【Casa e Garage】理想のガレージ CASE2 | 岡島邸
イタリアと上手に暮らす 見えたのは、シンプルで熱い生き方 2024.07.16 Casa e Garage 2024 SUMMER つくられたモノにはつくり手の考え方が自然と反映されるものだ。それはオーダーメイドの住宅でもガレージでも同じである。たとえ自分ではつくれないまでも、企画段階から参画している発注主の考え方でカタチや機能が決まってくる。今回伺った岡島邸はまさにその好例と言えるだろう。シンプルな建物
ブルーグレーの外壁を持つ3階建てのビルトインガレージは、一見したところとても落ち着いた感じに見えた。壁面に配されるのはシャッター扉といくつかの窓だけで、これといった装飾のない“四角い箱”なので、むしろ地味な印象すら抱かせた。それはガレージに収まる魅力的なクルマたちに目を奪われたからにほかならない。
横一列にずらりと並んだ5台のクルマはすべてがイタリア車だ。向かって左から「アルファ・ロメオ159スポーツワゴン」「ランチア・デルタHFインテグラーレ コレツィオーネ」「フィアット・パンダ」「アルファ・ロメオ・ジュリエッタ」、そして「ベルトーネX1/9」。なかなかのラインナップである。おおっと思わせるクルマたちに心を躍らされてしまっては、建物全体を見るほどの余裕がなかったというのが正直な気持ちだ。
けれど一時の興奮が過ぎ去り、初夏の暑さに戸惑いながら青い空を見上げてみれば、軒裏(張り出した屋根の裏側部分)に塗られたビビッドなレッドが目に飛び込んできた。ブルーグレーに塗られたキャンバスにアクセントとして加えられたビビッドなレッド! その強いコントラストの際立つ色使いはとてもすてきで、イタリアのアート作品を思い起こさせた。決して地味なんかではない。鮮やかと表現したほうがいいくらいである。
オーナーは岡島 稔さん。言うまでもなく無類のイタリア車好きである。ガレージの完成は20年ほど前のことで、それまでずっと家を建てるときはガレージを組み込んだ建物にしたかったという。今でこそガレージハウスだのビルトインガレージと称する住居とガレージを一体化させたものは珍しくはないが、ふた昔前の日本ではまだまれな存在だっただろう。住宅メーカーがビルトインガレージを“商品”として前面に押し出すかなり前の時代だ。したがって、当時は情報の詰まったガレージ専門誌もなかったはずで、実際、岡島さんも自身の思い描いたイメージを頼りに、建築士と相談しながらガレージづくりを進めていった。
「参考にするものは一切なかったですが、とにかくたくさんのクルマを収めることのできるガレージが欲しかったんです。それで1階部分をすべてガレージのスペースに充てることにしました。年を取ってからのことを考えると1階に住んだほうがいいと思いつつも、2階から上を住居にするのも運動になっていいかなと」
岡島さんのガレージはあくまでクルマを収めるだけのスペースである。物を置いたり、クルマの部品を収納したりすることはできるが、そこにはお茶を飲んだり、クルマを眺めたりするためのスペースはない。居住空間とガレージは建物の中でつながってもいない。ほこりのことや虫が入ってくることなどを考えると、ガレージを独立させたほうがいいと割り切った。外観はシンプルにして、壊れない家にすることを目指したという。
「凝ったつくりの家は雨漏りするなんて話を聞いたこともあって、“出っ張ったり引っ込んだりしない”できるだけシンプルなデザインにしました。材料にはこだわらなかったけれど、建物は軽量鉄骨で組んで丈夫なつくりにしてもらいました。基本的な部分というか大枠は建築士に任せて、味つけは私がしたという感じでしょうか。とはいっても、建築士からは、ことごとく、これでいいのかって聞かれました。色に関してもつくりに関してもですね。彼らが提案してくるものと私の考えたものが逆のことが多かった。外観の色にしても、当時は黒っぽい色の家はなかったですからね。そうそう、赤いアクセントはデルタのボディーカラーをイメージしたものですよ」
イタリアが大好き
富士重工で働いていた父親の影響で「スバル360」や「レオーネ」に乗っていたこともあるというが、すでに述べたとおり、最近、岡島さんの所有しているクルマはイタリア車一辺倒である。イタリア車に心引かれるのは、まずそのカタチだと語る。
