ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ(6MT)
ヒマラヤから世界へ 2023.12.27 試乗記 ロイヤルエンフィールドのアドベンチャーモデル「ヒマラヤ」が、いよいよフルモデルチェンジ。おひざ元であるインドの山岳地帯で試乗した新型は、素性のよさを確かに感じる、グローバルなアドベンチャーモデルへと進化を遂げていた。“ヒマラヤらしさ”はそのままに
すべてが新しくなったのに、そこここにヒマラヤらしさがある。それが、新型ヒマラヤの試乗を終えての感想だった。
エンジンをかけた瞬間から、なにもかもがスムーズでジェントル。出力が20%ほどダウンする標高2000~3000mという高地での試乗だったが、4000rpmも回せばワインディングでスポーツライディングが楽しめるほどに、エンジンパフォーマンスは高い。すべてが新しくなったエンジンは、最高出力は約60%増しの40PS、その発生回転数は約25%高い8000rpmと、旧ヒマラヤと比べると大幅なパワーアップと高回転化を実現している。したがって、各ギアでレッドゾーンまで引っ張れば、胸のすくような加速をみせる。一方で、最大トルクも約25%アップの40N・mまで引き上げられており、かつその約90%を3000rpmで発生させられる。このトルク特性を生かせば、回転を引っ張らずに早め早めにシフトアップしていくこともできるし、そうしてトルクに乗せて加速していくほうが、実のところ気持ちよく、速い。
また、そのエンジンをフレームの一部として利用する新しいツインスパーフレームも軽量でコンパクト。長いスイングアームを確保しながら、前後重量配分48:52というほんの少し後ろ寄りの重心とするために、ホイールベースは1510mmと旧ヒマラヤから45mmも延ばしている。ホイールベースが延びたことでハンドリングはゆったりとなったが、それはロングツーリングやオフロード走行といった、あらゆるコンディションで使用されるアドベンチャーモデルとしては好感が持てるフィーリングだ。
オンもオフもお任せあれ
もちろん、積極的なライディングが楽しめないというわけではない。オンロードでよりスポーティーな走りを堪能したいなら、動きのいい前後サスペンションをしっかりと伸縮させる、メリハリの利いた走りを意識すればいい。それでもS字のように切り返しが連続する場面では、フロントタイヤが狙ったラインより外側に出てしまうが、そんなときも意識的にハンドルを操作すればラインを修正することができる。オフロードバイクでワインディングを攻める、あの感覚だ。
さらにオンロードでのスポーツ性を高めたいなら、シート下のストッパーの位置を変えて、シートの高さを20mm高くすればいい。足つき性は多少損なわれるが、たった20mmライダーの着座位置が高くなっただけで、より荷重の変化を感じ取れるようになり、左右の切り返しが軽くなる。逆にオフロードなどで、ライダーが両足をしっかり地面について車体を支えながら前進したい場合は、825mmの標準シート高を選んで安心感を高めることもできる。
また新型ヒマラヤは、先述の新エンジンを前傾させ、ライダー側に寄せて搭載したことでエアクリーナーボックスを燃料タンク下の中央に配置。マスの集中化と良好な足つき性により、手だれからビギナーまで、幅広いライダーが楽しめるオフロード性能も持ち合わせている。旧ヒマラヤにもオールラウンダーの片りんはあったが、新型ではそのすべてがより洗練され、アップグレードしたのだ。それによって、林道マシンにもオンロードで快適なツーリングバイクにもなる。オールマイティーな単気筒バイクに進化したといえるだろう。
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“お初”の技術がそこかしこに
そもそもロイヤルエンフィールド(以下RE)のヒマラヤは、普段はスクーターに乗っている人でも気軽に、そして確実に、インド人ライダーの聖地ともいえるヒマラヤの山々を巡れるようにと開発されたバイクだ。その使命を果たすため、車体はシンプルで、軽量で、コンパクトであることを前提に、必要最低限のスペックで構成されていた。
新型ヒマラヤは、そうしたバイクのコンセプトは受け継ぎつつ、エンジンやフレーム、サスペンション、そしてエルゴノミクスを進化させ、グローバルなミドルサイズアドベンチャーのマーケットで存在感を高めるために開発された。多くのメーカーが800~1000ccクラスのアドベンチャーをイメージリーダーに据え、その弟分としてオンロードツーリングに軸足を置いた400ccクラスのモデルをラインナップするのに対し、REはこのカテゴリーのトップモデルとして、中量級のヒマラヤを位置づけている。他のメーカーとはアプローチが大きく異なるのだ。「シェルパ450」と名づけられた排気量452ccの水冷DOHCエンジンや、ライド・バイ・ワイヤ、ライディングモードセレクター、リンク式リアサスペンションと、REにとって初の技術がそこここに取り入れられていることが、その証拠といえるだろう。国産メーカーを中心とした最新モデル群を見渡せば、RE初というそれらの技術も、決して珍しいものではない。が、いたずらに新しさを求めず、コストも鑑み、本当にライダーにメリットをもたらすものかを慎重に吟味するREが、ここまで多くの初物を新型ヒマラヤに搭載してきたのには驚いた。
