マツダのラージプラットフォーム戦略は成功するか?

2023.08.29 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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多田さんのクルマQ&Aをいつも楽しみにしています。このたび『どんがら トヨタエンジニアの反骨』を拝読し、同著のなかでかつてマツダとも交流があったことを知りましたのでうかがいます。マツダが現在推進している“ラージプラットフォーム戦略”は時流に沿ったものといえるのでしょうか。エネルギーダイバーシティ―やマルチパスウェイが叫ばれるなか、多大な投資に見合う新規FRプラットフォームなのでしょうか。マツダファンなので心配です。

マツダは時に大ヒット作を生みますよね。ただ、私の見立てでは、意図した戦略どおりに製品が売れたことは、あまりないような気がします。初代「ロードスター」を含め、さほど期待されていなかったものが大いに売れてしまったりして……。

そんなマツダですが、やはり会社の規模からいって全方位的に商品を取りそろえて勝負するというのは無理があり、現実的には得意分野に注力するしかない、と思います。

いま自動車はアメリカ市場で売れないとビジネスになりませんから、今回の新戦略も「直6エンジンを載せたクルマをアメリカで売ろう」というのが要点でしょうが、困難な面があるのは間違いありません。アメリカ市場においてはV6かV8で勝負しなければならないはずで、マツダはいまシミュレーションを使ったクルマづくりに取り組んでいますが、その点ではいまからV型エンジンに舵を切るのは難しく、6気筒以上であれば(技術的に直4の延長上にある)直6を選んだほうが確実なわけです。

しかし、直6がファミリーカーにふさわしいかというと、歴史が証明するように、難点はあります。物理的にエンジン長があるため搭載が難しいというのはそのひとつ。近年は技術改良もあって(メルセデスのように)少しは表舞台に戻ってきていますが、ごく一般的なファミリーカーでの使用を前提にすると、相変わらずパッケージ上の疑問は残ります。

そうした観点から、今回のラージプラットフォーム戦略による製品が(特にアメリカの)ユーザーに受け入れられて大ヒットするかというと、そうは思えないところはあるのですが……。これはもう、いいとか悪いとかではなくて、収益を上げるためにはそれしかなかったということでしょう。マツダ経営陣の苦しさがひしひしと伝わってきます。

クルマというのはアパレルと同じで、「当たるも八卦(はっけ)当たらぬも八卦」みたいなところがあって、いくらマーケティング調査に力を入れても、優れた技術を詰め込んでも、売れないときはまったく売れない。クルマの良しあしだけでは決まらない部分があるのです。お客さんのマインドが、どうしても確実には読み切れない。巨額の投資が必要なのに回収は約束されず、売れないからといってアパレルのように「半額セール」というわけにもいかない。非常に恐ろしい産業なんですよ。

いままでのマツダの技術力をもってすれば、ちゃんとした、すばらしい製品はできるのです。ただそれが売れるかどうかは別の話であり、難しいに違いない。当たるかどうか、祈るしかありません。マツダファンの方は、応援してほしいです。

多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。