第46回:新型「スイフト」の開発トップを直撃! 「お値段以上スズキ作戦」に驚く
2024.02.22 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ![]() |
新型スイフトのチーフエンジニアを直撃!
気になる新型「スイフト」がついに発売! いわゆる全長4m前後の「トヨタ・ヤリス」や「ホンダ・フィット」に匹敵する売れ線コンパクトですけど、実のところかな~りスズキ色の強いクルマです。
そもそも長年200万円以下メインというサイフの軽いお父さんにとってありがたいコンパクトであり、なおかつ国内販売の約5割が韋駄天(いだてん)モデルの「スイフトスポーツ」で、さらにその7割がMT車という異様なレベルの「走り屋の友」!
聞けば中古車はお金のない大学自動車部では定番のスポーツコンパクトだそうで、そこで新型は時代なりに価格は上げつつもリーズナブルさをキープ。同時にいまどき全面マイルドハイブリッド推し戦略できました。
しかし本当にそれで大丈夫なの? チーフエンジニアの小堀昌雄さんをズケズケ直撃!
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電動化の強迫観念はありませんでした?
小沢:今回の新型、5代目……スイフトですけど……
小堀:グローバルモデルとしては4代目になります。軽自動車の「Kei」を拡幅して出したのも数えると5代目ですがあれは国内専用なので。
小沢:今回乗らせていただき、実にスズキらしいフルモデルチェンジだなと思ったんです。というのもいまどきこのクラスってストロングハイブリッドが売りじゃないですか?
小堀:はい(笑)。
小沢:トヨタ・ヤリスはもちろんシリーズハイブリッドのホンダ・フィットや「日産ノート」まで。ところが新型スイフトは電動化時代にもかかわらず、ストロングハイブリッドどころか電気自動車(BEV)もなしの衝撃のマイルドハイブリッド戦略。スズキらしいっちゃらしいですが、一体なにゆえ?
小堀:なにゆえって……おっしゃるとおりみなさん電動化に動いていて、当然以前はスイフトもハイブリッドを持っていました。やはり200万円ぐらいのお値段をつけさせていただいていて。ですけど、みなさん、ウチの社長が「ゲタ」と言うような足になるコンパクトは、やはりお求めやすい価格で準備しないとご期待に応えられないのではないかと。
小沢:そうかもしれません。
小堀:なにより同じ電動化の方向に進むとわれわれの技術では値段が合わないので。すいませんが今回は内燃機関(ICE)のマイルドハイブリッドでいきたいと。ただし同じマイルドハイブリッドにするにしても、既存のエンジンを使って言い訳するのもおかしいので、ちゃんと環境性能を考えた新エンジンを開発して、スイフトのお客さまにお届けしたいと。
フルハイブリッドもBEVも開発してますが……
小沢:とはいえもはやストロングハイブリッドが当たり前の世界になってますよね。そのうちBEVも出てくる。そうでなくても電動化電動化ってウルサいのにいまどき新エンジンって。電動化の強迫観念はなかったんですか?
小堀:ありますよ! スタートしたときは本当に悩みましたよ。どうしようって(笑)。当時はコロナ前で「みんな電動化って言ってるのに、ICEで頑張ろうとか言っちゃっていいのかな」とか「みんなからたたかれないかな」とかいろいろ悩みました。
小沢:聞きにくいことですが、例の5段AGSハイブリッドの開発って難しいんですか?
