「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の誕生から50年 クルマのメートル原器はいかに進化してきた?
2024.02.07 デイリーコラム1974年に初代「ゴルフ」が誕生
「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の歴史が2024年で50周年を迎える。現在のフォルクスワーゲン、そしてさらにはフォルクスワーゲン・アウディグループという巨大なアライアンスを見ると信じられないことかもしれないが、彼らにも困難な時代というものがあった。
1930年代にフェルディナント・ポルシェ博士によって生み出された「ビートル」こと「タイプ1」は、ドイツ・ウォルフスブルクの本社工場で1970年代まで生産し続けられたが、その旧態化の激しさと販売不振でフォルクスワーゲンを経営難に追い込んでいた。参考までにフォルクスワーゲン車のドイツ国内でのシェアは、1962年に45%だったものが、ビートルの生産が末期を迎えた1972年には26%にまで落ち込んでいる。後継車の開発に多額の資金を要したのも経営を大いに圧迫する理由となっていた。
このような状況下でフォルクスワーゲンは、まずビートルの後継車を生み出すことに腐心。そして車種バリエーションの拡大を狙ってさまざまな新型車プロジェクトを立ち上げる。後にゴルフとネーミングされるコンパクトハッチバックプロジェクト「EA266」もそのひとつだった。EAとはフォルクスワーゲンが開発コードに用いる「Entwicklungsauftrag」の意で、このEA266にはリアミドに1.6リッターの直4エンジンを横倒しにして搭載するという、ポルシェによる独創的なアイデアが採用された。しかし、フォルクスワーゲンは結果的にそのプランに同意することはなく、50台が製作されたプロトタイプのうち2台を残して、ほか全車を廃棄するに至ったという。
新たに「EA337」のコードネームで進められたビートルの後継車開発は、1970年にかのジョルジェット・ジウジアーロにデザインが委ねられることになった。当時シャープなライン構成と平面を強調した「折り紙デザイン」を特徴としていたジウジアーロの作品は、EA337、すなわちゴルフのようなコンパクトな実用車には最適な造形。さらにフロントにエンジンを横置きし、前輪を駆動するという理想的かつ効率的なパッケージングが実現された。
1974年、ビートルから一気に機能性と走りの性能を高めた初代ゴルフが誕生した。それが世に与えた影響は大きく、以来ゴルフはコンパクトクラスのハッチバック車として、新車開発時には常にそのベンチマークとして他社に意識される存在となったのだ。
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多くのフォロワーを生み出す
初代ゴルフが新たにつくり出したものをひとつ挙げるとすれば、それはクラスを超えたスポーツ性だろうか。1975年に発表された「GTI」はその象徴的な例と紹介したいところだが、実際にホットハッチの歴史をさかのぼれば、それ以前にも1967年にはシムカが「1100Ti」を、1970年にはさらに高性能な「1024スペシャル」を発表しているし、アウトビアンキの「A112アバルト」も1971年のデビューである。
それでもゴルフGTIがホットハッチの原型だと考えられているのは、そのアグレッシブな外観や当時流行の先端にあったデザインによるスマートなインテリア、そして最初に搭載された112PS仕様の1.6リッター直4モデルでさえ872kgという軽量さを誇り、スポーティーな走りを実現していたからだろう。そして圧倒的な人気によって販売台数は加速度的に増え、それに応えるように後期型の1.8リッター仕様では、さらに走りが魅力的になった。
1983年に誕生した2代目ゴルフは、現在でも多くのファンから高い評価を得るモデルだ。初代ゴルフが誕生したときには数少なかった前輪駆動のハッチバック車だが、気がつけばゴルフが最初のモデルチェンジを迎えたときには多くのライバルがこのFFの基本設計を導入していた。「オペル・カデット」や「フォード・エスコート」、ローバーは同じ1983年に「マエストロ」を新規導入し、プジョーも「309」で1980年代半ばにはこのクラスに参入を果たす。ゴルフの影響力はそれほどまでに大きかったのだ。
高級・大型化路線を推進
1990年代に、ゴルフは2回フルモデルチェンジされている。そこで賛否を分けたのは、ボディーサイズの拡大や高級化路線といった問題で、1997年に発表された4代目ゴルフは確かに外観からも塗装やボディーパネルの組み付け精度などが格段に向上していることがわかる。
