スズキ・スペーシア ハイブリッドX(FF/CVT)
これぞスズキイズム 2024.02.13 試乗記 スズキの軽スーパーハイトワゴン「スペーシア」がフルモデルチェンジ。間の悪いことに(?)宿敵「ホンダN-BOX」の新型も登場したわけだが、果たしてスズキはどこまで肉薄しているのか、それとも追いついたのか。ロングドライブを通じて確かめた。頑丈さと広さをイメージ
3代目となったスズキ・スペーシアの見た目は、分かりやすくキープコンセプトである。一足先にモデルチェンジしたN-BOXも、先代とほとんど見分けがつかない程度の変更だった。形を変えなかったのは、前のモデルの評判がよかったからだろう。スーパーハイトワゴンという激戦ジャンルでガチンコ勝負を挑む2台がそろって同じ道を選んだのは興味深い。
似ているとはいっても、デザインモチーフは違うらしい。2代目がスーツケースだったのに対し、今度はコンテナなのだ。ボディーサイドに水平なリブを設けるところは同じだが、頑丈さと広さをイメージさせるコンテナにグレードアップした。道具感ということではテーマを引き継いでいる。上質感をアピールする「カスタム」では意匠の焦点がズレてしまうが、今回試乗したノーマル仕様の「ハイブリッドX」は意図がストレートに伝わってくる。新色の「ミモザイエローパールメタリック」は派手すぎない色合いで、この形と相性がいい。
先代モデルは内装にもスーツケースらしさが持ち込まれていた。「インパネアッパーボックス」のふたにもリブがあったのだ。新型ではボックスではなくオープントレイが採用されていて、リブを設ける場所がない。ユーティリティーに関してはユーザーからの声を反映させて改良するものなので、この形状が支持されたのだと思われる。代わりにインパネボックスの側面やドアトリムに筋が刻まれているものの、前モデルほど内外の共通性は感じられなかった。
トレイの下にあるインパネボックスにボックスティッシュが入るのは2代目と同じ。スペーシアのボリュームゾーンとなる子育て世代にとっては必須の装備なのだ。初代モデルにはオーバーヘッドコンソールに2つ目のボックスティッシュ収納があったが、さすがに過剰だったらしく踏襲されていない。
至るところに収納スペース
ボックスティッシュに限らず、新型スペーシアは至るところに収納スペースが備えられている。すっかりおなじみとなった通称“バケツ”こと「助手席アンダーボックス」はもちろん継承されており、インパネやドア、アームレスト、シートバックなどに少しでもスキがあれば物が置けるスペースをしつらえるのだ。スズキのエンジニアにとっては、収納を充実させることが強迫観念のようになっているのではないかと心配になる。
運転席の前にあるメーターの上にオープントレイが仕込まれていたことにも驚いたが、さらに上を行くのが「フロントドアアッパーポケット」だ。ドアハンドルの上にあるほんのわずかな隙間を利用して、細長い物入れスペースをひねり出している。こんなところに何を入れるのかといぶかしんだが、リップクリームがピッタリはまるサイズなのだという。女性ユーザーからの意見を取り入れたわけで、これこそが本当の“聞く力”である。
後席では、シートバックに備わる「パーソナルテーブル」が新しくなった。スペースを拡大したうえに、タブレットやスマホを立てかけるために3本の溝を設けている。そして、後席のユーティリティーで最も大きなアップデートが「マルチユースフラップ」である。シートの先端部が可動式になっており、位置と角度を変更することで機能を使い分けることができる。「オットマンモード」「レッグサポートモード」「荷物ストッパーモード」の3つだ。
ついに軽自動車にもオットマンが求められる時代になったのか。トヨタの「アルファード/ヴェルファイア」「ノア/ヴォクシー」や「ホンダ・ステップワゴン」といったミニバンではすでに装備例があった。スペーシアは広い車内空間があるから、足を投げ出して乗りたいという気持ちは分かる。ただ、思い切り足を伸ばすと前席シートバックを靴で汚してしまいそうで、あまりリラックスできなかった。
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有用な荷物ストッパーモード
レッグサポートモードは、膝をシートの先端に密着させて姿勢を安定させる狙いだ。一番有用なのは、荷物ストッパーモードだろう。フラップを上向きにして座席に乗せたバッグや買い物かごを落ちないようにする仕組みである。食品などを床に置きたくないという声に応えた機能だが、同じ発想で「ダイハツ・ムーヴ キャンパス」の「置きラクボックス」という先行例があった。まねではつまらないということで、オットマン機能などを追加して多機能にしたのかもしれない。
運転性能について記述するのが遅くなってしまった。試乗コースのほとんどは高速道路とワインディングロード。このクルマにとってはあまり得意ではないステージであり、不公平な扱いになったことに気が引けたのだ。カスタムにはターボエンジンを搭載するグレードがあるが、ノーマル仕様は自然吸気(NA)エンジンだけである。マイルドハイブリッドシステムでモーターを備えているものの、パワー的には少々もの足りない。
