SUVブームの次に流行(はや)るのは?

2024.05.28 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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今は空前のSUVブームといわれ、たしかにSUVばかりが世に出てくる印象です。では、多田さんはこの次にどんなタイプのクルマが流行ると思いますか? これまでのご経験から言えることはあるでしょうか。

「クルマの流行りは、アパレルによく似ている」といわれます。何年かの周期で背の高いクルマ、低いクルマというように変化の流れを繰り返し、いまはその主役がSUVというわけです。SUVのブームが比較的長く、安定して続いているのは、単にカタチがどうこうということに加えて、実用性が高いからでしょう。メーカーがつくりやすい、というのもポイントですね。

では、次はどうなるのか? そういう見かけとかジャンル分けみたいなものが出尽くした今、私は、機能性こそがクルマの主たる商品性になっていくのではないかと思います。

例えば、ユニクロがこれほど大きくなったのは、ファッションというものを見た目ではなく、機能で定義し直したからでしょう。単に人に見えるものというところから一歩踏み出して、ユーザーに心地いいものであることを突き詰めた。その結果、一気にメジャーなメーカーになったのです。

クルマもそういうことになるのではないでしょうか。現時点ではそれがどういうものなのかを具体的にはっきりと言い切ることはできませんが、強いて言うなら、EVと並んでよく語られるSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)のようなものかと思います。

「スマートフォンのようにソフトウエアを更新することで性能・機能をアップデートし……」などと説明されるSDVですが、クルマにはクルマならではの大きな武器があります。

スマホの何が面白いかというと、端末に付いているカメラやGPS、振動のセンサーなどから得られた情報を組み合わせ、世界中で開発される新たなアプリを入れ続けることで常に新機能が得られる、つまり古くならないというのが魅力ですよね。

その点クルマには、スマホとは比較にならないほど多くの、さまざまなセンサーがすでに搭載されています。精度もスマホ用センサーに対してケタ違いに高いのですが、それらはクルマを安全に走行させるためだけに使われている。見方によっては、非常にもったいない状況にあるわけです。

つまり、スマホではできなかったアプリが今後できる可能性がある。というか、できるに決まっているのです。クルマの機能は、さまざまな方面で拡張していける。そのポテンシャルがあるということを、そろそろ世界中のメーカーは気づき始めています。

自動車業界は、こうしたデータをオープンにすることを、セキュリティー上の観点から恐れてきた歴史があります。車両の窃盗や交通インフラにおよぶ乗っ取りなど、悪意のある人間に悪用させないよう、徹底的に保護してきた。しかし、そうしたセキュリティー対策がイタチごっこになっている状況と、必ずや宝の山になるというメリットの両方が認識されるようになり、「ある程度の安全を確保しつつオープンにして世の中で活用してもらおう」という流れに変わってきています。

既存の例だけでも、「センサーを介して実際のサーキット走行で収集したログデータを、スマートフォンやスマートウオッチに飛ばして解説付きでおさらいする」とか、「一般道で“燃費の良い運転”のデータを記録し客観的に診断する」なんてことはとっくに可能になっています。

今後はもっと、とんでもない、皆さんの想像を超えたアプリが出てくるはずなんです。パッと具体的に提案できませんが、世界の優秀な、想像力の豊かな人はつくり始めていることでしょう。そして、キラーコンテンツ的なものができた日には、業界の流れは一気にそちらへと向かうに違いありません。時代は、それをどのようなフォーマットやルールづくりで広めていくかというフェイズに入っています。

冒頭の車形という意味では、こうしたSDV的な機能を備えたうえで、今よりももっともっと多様化するのではないでしょうか。いずれにせよ、夢のあるクルマが出てくるはずです。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。