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【スペック】全長×全幅×全高=3545×1625×1515mm/ホイールベース=2300mm/車重=990kg/駆動方式=FF/1.2リッター 直4SOHC8バルブ(69ps/5500rpm、10.4kgm/3000rpm)/価格=208万円(テスト車=213万円/メタリックペイント(クロスオーバーブラック)=5万円)

フィアット500 1.2 スポーツ(FF/5MT)【試乗記】

安い うまい 懐かしい 2011.01.10 試乗記 森口 将之 フィアット500 1.2 スポーツ(FF/5MT)
……213万円

「フィアット500」に、シリーズ唯一となるMTモデルが追加された。伝統的なトランスミッションは、小さなイタリア車の走りをどのように変えるのか?
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希少で貴重なコンパクト

自動車業界における絶滅危惧種のひとつに、3ペダルのMTがある。とくにスポーツモデルではない輸入車は、2ペダルが当然という空気になっていて、フォルクスワーゲンのようにMTの設定が皆無なブランドさえある。

そんななか、上陸以来「デュアロジック」と呼ばれる2ペダル式の5段MTしかなかった「フィアット500」に、クラッチペダルをもつ伝統的なMTが追加された。
日本仕様の「500」は、1.2リッターSOHC8バルブと1.4リッターDOHC16バルブの2つのエンジンに、ベーシックな「ポップ」、その名のとおりの「スポーツ」、ラグジュアリーな「ラウンジ」の3グレードを組み合わせていたが、1.2のスポーツだけが存在しなかった。それがMTとともに登場し、ラインナップを完成させたというわけだ。
エンジンのチューニングは従来と同じで、最高出力69ps、最大トルク10.4kgmとなる。5段MTのギア比は、ファイナルを含めてデュアロジックと共通。990kgの車重は同じエンジンを積むポップとラウンジの中間だ。

208万円という価格にも注目したい。MTのヨーロッパ車でいちばん安いからだ。従来その座にあったのは209万8000円の「ルノー・ルーテシア 1.6」だった。次に位置するのは同じルノーの「カングー」で219万8000円、そして「MINI ONE」の219万9000円と続く。
しかし他の3台が1.6リッターなのに対し、500のエンジンは400cc小さい。同じ3ペダルMTでも、この差が走りに違いを生み出していた。

日本で買える「フィアット500」の中で、MT仕様はこちらの「1.2 スポーツ」だけ。センターコンソールから、大きな球形のノブが生える。
日本で買える「フィアット500」の中で、MT仕様はこちらの「1.2 スポーツ」だけ。センターコンソールから、大きな球形のノブが生える。 拡大
アイドリングストップ機構も備わる、1.2リッターエンジン。1.4リッターモデルには、同機構は付かない。
アイドリングストップ機構も備わる、1.2リッターエンジン。1.4リッターモデルには、同機構は付かない。 拡大

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自然なのがいい

街中での加速は問題ない。せいぜい3000rpmも回せば流れをリードできる。エンジンの吹け上がりがスムーズで、全域にわたって静粛性が高いので、思った以上に余裕があるような印象を受ける。
それはデュアロジックでも同じだが、あちらは2ペダルMTといってもシングルクラッチ方式なので、シフトアップ時の減速感が気になるという人もいるだろう。こちらのほうが自然な加速感だと思うユーザーが多いはずだ。

さらに信号待ちでは、アイドリングストップまでしてくれる。これは1.2リッター全車に共通する装備だが、同じシステムを搭載した他のフィアットやアバルトに乗った印象からいえば、クラッチを踏んだ瞬間に再始動を行うMTのほうが遅れ感がなく、スッと発進できる。

スポーツといってもボディとインテリアを走り系にアレンジしたグレードなので、乗り心地はタイヤサイズが共通の「ラウンジ」とほぼ同じだ。作りのいいシートのおかげもあって、硬めだがダイレクトなショックはなく、車格からは想像できないほどの落ち着き感が得られる。

