アルファ・ロメオ・トナーレ プラグインハイブリッドQ4ヴェローチェ(4WD/6AT)
大人のハンドリングマシン 2023.11.08 試乗記 ステランティスグループのなかで、いち早くEVブランドへの移行を打ち出したアルファ・ロメオ。そんな電動化改革を推進するイタリアの名門が初めて市販化した「トナーレ」のプラグインハイブリッド車(PHEV)で郊外に向かった。電動アルファの走りやいかに。名門の強みをフル装備
毎月のように新しいコンパクトSUVが発表されるご時世ではあるけれど、トナーレはライバルたちに埋もれることなく、パッと見た瞬間にアルファ・ロメオだとわかる。
2002年のジュネーブモーターショーでお披露目されたコンセプトカー「ブレラ」を思わせる片側三眼のヘッドランプ、逆三角形のフロントグリル、そしてミラノの紋章とヴィスコンティ家の家紋を組み合わせたエンブレム。この3点セットで、有無を言わせずにアルファ・ロメオだと理解させるあたり、名門は強い。ちょっとズルい、と思う。
正式なミラノの紋章は、赤十字の上に王冠、下に月桂(げっけい)樹が描かれているから、赤十字だけのアルファ・ロメオのエンブレムは「ミラノの紋章」ではなく「ミラノの旗」と書くほうが正確ではないか、という意見もある。というようなささいなことを、いいトシをした大人が真剣に語り合えることもまた、名門の強みだ。
すでに報道されているように、ステランティスという巨大な自動車メーカーのなかで、アルファ・ロメオというブランドがまずフル電動化に向けて舵を切ることが決まっている。その第1弾がトナーレで、日本市場にはまずマイルドハイブリッドシステムを搭載したFFモデルが導入された。
続いて日本にやって来たのが今回試乗するプラグインハイブリッドシステムを搭載する4輪駆動モデル「トナーレ プラグインハイブリッド」だ。アルファ・ロメオにとって外部充電システムを備えた市販車はこれが初だという。
アルファ初のSUVとして鳴り物入りでデビューした「ステルヴィオ」は全長が4690mm、ホイールベースが2820mmだったけれど、トナーレはそれぞれ4530mmと2635mm。サイズが異なるだけでなく、ステルヴィオがエンジン縦置きのFR用プラットフォームを採用したのに対して、トナーレはエンジン横置きのFF用プラットフォームだから、クルマとしてのキャラもかなり違うことが予想される。で、キャラの違いは意外なものだった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
EV走行は実質50kmぐらい?
「モントリオール グリーン」という、長年のアルフィスタにはたまらない名称のボディーカラーは、鮮やかなだけでなく深みもあって、とても気に入る。釈迦(しゃか)に説法かもしれませんが、付け加えれば1970年に発表された「アルファ・ロメオ・モントリオール」は、1967年のモントリオール万博にプロトタイプを出展したことからこのネーミングとなった。
運転席に座ると、メーターパネルにひさしがあるクラシックな雰囲気と、液晶センターパネルのイマっぽさが同居している。エンジンとモーターが同居しているように、インテリアも古い世界から新しい時代への過渡期だ。ステアリングホイールのスポーク部に備わるスターターボタンを押すと、音もなくシステムが起動した。
Dレンジに入れてスタートすると、できるだけEV走行をしたいというクルマ側の意思がひしひしと伝わってくる。ちょこっとアクセルペダルを踏むぐらいだとエンジンは眠ったままで、モーターの力だけで粛々と加速するからだ。フル充電であれば72kmをEV走行でまかなうとのことで、後で試してみたところその7割程度、つまり50kmぐらいはモーターだけで走ることができそうだ。EV走行での最高速度は135km/hだという。
アルファ・ロメオのほかのモデルと同様に、走行プログラムを3種類から選択できる「アルファDNAドライブモードセレクター」が備わる。「D(ダイナミック)」は常にエンジンがスタンバっているアグレッシブなモード。「N(ナチュラル)」はできるだけEV走行を優先しつつ、電気が足りなくなったり加速力が必要になったりしたときにエンジンが起動するハイブリッドのモードで、これがデフォルト。そして「A(アドバンスドエフィシェンシィー)」はEV走行モードだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
エンターテイナーの資格もあり
デフォルトのNモードでは、洗練されたパワートレインという印象を受ける。最高出力180PSを発生する1.3リッター直4ターボエンジンと同45PSのモーターが前輪を駆動し、最高出力128PSのモーターが後輪を駆動するけれど、EV走行中にエンジンが始動しても、気になるようなノイズも振動もない。
1.3リッターエンジンにはBSG(ベルト駆動スターター・ジェネレーター)が組み込まれていて、センターのタッチスクリーンをエネルギーフローが示される画面に切り替えると、エンジンが働いたり休んだり、バッテリーに電気を蓄えたり、あるいはモーターがバッテリーの電気を消費したりと、目まぐるしく状況が変わっていることがわかる。ただしこの画面を見なければ、静かで滑らかに必要にして十分以上のパワーを発揮する、上品なパワートレインである。
とはいえ、上品であることは認めるものの、パンチがないのもまた事実。このブランドのプロダクトをお求めになる方は、それだけじゃ満足しないはずだ。
そこでDモードに入れると、シュンとエンジンが始動して、電子制御式のダンパーもグッと引き締まって、ファイティングポーズをとる。このモードだと、極低回転域ではモーターが、中高回転域ではエンジンが、それぞれ主役となる。結果として、低回転域では小気味よいピックアップ、中高回転域では伸びやかな加速フィールが味わえる。燃費だけでなく、ドライバーを楽しませるエンタメ性も持ち合わせている。
ただひとつ、「エンジンの咆哮(ほうこう)」とか「エキゾーストノート」と呼ばれるようなものは期待できないけれど、そこは仕方がないと割り切るほかないだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
経済性だけなら選択肢はほかにもある
シフトセレクターの手前に位置する、「e-Save」というスイッチを押すと、センターパネルにバッテリーの充電レベルを引き上げることと、エンジンを使ってバッテリーに充電するという趣旨のメッセージが表示される。実際、このモードで走ると、少しずつEV走行が可能となる距離が増えていく。深夜に帰宅する際や、静かなキャンプ場に乗り入れるときのために、あらかじめ電気を蓄えることができる。
ただし、なんのかんの言っても、このクルマが一番“らしい”と感じたのは、ワインディングロードに足を踏み入れたときだった。ただし、同門のステルヴィオが背の高いスポーツカーみたいだったのに対して、トナーレのPHEVはもう少ししっとりと走る。車格からいくと逆じゃないかと思われそうだけれど、スムーズに外輪を沈み込ませながら、きれいなコーナリングフォームでコーナーをクリアするトナーレのほうが大人だ。
トナーレ プラグインハイブリッドのほうが大人っぽいふるまいを見せる理由は、フロアに大きくて重いバッテリーを積む、PHEVの構造によるものだと思われる。実際、車重は1880kgに達している。
