運転席はあと3年でこう変わる! トヨタが本気で考えているコックピットの未来像
2023.10.30 デイリーコラムジャパンモビリティーショーの説明会で
「私は、バッテリーイーブイが大好きです!」
人数をつぶさに数えたわけではないけれど、まぁ方々から大勢のプレスを集めてのカンファレンスの最中、そのビジョンについて語るのは加藤武郎プレジデント。トヨタのBEV(バッテリーEV)ファクトリーのトップであり、直近まではBYDとの協業においてトヨタ側の最高技術責任者(CTO)の立場にいらっしゃった、言い換えれば「トヨタのBEV出遅れ論調」の矢面に立たされる立場の方です。
朝っぱらから思わずきょとんとしてしまった皆々を前に、ちょびっと周囲を気にしつつ、加藤さんはもう一度、マイクを握ってより大きな声でこうおっしゃられました。
「私は、バッテリーイーブイが大好きです!!」
業務上の緊張もある報道陣の面々も、思わず「ぷひゃー」っと吹き出してしまったその傍らで、へえーっと思いました。途方もない理系脳を持つだろうエンジニアであっても、語彙(ごい)なり感情なりで伝える能力が求められているということもさておき、BEVネタを自虐化してツカミに走るほどの柔らかさが今のトヨタの開発現場にはあるんだなあということに、です。
そのプレスカンファレンスが行われたのは八王子にあるトヨタの東京デザイン研究所。例年であれば東京モーターショー直前にこちらで行われることといえば、展示予定のコンセプトカーの撮影会です。が、今回はそれに加えて「クルマの知能化」にまつわる技術説明や展示がかなり充実していました。くだんの加藤プレジデントのみならず中嶋裕樹 副社長兼CTOなどトヨタの技術系の首脳の顔もうかがえます。
そう、今回から東京モーターショーはジャパンモビリティショー(JMS)へと名を変えて、大手サプライヤーやスタートアップ、異業種等々も参加してのさまざまな技術展示が盛り込まれるのです。“それ的なもの”に特化した「人とくるまのテクノロジー展」は公益社団法人自動車技術会の主催で毎年開催されているのですが、あちらはプロ向けのトレーディングショーの意味合いが濃いのに対して、JMSはブランド認知やリクルーティング的なニュアンスですみ分けることになるのでしょう。そこでトヨタもOEM……というよりは自動車会社として、多くの来場者に未来に向けて考えていることを見たり触ったりしてもらおうと思っているのではないかと想像します。
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キーは左右の液晶パネル
さまざまな展示のなかで面白いなと思ったものをひとつ挙げるとすれば、まったく新しいユーザーインターフェイス(UI)を採用したコックピット環境のモックアップです。座ると目の前に見えるのはヨーク型のステアリングホイール。その向こうに置かれた液晶パネルは、ステアリングホイールの上縁よりも上に臨むことになります……と、このあたりは既に「レクサスRZ」に搭載予定のビジュアルとしてご覧になった方も多いのではないでしょうか。
新しいUIではそのヨーク型ステアリングの左右に小型スマホくらいの液晶パネルが配置されています。その左側はシフト選択やドライブモード切り替えといった走行機能、右側は空調や音響といった快適機能を割り当て、あらかたの機能設定をこの2枚のパネル内で完結させようというわけです。もちろんハザードやブロアーなど緊急性の高いものは独立したスイッチとする前提で、よく見れば2枚のパネルの上縁にはスイッチ的に枠取りされた痕跡も見えていました。
が、ウインカーやワイパーなどは従来のレバーではなくこのデザインに合わせた新しい操作方式を模索しているといいます。
思い出すのはコックピットの操作系を運転席周辺に集めるサテライト化の流行です。1980年代を中心に、「いすゞ・ピアッツァ」や「スバル・アルシオーネ」、「日産フェアレディZ」などが採用したそれは、ちょっとした未来を感じさせてくれたものです。トヨタの新しいUIはそれを液晶パネル化したようなイメージでしょうか。
2026年のレクサス車で現実に
もちろん内包する機能の取捨選択やその呼び出し方、階層の優劣など練らなければならない事案は山積みですし、パネル操作のフィードバックや誤操作のしにくさについても新しい提案が欲しいところです。何より、「そんなん今までどおりでええよ」と言われれば返す言葉もない。どちらかといえば僕もそのクチで、新しいガジェットの操作なんかを覚えるのがチョーめんどくせーと思う年頃になってしまいました。
でも、そのモックアップに座った時、なぜか違和感なくしっくりおさまったんですよね。それは短いリーチであらかたの操作が完了するという身体的理由によるところが大きいのかもしれません。1980年代のサテライトブームの際は、操作系が物理スイッチ以外に考えられませんでしたから空間的限界があったわけですが、今なら手元のこの2枚の画面に無限の機能が詰め込める。その可能性は追求しがいがありそうです。
さらに言えば、センターコンソールや助手席側のモニターを通して接するインフォテインメントなどの領域と、この運転席側のUIとは独立系統として構築できるという点。言わずもがな、セキュリティーの観点からみれば外部との接点は最小限にとどめたほうがいいわけです。逆に言えば、操作系統と接点を抑えることで、インフォテインメントの側はサードパーティーなどへの開放も容易になる。こういう点での考え方は、トヨタらしいというか、クルマ屋らしいところです。
このUIの土台となるのはトヨタ傘下となったウーブン・バイ・トヨタが鋭意開発中の車載OS「Arene(アリーン)」ですが、それが真っ先に載るのは2026年の発売を目指すレクサスのBEV「LF-ZC」とされています。このUIも、当然LF-ZCに採用される。Cd値0.2切りを目指して開発中というその姿はJMSの会場で見ることができますが、もし会場に足を運ばれたら、ぜひ展示車の内装や、傍らで実施される「Lexus Electrified VR Experience」でこのUIにも注目してみてください。これが絵空事ではなくて3年先に訪れる未来という見方をすれば、ちょっとドキドキできるんじゃあないかと思いますよ。
そして疑問や感想は、周りにいるだろう説明員にバンバン投げかけてあげてください。ことは早期に仕様確定しなければならないハードではなくソフトの領域ですから、皆さんの意見も反映しやすい。3年後に実車を見ると、それがUIに生かされているかもしれません。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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