シボレー・コルベットZR1(FR/6MT)【試乗記】
ザ・ビースト! 2011.01.05 試乗記 シボレー・コルベットZR1(FR/6MT)……1490万円
「コルベット」の最強バージョン「ZR1」。647psを全力ダッシュさせると、加速Gで脳ミソが押し潰されるような錯覚を覚えて……。
プロレスからアマレスへ転身
同じレスリングでも、会場の雰囲気から選手の立ち振る舞いまで、プロレスとアマレスはまるで違う。先代にあたる5代目(C5)まで、「シボレー・コルベット」はプロレスラー的なスポーツカーだと思っていた。勝ち負けなんかより、興行的に盛り上がるかどうかが大事。ラップタイムや最高速でライバルに劣っても、スポーツカーの華やかさや高揚感で観客(ドライバー)が総立ちになればいい。反対側に位置するのがラップタイムを削ることに命を懸けるクルマで、こっちは勝敗がすべてのアマチュアレスリングの選手だ。
で、個人的には陽気なアメリカンプロレスを観るようなコルベットが気に入っていた。数値で測って速いかどうかよりも、速く走っていると思えることが大事。スポーツマンシップよりもショーマンシップ、殺伐としたリアルファイトでは得られないエンターテインメントの楽しさにあふれている。
それが、現行モデル(C6)になってから様子が変わってきた。ガチンコ勝負でも勝てるスポーツカーを志向しているのだ。スタン・ハンセンやブルーザー・ブロディがアマレスに転身して、オリンピックで金メダルを狙うというか。
その極めつけが今回試乗した「シボレー・コルベットZR1」だ。高性能版コルベットというと「コルベットZ06」が頂点に位置していたけれど、「ZR1」はその上を行くモデル。「Z06」が511psを発生する7リッターのV型8気筒OHVエンジンを搭載していたのに対し、「ZR1」は647ps(!)の6.2リッターV型8気筒OHV+スーパーチャージャーを積む。
何行か前で「金メダルを狙う」と書いたけれど、ZR1はすでに金メダルを獲得している。スーパーカー開発の聖地、ドイツのニュルブルクリンク北コースで2008年当時としては市販車世界最速となる7分26秒4のタイムをたたき出しているからだ。
ZR1とはどれだけゴッツいマシンなのか。スーパーストロングマシン程度か、あるいはザ・ロード・ウォリアーズぐらいか。迷わず乗れよ、乗ればわかるさ、というわけで『webCG』編集部に到着すると、そこで驚くべき光景を目にした……。
市街地では牙を見せない
都心部の狭い駐車場、運転席の窓を下ろして「おはようございまーす!」と爽やかに朝の挨拶をしながら、編集部のW嬢がZR1を表通りに出すところだった。まるで軽自動車でも扱うかのように軽々と運転している。ちなみにZR1はZ06と同じく6MTのみの設定。もひとつちなみに、W嬢は長与千種のような体型ではなく、どちらかといえばミミ萩原的な華奢(きゃしゃ)な女性だ。
W嬢からステアリングホイールを譲り受けて納得。自分で運転するまでは信じられなかったけれど、実に運転しやすいのだ。83.5kgmという巨大トルクに対応するツインディスククラッチは「重い」と「重め」の中間ぐらい。クラッチペダルの作動はすごくスムーズだし、シフトレバーのストローク量も詰められている。これだけのトルクだからアイドル回転からでも気を遣わずにクラッチをミートして発進できるので、都内で信号発進を繰り返すぐらいならイヤにならない。
市街地での乗り心地が悪くないのは「マグネティック・セレクティブ・ライド・コントロール」のおかげだろう。キャデラックに採用されて名を知られるようになったこのダンパーのシステムは、写真キャプションに記したように複雑なメカニズムであるけれど、効果のほどはわかりやすい。これだけの大パワー車であっても、乗り心地がゴツゴツしない。
高速道路を制限速度内で流すぐらいまでだったら2000rpmも回らないエンジンは静かだし、その洗練されたフィーリングは最高性能版というよりは最高級版といった印象。
最近のスーパーカーはどれも、普段使いは上質なスポーティクーペで、ひとたびムチを入れると超絶高性能車に変身するが、コルベットZR1もその例に漏れない。高速道路の料金所でアクセルペダルを踏み込むと、2800〜3000rpmあたりで明確にエンジン音が抜けのよい乾いた音に変わり、オーディオのボリュームのツマミを3目盛りぐらい上げたぐらい音量も高まる。なんて冷静を装っているけれど、そこから先は体験したことのないゾーンだった。
民生用とは思えない加速
「シートに体を押しつけられる」「前方に吸い込まれる」「ワープするような」「景色がコマ送りで流れていく」などなど、強烈な加速感の表現方法はいくつもある。そして、コルベットZR1にはそのどれもがあてはまる。加えて、加速中に「意識がフッと遠くなる」ような感覚を味わった。加速Gで脳ミソが押し潰されて軽い貧血状態になるというか、景色が流れるスピードに目がついていかないというか。2速でも「ギャッ!」と一瞬のホイールスピンを味わって、ハッとわれに返る。
市街地では静かだと思ったことがウソのような爆音と併せて、4000rpmから上での加速感はレーシングマシン的で、民生用の範疇(はんちゅう)を超えている。ただし野獣は野獣でも知的な野獣で、高速での直進性はバッチリだし、コーナーでも安心して踏める。もちろん、そうでなければニュルブルクリンクでのタイムは出ないだろうけれど、一般道ではどこに山の頂があるのか見当がつかないほど限界は高い。ただひたすらオン・ザ・レールで、スパッとコーナーにターンインして猛烈な勢いで脱出する。
基本骨格がアルミで、ルーフとボンネット、それにフロントフェンダーなどがカーボンという特別仕立てのZR-1は、6.2リッターの自然吸気エンジン搭載のノーマル版よりもわずかながら軽量に仕上がっている。1512kgの車重は、ライバルと比べても軽量。同じように6.2リッターのV8を積むメルセデス・ベンツの「SLS AMG」より約200kgも軽いのだ。コーナリング時の切れ味の鋭さは、ボディの軽さと良好な重量配分のたまものだろう。
この値段はお値打ち価格
好みを言わせていただくと、速度を上げた時にもう少しステアリングホイールの手応えがあるほうがうれしい。前輪が路面に食いついているという感触が、やや希薄に思えた。ほかの部分がビシッとしているから、特に気になるというのはあるかもしれない。
ビシッとしている各部のなかで特に感銘を受けたのは、ブレンボ製のカーボンセラミック製ローターがおごられるブレーキのフィーリング。ブレーキペダルに足を置いて少し力を入れた瞬間のソリッドな感触、踏力に比例してじわじわと立ち上がる制動力など、これまで経験したブレーキの中でもベストの1台だ。
といった具合に「シボレー・コルベットZR1」は陽気なアメリカンスポーツではなく、真剣勝負のためにストイックに鍛え上げた乗り物。ノーマルのクーペ版に比べると倍近いお値段だけれど、中身を考えればお買い得と言って間違いないだろう。
個人的には“プロレス感”が残るノーマル版のほうが好みだけれど、そんなたわ言は秒殺してしまうぐらい、「ZR1」は研ぎ澄まされたスポーツカーだった。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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