「ピュアモーターサイクル」(バイクが本来持つ楽しさ)と「アクセシビリティー」(エンジンの排気量や出力特性、車体構成や価格といったあらゆる角度から見た取っつきやすさ)という、2つのコンセプトを追求して購入障壁を下げることを開発の大前提とするREは、倒立フォークの採用すら2023年に入ってからだった。
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世界基準へと脱皮を図る
もちろんこれは、REが海外市場での売上比率を上げるために本腰を入れた証拠ともいえる。2022年は約80万台を売り上げたREだが、今もその90%近くをインド国内での販売が占めているのだ。また近いうちに年間100万台を達成し、さらにその上をも目指すと豪語するREだが、そのかたわらではハーレーダビッドソンやトライアンフ、ホンダなど、多くの二輪メーカーが、彼らのホームであるインドの中間排気量市場に参入。シェア拡大を明言している。こうしたなかで、さらなる成長を果たすためには、前項で触れたコンセプトは維持しながらも、ライバルたちと足並みをそろえる必要もあるだろう。
加えて、ヒマラヤが属するアドベンチャーカテゴリーは、大排気量車が頂点に君臨する一方で、その実はユーザーの嗜好(しこう)の変化や高年齢化によって、ダウンサイジング化が進んでいる。それ自体はREにとって悪くない潮流だろうが、大排気量マシンであまたのハイテクを経験したユーザーを納得させるには、素材のよさだけで勝負するのは心もとない。新型ヒマラヤの革新の背景には、そういう考えもあったのだろう。だったらクルーズコントロールやグリップヒーターなど、もう少し快適装備を追加してもよかったのではないか? とも思ってしまうが、まぁそれだけ新型ヒマラヤは素材のよさが際立っていた、ということである。
……などとここに書いたところで、「EICMA」(ミラノモーターサイクルショー)でのアンベール時にREのB・ゴビンダラヤンCEOが、そして当試乗会のプレスカンファレンスでアイシャー・モーター(REの親会社)のシッダールタ・ラルCEOが、ともに新型ヒマラヤを「ブルース・リーのようなバイク」と表したことを思い出した。
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狙うはジャイアントキリング
ブルース・リーといえば往年のハリウッドで活躍したアクションスターであるが、ゴビンダラヤン氏とラル氏は、「リーは引き締まったカラダで機敏に動き、対峙(たいじ)する筋骨隆々の大男たちをバッタバッタと倒していく。見た者を圧倒する大きなカラダや筋肉は、リーの前では無力であり、さほど意味がない」と語った。
こんな例え話をするというのは、REが、今や自らがアドベンチャーカテゴリーの一角をなす存在であると自覚していることの表れだろう。彼らのいう“大男”とは大排気量のアドベンチャーバイクであり、そのオーナーやオーナー予備軍を、新型ヒマラヤで振り向かせる自信があるということだ。また渡米してスターとなったブルース・リーの例えからは、ヒマラヤ山脈という特殊な場所での走りに特化した、その名もヒマラヤというバイクが、世界のオフロードを見据えたモデルになったという自信もうかがえる。
それを踏まえて試乗での印象を振り返ると、新型ヒマラヤはREが見据えたポジションにたどり着いたのではないか。標高3000mで、あんなにも楽しめるのだから。
(文=河野正士/写真=高島秀吉/衣装協力=クシタニ/編集=堀田剛資)
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2245×852×1316mm
ホイールベース:1510mm
シート高:825/845mm(調整式)
重量:196kg
エンジン:452cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:40.02PS(29.44kW)/8000rpm
最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/5500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:--円

河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
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