。
(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
プジョー408 GT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4700×1850×1500mm
ホイールベース:2790mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/5500rpm
最大トルク:230N・m(23.5kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)205/55R19 97V XL/(後)205/55R19 97V XL(ミシュランeプライマシー)
燃費:17.7km/リッター(WLTCモード)
価格:499万円/テスト車=508万9715円
オプション装備:メタリックペイント<エリクサーレッド>(8万2500円)/ETC+取り付けキット(1万7215円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1697km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:422.0km
使用燃料:40.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.5km/リッター(満タン法)/12.5km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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