フィアット500S(FF/5MT)
気になる存在ではあるけれど 2015.06.15 試乗記 デビューから8年を経ても、唯一無二の魅力は健在? 2気筒ターボに5段マニュアルトランスミッションを組み合わせた「フィアット500S」の試乗を通し、揺るがぬ個性と進化の度合いを確かめた。思い出されるすれ違いの日々
「買いたい! でも買えない……」
今までにフィアット500を目にして、何度その言葉を口にしたことでしょう。
初めて出会ったのは、2007年にこのクルマが登場した頃。こぶりで愛らしいフォルムやオシャレなインテリアは、イタリア車らしい強い個性を放っていました。においこそ新車だけれど、各部に旧車でしか味わったことのないレトロな雰囲気があって、窓ごしに見える景色がセピア色に染まって見えるように感じたんですよね。
ところが実際に運転をしてみると、ノスタルジックな気持ちに浸ってばかりはいられなかった。ボディーや足まわりの頼りなさ、デュアロジックのギクシャクした操作感という点など不安要素が多く、自分の相棒にしようという気持ちにまではなれなかったのです。
本気で「欲しい!」と思ったのは、それから4年たった2011年のこと。2気筒エンジン「ツインエア」が搭載されたフィアット500は、初期のダメっぽさが懐かしく思い出されるほど、しっかり者の超個性派に進化。ドコドコという独特な音とシートから伝わってくる振動にすっかり心まで揺さぶられてしまいました。草ぼうぼうの荒野のなかを走っているみたいなロマンあふれる走りで、それはそれは、深みのあるイイ感じのクルマに成長していました。
ところが、私はといえば半年前に出産したばかり。後席にはチャイルドシートを載せなくてはならないし、今後増えていくであろう荷物対策も考えなければならず。
もちろんフィアット500は4人乗りだし、後席にチャイルドシートを載せることだってできます。でも、クルマで出掛けるたびに、小さな子供を抱きかかえながら助手席を前に倒し、子供をシートに乗せる面倒くささを考えると、腰痛持ちにはハードルが高かった。スペース的にも少々無理があるように思えてしまって。
意のままに操れるMT車の素晴らしさ
そんなわけで、フィアット500のことはすっぱりとあきらめて1年がたったころ、エアコン故障で入退院を繰り返していた「アルファ145」にお別れをして、フランス生まれのコンパクトカー「シトロエンC3」を中古で購入。コンパクトカーながら室内はそこそこ広いし、「ゼニスウィンドウ」という広大なグラスエリアで乗員の気分を明るくしてくれる。フランスの、しかもAT車を迎えたのは初めてでしたが、走りは軽快だし、乗り心地は抜群にいい。仕事柄いろいろなクルマに乗る機会も多いんですが、4年たった今でも「ウチのC3は乗り心地最高!」と感じてしまうんですよ。そういうのって親バカ、いやオーナーバカっていうんでしょうか。
話がそれてしまいましたが、あらためまして、フィアット500Sです。初めて会ったころから何度も私の心を揺さぶってきたあのイタ車クンの、5段マニュアルトランスミッション版ですよね。SPORTSの頭文字である「S」をモデル名に与えてはいますが、外観と内装、そして5MTを載せたことが違うだけで、それ以外は変わりません。ずっと乗ってみたかったんですよね。デュアロジック(5段シングルクラッチ式AT)ではなく、MTを載せたらもっと面白いクルマになるはず、と思っていたので。
その予想はズバリ的中しました。アクセルペダルの操作感はやわらかめ。ボディーはしっかり系だけど足元はまったくガツガツしたところのない癒やし系です。エンジン音がうなるのを聞きながらシフトアップしていくと、思いのほかスムーズな操作感に感動。意のままに操れるMT車ってやっぱり最高に楽しいんです。ターボエンジンならではのスムーズで元気な加速も、このクルマにピッタリです。
他のクルマの個性が薄れていく中で
エコスイッチを切ってスポーツモードに。これまで抑えていたパワーがふわ~っと外へ飛び出すようにあふれ、脱力感にも似た解放感に包まれます。初めてハンドルを握ったころの貧弱な走りから考えると、ものすごくしっかり走れるようになっている。かといってドイツ車のような完璧過ぎるほどの安定感があるわけじゃない。ほんの少し危うさを残したヌケ感のある走りだからこそ、リゾート気分も味わえる。
風切り音はシトロエンC3と比べたら大きいし、ロードノイズも加わって車内に音がこもる感じはあるものの、「だから何よ?」 ツインエアエンジンが出たばかりの頃と比べると、ドコドコという音と振動はかなり抑えられていると感じますが、それも正常進化なんでしょう。個人的には少し薄味になったな、という印象ですが、それを差し引いても、ほかのクルマたちがどんどん無味無臭になっていくなかで、強烈な個性を持ったクルマであることに違いはありません。
「欲しいな~!」と思いました。息子のチャイルドシートはもうすぐジュニアシートに買い換える予定だし、チャイルドシートほどスペースはとりませんしね。
でも、自転車も載せたいし、キャンプにも行きたい。「やっぱり買えないか……」
もう、最初の出会いから8年もたってしまったなんて。8年たってもまだフルモデルチェンジもせず、待っていてくれる(?)このステキなイタ車クンを相棒に迎えられる日は、一体いつになるんでしょ。
でも、自分用にもう1台増車できる余裕がある方、子供が巣立ってもうスペースユーティリティーを考える必要がないという方、そういう方には、ぜひこの楽しさを体感してほしいんです。私だって本当はほしいんですよ~。
(文=スーザン史子/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
フィアット500S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3585×1625×1515mm
ホイールベース:2300mm
車重:1010kg
駆動方式:FF
エンジン:0.9リッター直2 SOHC 8バルブターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:85ps(63kW)/5500rpm
最大トルク:14.8kgm(145Nm)/1900rpm
タイヤ:(前)185/55R15 82H/(後)185/55R15 82H(グッドイヤー・エフィシエントグリップ)
燃費:26.6km/リッター(JC08モード)
価格:231万1200円/テスト車=244万7287円
オプション装備:ボディーカラー<ブルー イタリー>(5万4000円) ※以下、販売店オプション Carrozzeria AVIC-MP33 II(4万5367円)/ETC車載器(1万2960円)/フロアマット(2万3760円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:7735km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:217.6km
使用燃料:15.3リッター
参考燃費:14.2km/リッター(満タン法)/15.3km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |

スーザン史子
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】 2025.10.4 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? -
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.10.9試乗記24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。