第776回:アナタの街を技術革新で活性化! ホンダのマイクロモビリティー体験会から交通の未来を思う
2024.02.07 エディターから一言AIを積んだ自動走行モビリティーが街を走る
本田技研工業は2024年2月1日、“人とわかり合える独自のAI”である協調人工知能「ホンダCI(Cooperative Intelligence)」を搭載した「ホンダCIマイクロモビリティ」の一般向け実証実験を、2月半ばより茨城県常総市の「アグリサイエンスバレー常総」で開始すると発表した。それに先立ち、先行公開というかたちで報道陣向けに体験会が開かれたので、その様子をお届けする。
まずこの実証実験は、実際にモビリティーを利用したユーザーからのフィードバックをもとにCIを進化させ、モビリティーの使い勝手を向上させるとともに、2030年ごろの実用化を見据えて需要の醸成を図ることを目的としている。実験の主体となるのはホンダの研究開発子会社・本田技術研究所だ。2022年7月に常総市と締結した「AIまちづくりへ向けた技術実証実験に関する協定」によって、同年11月に技術実証実験を開始。歩車共存エリアでの自動走行や、一般車両との譲り合いによる交差点の自動通過などの技術を実現してきた。
常総市での実証実験に使用されている機材は、搭乗型マイクロモビリティー「CiKoMa(サイコマ)」と、マイクロモビリティーロボット「WaPOCHI(ワポチ)」で、「地図レス協調運転技術」と会話やジェスチャーによる「意図理解・コミュニケーション技術」を用いた自動走行技術、ユーザー追従・先導走行機能を持っている。
ちなみに両車の名前の由来は、サイコマが“CIの仔馬”の意。人を乗せる馬という意味だけでなく、テストコースのある地域がもともと板東の武者が馬を訓練する場所であったことにも関係しているのだとか。またワポチは、“ウオーキングサポート・ポチ(犬の名前によくあるポチ)”で、「歩く人の前後を、荷物を持ちながら犬のようにうれそうについてきてくれるロボット」ということらしい。
歩行者やクルマを検知して自動で停車・再出発
最初に乗ったサイコマは、一人から数人までの乗員数を想定した、電動マイクロモビリティーだ。必要なときに呼んで乗車し、任意の場所で降車する、ラストワンマイルの移動での使用を想定している。実証実験が行われるのは、アグリサイエンスバレー常総内の「道の駅常総」から観光農園「クランベリー大地」までの約850mで、そこは歩行者や自転車が絶えず通過し、一般車と交差する場所もある複雑なエリアだ。
利用者は、スマホより小さくスマートウオッチより大きなサイズの電子デバイスを腕に装着。音声で「〇〇で待っているよ」などと指示すると、すぐにサイコマが迎えにきてくれ、手を振るようなジェスチャーをすれば目の前で停車する。乗り込んで「いちご農園に行きたい」などと移動先を告げると、そこに向かって出発。途中で寄りたい場所を見つけたら「ここで止まって」と指示ができるし、そこが交差点の近くなど危険な場所であれば、付近の別の停車ポイントを提案してくれる。また、前方に歩行者がいると停車してしばらく様子を見たり、駐車場から出てくるクルマを見つけると自動停止し、その通過を見届けたりもする。
乗り込んでみると、ダッシュボードにはボディーの周囲8カ所(前3個、左右2個ずつ、後方1個)に取り付けたカメラから得た情報を表示するモニターが備え付けられており、車両前後の人やクルマの動きに対応して止まったり追い越したり、しばらく待機したりと、常に無理せず安全を考えた動きを選んで移動を続けているのがわかった。
サイコマの移動速度は通常は6km/h以下で、車道では20km/hまで出せるという。現状では安全監視員が同乗しながらの運行となるが、2024年度中に遠隔監視システムを確立し、2025年度中には関係省庁との認可交渉を経て無人自動走行を実現することを目指している。外観はゴルフカートに屋根を取り付けたような簡易的なスタイルでホンダらしいスマートさはないものの、夏ごろには2023年のジャパンモビリティショーに展示されていた2人乗り四輪電動モビリティー「ホンダCI-MEV」も実証実験に投入する予定だという。
高齢者をサポートするモビリティーロボット
もう一台のワポチは、カメラや静脈認証でユーザーを認識・記憶して、徒歩で歩く人についていくマイクロモビリティーロボットだ。移動中は荷物を載せられるので手ぶらで歩くことができ、さらに人混みのなかを先導させることもできるので、通行人にぶつかることなく、高齢者でも楽に歩くことができるようになるという。そのスタイルは、最近ファミレスなどでよく見かける配膳ロボットに似たちょっと愛らしい形で、“頭部”には人の目のような表示部があり、状況に応じてウインクしたり目をつぶったりと、さまざまな表情を見せてくれる。
実際にこれら2台を体験してみると、言語の処理能力についてはかなりのレベルに達しているのが確認できたものの、サイコマのジェスチャー理解力はあと一歩という感じだった。例えば手を振る動作を行っても、同じタイミングでカメラを構えた別の人に反応したり、筆者が手元のデバイスを撮影するために手を挙げたのをストップの指示と勘違いしたりすることがあった。これは、言語に関してはAIにインプットできるデータがすでに膨大にあるのに対し、人間の動きとその意思をひもづける実例のデータが、まだ少ないことを物語っている。それを補っていくのが、一般ユーザーが参加する今回の実証実験から吸い上げられるデータということになるのだろう。
レトロフィット型アプローチに可能性あり
ホンダと常総市が行っている、新たな街づくりの可能性も模索する今回の取り組みは、例えばトヨタの「ウーブン・シティ」のように、ゼロから全く新しい街をつくるという実験都市プロジェクトとは正反対の、今ある街にAI・知能化モビリティーを加えることでそこを活性化していく「レトロフィット型のアプローチ」であることが大きな特徴だ。
2015年の大水害によって甚大な被害を受けた常総市は、そこからは完全に復興しているとはいえ、人口減少や若者の流出、少子高齢化、公共交通機関の脆弱(ぜいじゃく)化、事業の後継者不足など、多くの課題を引き続き抱えている。こうした事例は全国のどの地方都市も同じであり、先端技術を時代に応じた街づくりに転換することが急務となっている。今回のような取り組みが成功例となれば、全国各地に波及し、地方を変えていく力になるはずだ。
(文と写真=原アキラ、本田技研工業/編集=堀田剛資)

原 アキラ
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