一方ボディーサイズを初代モデルと比較すると、この4代目ゴルフは全長で430mm、全幅で125mm、全高でも45mm大きな数字を得るに至った。ホイールベースも115mm延長されており、あらためて見比べるとその成長に驚かされる。そして、次第にこの程度の数字がコンパクトハッチの世界でも珍しくないものになってしまったのだ。それはCセグメントの定義はわれわれが決めるのだと言わんばかりにである。
5代目、6代目、7代目のゴルフは、それぞれ2003年、2008年、2012年にデビューした。ボディーは5代目でさらに大型化され、ホイールベースが60mm延長されたことで後席の居住性が格段に向上した。メカニズム的にも直噴のFSIエンジンやシリーズ途中からはデュアルクラッチ式のDSGが採用されるなどその進化は大きく、サスペンションにもマルチリンクを使用することで快適性をさらに高めてきた。
6代目のゴルフでもボディーの大型化傾向は止まらなかった。ホイールベースこそ先代から不変だったものの、全幅は30mm拡大。ゴルフはどこまで立派になるのかが話題になり始め、それは当然ライバルメーカーでも大きな議論になっただろう。
それに続く7代目のゴルフは、これまでのプラットフォームを生産効率向上や部品点数の削減、走行性能アップなどさまざまなメリットを持つ新型のモジュラートランスバースマトリクス、すなわち「MQB」へと進化させた。
その効果は想像していたとおりに大きかった。高張力鋼板を広いエリアで使用し、7代目ゴルフは極めて高い剛性と安全性を得ることに成功した。走りの高級感や最新の運転支援システムを導入したことも話題となった。
そして初代モデルの誕生から45年、それに続く8代目のゴルフが市場へと投入され、生誕50周年を迎えた現在は、すでにそのビッグマイナーチェンジ版、ゴルフ8.5ともいうべき新型がドイツ本国で発表された。最新モデルで注目すべきキーワードはもちろん電動化であり、運転支援システムのさらなる進化であることは間違いないところだろう。
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SUVブームのなかでも確かな存在感
ドイツ本国で2024年1月24日に発表された8代目の改良型でまず目を引くのは、基本的なシルエットはそのままに、さらにディテールの造形を見直しブラッシュアップされたエクステリアデザインと、上位グレードで12.9インチサイズの大型タッチディスプレイを装備し、一気に未来的な雰囲気を強めたインテリアの雰囲気だろう。
ちなみに後者はAI、「ChatGPT」の採用により、音声操作などがさらにスムーズに行えるよう、その機能性に改善が施されている。同時にステアリングホイール上のスイッチも、タッチ式からその一部を物理スイッチに変更することで、直感的操作と確実性を高めてきた。
フロントに搭載されるパワーユニットのラインナップを見ると、やはり48VのマイルドハイブリッドやPHEVがそのメインと考えられていることがわかる。エンジンはすべて直4。ベーシックユニットは1リッターの48Vマイルドハイブリッドで最高出力は110PS。1.5リッターの48Vマイルドハイブリッドには2タイプのチューニングが用意され、それぞれ116PS、150PSの最高出力を発生する。
一方PHEVは2タイプの1.5リッター仕様がいずれも改良を受けて204PS、272PSの最高出力を実現。EV航続距離はいずれも100kmと発表されている。
ほかには204PSの2リッターガソリンターボ、116PSと150PSの最高出力を発生する2リッターディーゼルターボなどが用意されるが、その一方で伝統のスポーツモデルであるGTI用には新たに20PSのエクストラパワーを得た265PSの2リッター直4ターボエンジンが7段DCTとの組み合わせでデリバリーされることになった。
そしてラインナップのトップに君臨するのは、もちろん「ゴルフR」だ。実車の披露は今年の中盤に計画されているようだが、専用チューンの2リッター直4ガソリンターボエンジンの最高出力は320PSにまで向上。最新の4WDシステム「4MOTION」によってそのパワーは常に最適な比率で4輪に伝達されるという。
SUVのブームが続くなか、ハッチバックとワゴンの両ボディーで、さらなる市場の拡大を担うゴルフ。その機能性や運動性能はパッケージングの巧みさにあるということを、世界の自動車メーカーに意識させた、これぞまさにベンチマークと表現するにふさわしい一台といえるだろう。
(文=山崎元裕/写真=フォルクスワーゲン/編集=櫻井健一)
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山崎 元裕
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