「イタリア人は楽しさを追求しているのがいいですね。どうしたら楽しくなるのかという発想がいつもあるように思います。遺跡もそうですが、小さいころから立体造形に触れてきたことが影響して、イタリア好きになったのかもしれません。クルマも立体造形なので、ぐぐっと迫ってくる何かがありますね。ランチア・デルタを眺めていると、写真ではそれほどでもないのに実際そばで見てみると、なんだこれはという驚きがあります。心を揺さぶる何かがあるんです。たぶん、立体造形を手がけるイタリア人のうまさがあるんでしょう」
もちろん見た目だけでなく、運転してもイタリア車は特別な存在だという。とりわけアルファ・ロメオはファミリーカーでありながら「スーパー」が付くという。そのスポーティーな味つけを大いに気に入っているようだ。「ドイツ車から見ると手はかかります。信頼性が低いような気もします。でも、ちょっと人間っぽいというかね。そこがいい」と絶賛する。
それにしても5台もの愛車に囲まれた生活だと、それなりに苦労も多いはずだ。早起きしては走りに行くということだが、遠出するときは159、街なかをちょこちょこ走るにはパンダ、峠道を楽しむときにはデルタ インテグラーレかX1/9を引っ張り出す。用途によって使い分けられるとはなんとぜいたくなことだろう。
2階はキッチンとダイニングを含むリビングルームだ。ガレージとほぼ同じ床面積のあるワンフロアになっている。そして、仕切りのない、その広々とした空間は、やはり“イタリア”だった。ダークブラウンのフローリング、ホワイトの壁と天井に囲まれたリビングルームは、植物のグリーンとマッサージチェアのレッドがアクセントとなり、まるでイタリア国旗の配色があしらわれているかのよう。天板がブルーグレーのダイニングテーブルも部屋の中央に置かれた乳白色の大理石でできたローテーブルもイタリア製である。グレーのソファはドイツのメーカーのものというが、少し前まではレッドのイタリア製だった。そういえば、マッサージチェアは日本製とはいえ、フェラーリともつながりのあるケン・オクヤマ・デザインとのコラボ製品というから面白い。
何度もイタリアを旅したこともあり、すっかりイタリアの魅力にはまってしまったという岡島さんは、結婚式もミラノ近郊のノヴァーラという街で挙げた。このことからも推測されるように奥さまもイタリア好きなのだが、クルマ好きという点でも岡島さんと共通しているのがうらやましいかぎり。ジュリエッタは奥さまの買い物用である。パンダがガレージにやって来たのも「おもちゃみたいでカワイイ」と奥さまが一目ぼれしたからだ。
夫婦そろってクルマで移動する機会も多く、奥さまの好きな骨董(こっとう)品や小物類を探しにクルマで遠出することもいとわない。このガレージのある群馬県太田市から京都までの移動もクルマだ。新幹線ならお酒は飲めるしゆっくり過ごせることは分かっていても、自分の思うように自由に動き回れるクルマがいいと奥さまは笑う。このごろは助手席に座ることが増えたものの、かつてはご主人と交代しながら運転するほどクルマとの生活を楽しんでいたそうだ。
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夫婦のすてきな関係性
オーナー自ら語ったように、岡島さんのガレージはシンプルの一語に尽きる。まるで家の中にクルマが暮らしているかのような最近のぜいたくなビルトインガレージとは異なり、ガレージを住居と完全に分離していることがかえって新鮮である。ガレージ内も極めてさっぱりしていて、前述したとおりクルマ以外の物はあまり置かれていない。実に潔いのだ。それだけにそれぞれのクルマが引き立って見える。
どんなガレージをつくるかは人それぞれだ。その人の趣味嗜好(しこう)、生き方に沿ったものになるはずだし、どのようなガレージをつくるにせよ、その空間や家をどう生かすか、どう楽しむかが大切なのだろうと思う。そんなことを教えてくれたのが、今回伺った岡島邸だ。
岡島さんのビルトインガレージには、彼と奥さまが愛するイタリア、イタリアへの熱い思いがぎっしり詰まっている。ガレージが完成する以前から今日に至るまでのイタリア車とイタリアにまつわるたくさんの体験と数々の思い出にあふれている。イタリアを存分に楽しむ生活は今後も続いていくだろう。
そして何より魅力的に映ったのがご夫婦のすてきな関係性にある。第一にクルマという趣味を共有していることが大きいし、さらには自分だけが楽しむわけではなく、互いの世界を尊重しながら日々を楽しもうという姿勢がそれぞれ2人の言葉に表れていた。ちょっと控えめなのにさりげなく主張する岡島さんの生き方が、ビルトインガレージの目指した方向性そのものなのである。
(文=阪 和明/写真=荒川正幸)

阪 和明
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