小堀:ハイブリッドの開発もBEVの開発も社内ではちゃんとやってます。ですけどやっぱりお値段が。どうしても購入品になっちゃうんですよね、バッテリーとかインバーターなどのパーツは。その金額は僕らじゃどうしようもないので、思いきり電動化するとわれわれの狙うコストレベルには届かないという……。
小沢:そこでいつもの「お値段以上スズキ作戦」ってやつですね。
小堀:どこかの家具メーカーさんで聞いたみたいな言葉ですが(笑)。
小沢:いやいや今回も本当に痛感しました。ノーストロングハイブリッドはもちろん、内装も一瞬リッパなんだけど、よく見るとソフト素材とかキラキラ素材はほっとんど使ってない。これまたお値段以上……。
小堀:技術であり、デザイン部門が頑張ってますから(笑)。
デザイナー:旧型はオーディオパネルをドライバー側に5度振ってあるんですけど、ユーザーさんは細かいことに気づいておられなくても「なんか使いやすいよね」って声があって。それが効いてるんじゃないかと思い、今回は限界の8度まで振ってあります。オーディオパネルの位置も上げてメーターと同じ水平線上で見られるので視線移動が少なくなってます。
省燃費のキモはエンジンと空力
小沢:そこですよね。お金をかけずに知恵を絞るスズキ作戦。インパネ左右のグレーの3Dパネルも結構肝いりだとか。これまたソフト素材じゃないんですが。
デザイナー:アクセントになりますし、3Dテクスチャーって日差しによってキラキラするんです。素材としてはハードパッドですが光の反射具合で表情が変わるようになっていて。
小沢:なんだか日本料理で大根に細かく切れ目を入れて食感を変えるとか、キュウリをそいで花のように見せる……みたいな食べても見てもオイシイといった世界ですよね。
小堀:いやいや(笑)。
小沢:僕らは勝手に新型スイフトの省燃費作戦を予想してて、欧州で取り入れた48Vマイルドハイブリッドを入れるのかと思ってたら、それは入れずに新型直3エンジンをつくった。正直パワースペックはすごくないけどCVTで24.5km/リッターはすごいなと。
小堀:ありがとうございます。パワートレイン系は新開発して燃費向上の目標を立てて取り組みました。それだけじゃなくて空力。ボディーサイズは変えずに空力性能を上げるというのを、デザインも含めて一緒にやってます。
小沢:エンジンは何が効いてるんですか? 3気筒化でフリクションが減った以外は、三元触媒の性能アップとか排ガスを燃焼室に入れるEGRが全面展開とか、ハデな技術はないですよね。
小堀:スズキは大抵ジミなので(笑)。3気筒化で一番熱効率のいい環境にして、それを安定して燃焼させるってところを頑張ってます。
小沢:実は圧縮比も高く、13なんですよね。なのにマツダのように自慢はしない(笑)。
小堀:それからマイルドハイブリッドも3気筒になると1気筒あたりの排気量が大きくなり、再始動するときの押し上げる力も4気筒より大きくなければいけない。それに応えられるようなタイプのISGにしてます。あとは空力です。デザインで空力性能が変わるので何度もやり直してもらって、フェンダーの前、バンパーからホイールアーチにかけての風の流れを剝がれさせないように。それでいながらスイフトらしいフォルムになるように何回もやり直しました。リアも同じでクオーターピラーからリアバンパーにかけての面が大事で、よく見ていただくとパッと切ったような造形になってると思います。
MTでも最大効率が狙える
小沢:細かい工夫が効いてると。ところで今回なんで5段MTが一番燃費がいいんでしょうか。「マイルドハイブリッドMX」のCVTがモード燃費で24.5km/リッターなのにMTは25.4km/リッター。おかしくないですか。今やATとかCVTのほうが燃費がいい時代に。しかも6段じゃなくて5段(笑)。
小堀:そこはパワートレイン担当に。
パワートレイン担当:今回は熱効率のオイシイところというか帯域の拡大が効いていて、効率のいい帯域がエンジンとして広がっているので、5段MTでもスイートスポットを外すことなく走れるんです。
小沢:今までは例えばCVTで2000rpmなら2000rpm、燃費の一番いい作動点を外さずに走ることで燃費が向上した。でも今回はそこが広がり、MTである程度広くパワーバンドを使っちゃっても燃費が落ちないと。ピンポイントで回転数を攻めなくてもいいから5段MTで最大効率が出せる?
小堀:そのとおりです。
小沢:最後に聞いて驚いたのは今回のスイフトはZ世代狙いだと。正直、スズキからZ狙いなんて言葉を聞くとは思わなかったんですけど(笑)。それから現行(旧型)スイフトは全体のほぼ5割がスポーツで、そのスポーツの7割がMT車っていう異様なマニア受け。僕らクルママニア的にはイイ話のように聞こえますけど、メーカーさん的には違いますよね?
小堀:走りを大切に思っていただける方にお買い求めいただくのはうれしいんです。ただ、5~6年前ぐらいですが「クルマ離れ」がすごく叫ばれていて、われわれがお客さまに何ができるのかって考えなければいけなかったので。具体的にすごい飛び道具みたいなものはないですよ。
小沢:いやいや今回はスイフト初の9インチディスプレイオーディオがあるじゃないですか。それからクラストップレベルの先進安全。なによりいまどき250万円が当たり前のコンパクトハイブリッドカーを相手に、200万円ちょい。ヘタすると200万円切りのマイルドハイブリッドできたってのがすごい。つくづくお値段以上のノーストロングハイブリッド作戦!
小堀:ありがとうございます(笑)。
(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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