低速で走るには十分である。買い物や通勤など近距離の移動がメインだと想定されていて、高速巡航が苦手なのは仕方のないことだ。もちろん普通に走っていればさほど困る場面はないが、合流や追い越しなどで急加速が必要な時に非力さを感じてしまう。山の上り坂では、アクセルを踏み込んでも一定のところでエンジン回転数もスピードも頭打ちになる。
遮音性能を向上させたということだが、高まるエンジン音は容赦なく車内に侵入する。超高張力鋼板の使用率を高めたり骨格構造を見直したりしてボディー剛性を高めているが、ワインディングロードを楽しく走ることは難しい。ロールは抑えられているものの、スピードを上げるとコーナーでは及び腰になる。いや、文句を言うのは筋違いだ。限られたサイズで背の高いクルマがそれなりに安定した走りを見せるのは、とてつもなく高い技術があってのことである。
“絶対王者”に対抗するために
新型スペーシアが目指すのは、ジャンルで一番になることなのは当然だろう。簡単なことではない。そこには“絶対王者”N-BOXの存在があるからだ。4年ほど前になぜN-BOXが強いのかを考える記事を書いたことがあるが、明確な理由が分からなかった。決定的な弱点があるのならそれを克服すればいいのだが、えたいの知れない敵に対抗するのは始末が悪い。
試乗の後で、たまたまN-BOXにちょい乗りする機会があった。同じNA仕様である。動力性能では、はっきりとN-BOXにアドバンテージがあった。街なかの低速走行でも、余裕の差は歴然としている。アクセルを踏み込まなくてもN-BOXはスルスルと走っていくのだ。同じNAと書いたが、最高出力は大きく異なる。スペーシアの49PSに対しN-BOXは58PS。燃焼効率を高めたというスペーシアのR06D型エンジンは、燃費を向上させることに重きを置いている。
比べてみると、N-BOXの弱みもすぐに分かった。すっきりとした内装でシンプルな美しさがあるが、デザインを優先してユーティリティーは二の次という印象なのだ。リップクリーム入れがないのはいいとして、前席アームレストにすら収納がない。同じジャンルであっても、考え方はまるで違う。この2台はターゲットとしているユーザー層が異なっているのだと感じられた。
新型スペーシアの内外装は、以前より質感が高まっている。普段見えない部分にはコストダウンの痕跡も認められたが、それは悪いことではない。実用的で良質なクルマを安価に提供するのがスズキイズムである。強力なライバルに立ち向かうのに、正面からぶつかるのでは分が悪い。ユーザーの心をつかむために、異なる哲学で勝負する。その心意気やよし。スーパーハイトワゴンというジャンルに活気をもたらしているのは、開発者たちの志と信念が込められた多様性なのだ。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
スズキ・スペーシア ハイブリッドX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1785mm
ホイールベース:2460mm
車重:880kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:49PS(36kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:58N・m(5.9kgf・m)/5000rpm
モーター最高出力:2.6PS(1.9kW)/1500rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC350+)
燃費:23.9km/リッター(WLTCモード)
価格:170万5000円/テスト車=214万0300円
オプション装備:全方位モニター付きメモリーナビゲーション スズキコネクト対応通信機装着車(19万5800円)/セーフティープラスパッケージ(6万6000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン、ファイングリッド>(2万7060円)/ETC2.0車載器(4万6640円)/ドライブレコーダー<前方・後方録画用>+接続ケーブル(9万9880円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1299km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:365.3km
使用燃料:18.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:19.7km/リッター(満タン法)/19.7km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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