高速道路も静かでスムーズだ。100km/hは5速で約2750rpmに達するから、遮音性がすぐれているのだろう。
直進安定性は軽量小型車らしからぬレベルにある。ところが追い越しや上り坂で、なにげなく右足を踏み込むと、1.2リッターであることを教えられる。ほとんど加速してくれないからだ。4速にシフトダウンすればいい話なのだが、知らない間に大排気量や過給機つきエンジン、そして自動変速機に慣れきっていて、アクセルを開けさえすればいいという短絡的な習慣が身についていたのである。
でも高速道路を降りてカントリーロードを走り始めると、逆にこれこそが自動車本来の楽しさではないかと考え直すようになった。


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シートは、「スポーツ」専用デザインのものが装着される。インテリアカラーは、ブラック×グレーのコンビ(写真)のみ。
シートは、「スポーツ」専用デザインのものが装着される。インテリアカラーは、ブラック×グレーのコンビ(写真)のみ。 拡大
フロントシートをお辞儀させて乗り込む、リアシート。50:50の分割可倒式で、倒せば荷室容量を拡大できる。
フロントシートをお辞儀させて乗り込む、リアシート。50:50の分割可倒式で、倒せば荷室容量を拡大できる。 拡大
画像をクリックするとシートの倒れるさまが見られます
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自分でやるからクセになる

力がないのは同じ。上り下りがこんなに明確にわかるクルマは最近めずらしい。でも道路の曲率や勾配を瞬時に判断してシフトダウン、そして平坦な直線ではシフトアップを繰り返し行いつつ、限られたパワーとトルクを速さに結びつけていく作業に、いつしか夢中になっている自分がいる。

シフトタッチもすばらしい。短いストロークと明確なゲートでカチカチ決まるそれは、ホットハッチの「アバルト500」より上に思えるほどだ。
頭と目と両手両足を総動員して、速さを究めていく。モータースポーツにも通じる世界だ。「自動で走るクルマ」に近づいている最近の自動車のなかで、「500」のMTは数少ない「自分が動かすクルマ」だった。

シャシーのバランスもいい。自然吸気でシングルカムの1.2リッターという軽いエンジンを積みながら、185/55R15のタイヤサイズは1.4と同じ。しかも非力だから、ちょっとやそっとじゃ破綻しない。思い切って遊べる。
最近の2ペダルMTは効率面もすぐれていて、「500」で比べると燃費(10・15モード)はリッターあたり17.2kmに対して17.6km、1kmあたりのCO2排出量は113gに対して110gと、デュアロジックのほうがいい。でもエコ自慢の「フォルクスワーゲン・ポロ」だって124gのCO2を出しているのだから、MTを選んでもバチは当たらないんじゃないだろうか。

その昔、空冷リアエンジンの旧型「500」(もちろんMTだ)で東京〜大阪間を往復したことがある。高速道路では多くのクルマに抜かれたけれど、名阪国道で奈良盆地に入る下りのカーブで、数台を一気に抜き返すことができた。あのときと同じ快感が、今度の500スポーツMTでも味わえそうな気がした。

(文=森口将之/写真=峰昌宏)


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「フィアット500」のホイールサイズは、14インチか15インチ。テスト車は「スポーツ」専用デザインの15インチアロイホイールを装着する。
「フィアット500」のホイールサイズは、14インチか15インチ。テスト車は「スポーツ」専用デザインの15インチアロイホイールを装着する。 拡大
2008年2月に日本デビューを飾ってのち、徐々にファミリーを拡大してきた現行型「フィアット500」。そのいずれにも、エアバッグ類やESPといった安全装備や防犯装置(イモビライザー)は等しく備わる。
2008年2月に日本デビューを飾ってのち、徐々にファミリーを拡大してきた現行型「フィアット500」。そのいずれにも、エアバッグ類やESPといった安全装備や防犯装置(イモビライザー)は等しく備わる。 拡大
森口 将之

森口 将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。

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