ステアリングホイールの手応えも良好だし、ステアリングホイールを切ったときに、ノーズが喜んで向きを変えるように感じるのもうれしい。よくしつけられたプラグインハイブリッドシステムのおかげで静かで滑らかだから、小さなプレミアムSUVという使い方ももちろんできるけれど、やっぱり山道に入るとうれしくなってしまうような人に向いているように思う。大人のハンドリングマシンだ。
1971年の新聞広告で使われた「アルファ・ロメオ1750GTベルリーナ」のキャッチコピーは、次のものだったという。「経済性だけで選ぶならチョイスはある。でもハンドリングで選ぶならアルファ・ロメオ」。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・トナーレ プラグインハイブリッドQ4ヴェローチェ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4530×1835×1615mm
ホイールベース:2635mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.3リッター直4 SOHCターボ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:180PS(132kW)/5750rpm
エンジン最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/1850rpm
フロントモーター最高出力:45PS(33kW)/8000rpm
フロントモーター最大トルク:53N・m(5.4kgf・m)/8000rpm
リアモーター最高出力:128PS(94kW)/2000rpm
リアモーター最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/2000rpm
システム最高出力:280PS(206kW)
タイヤ:(前)235/40R20 96V/(後)235/40R20 96V(ピレリ・スコーピオン)
燃費:14.1km/リッター(WLTCモード)
価格:740万円/テスト車=758万6450円
オプション装備:ボディーカラー<モントリオール グリーン>(13万2000円) ※以下、販売店オプション ETC2.0車載器(5万4450円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3579km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:243.6km
使用燃料:15.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:15.7km/リッター(満タン法)/17.7km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
プジョー3008 GTアルカンターラパッケージ ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2025.9.22 世界130カ国で累計132万台を売り上げたプジョーのベストセラーSUV「3008」がフルモデルチェンジ。見た目はキープコンセプトながら、シャシーやパワートレインが刷新され、採用技術のほぼすべてが新しい。その進化した走りやいかに。
-
ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT ABS(6AT)【レビュー】 2025.9.20 日本のモーターサイクルのなかでも、屈指のハイテクマシンである「ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT」に試乗。高度な運転支援システムに、電子制御トランスミッション「Y-AMT」まで備えた先進のスポーツツアラーは、ライダーを旅へといざなう一台に仕上がっていた。
-
プジョー408 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2025.9.19 プジョーのクーペSUV「408」に1.2リッター直3ターボエンジンを核とするマイルドハイブリッド車(MHEV)が追加された。ステランティスが搭載を推進する最新のパワーユニットと、スタイリッシュなフレンチクロスオーバーが織りなす走りを確かめた。
-
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】 2025.9.17 最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。
-
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.16 人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。
-
NEW
“いいシート”はどう選べばいい?
2025.9.23あの多田哲哉のクルマQ&A運転している間、座り続けることになるシートは、ドライバーの快適性や操縦性を左右する重要な装備のひとつ。では“いいシート”を選ぶにはどうしたらいいのか? 自身がその開発に苦労したという、元トヨタの多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
マクラーレン750Sスパイダー(MR/7AT)/アルトゥーラ(MR/8AT)/GTS(MR/7AT)【試乗記】
2025.9.23試乗記晩夏の軽井沢でマクラーレンの高性能スポーツモデル「750S」「アルトゥーラ」「GTS」に一挙試乗。乗ればキャラクターの違いがわかる、ていねいなつくり分けに感嘆するとともに、変革の時を迎えたブランドの未来に思いをはせた。 -
プジョー3008 GTアルカンターラパッケージ ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2025.9.22試乗記世界130カ国で累計132万台を売り上げたプジョーのベストセラーSUV「3008」がフルモデルチェンジ。見た目はキープコンセプトながら、シャシーやパワートレインが刷新され、採用技術のほぼすべてが新しい。その進化した走りやいかに。 -
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな
2025.9.22カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている? -
世界中で人気上昇中! 名車を生かしたクルマ趣味「レストモッド」の今を知る
2025.9.22デイリーコラム名車として知られるクラシックカーを、現代的に進化させつつ再生する「レストモッド」。それが今、世界的に流行しているのはなぜか? アメリカの自動車イベントで盛況を目にした西川 淳が、思いを語る。 -
ランボルギーニ・ウルスSE(前編)
2025.9.21思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ランボルギーニ・ウルスSE」に試乗。時代の要請を受け、ブランド史上最大のヒットモデルをプラグインハイブリッド車に仕立て直した最新モデルだ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。