“AMG”や“M”とはここが違う! JLRの最強マシン「ディフェンダー・オクタ」とは何者か?
2024.07.19 デイリーコラム会員制サーキットで秘密の内覧会
2024年6月某日、記者は千葉・南房総の会員制サーキット「THE MAGARIGAWA CLUB」にいた。一山いくらの民草が、なぜそんな場違いな場所に? というと、「ディフェンダーOCTA(オクタ)」の特別プレビューイベント「DEFENDER ELEMENTS」にお呼ばれしたからだ。
わざわざ当記事にアクセスされた御仁なら、いまさらディフェンダー・オクタの概要について説明は不要だろう。JLR(旧ジャガー・ランドローバー)が擁する世界屈指のクロスカントリーモデル、ディフェンダーのラインナップに追加された、「史上最もタフで、最も走破性が高く、最もラグジュアリーな新たなヒーローモデル」(プレスリリースより)である。
DEFENDER ELEMENTSは、そのディフェンダー・オクタを報道関係者や潜在顧客向けに披露する、いわば内覧会だ。イギリスを皮切りに、ドイツ、イタリア、ドバイ、アメリカの東海岸と西海岸、そして日本の世界7カ所で開催された。
記者が取材した日本での回には、同車が導入される日本や台湾の報道関係者、インフルエンサー、そしてディフェンダー・オクタを契約済み、あるいは購入を検討しているカスタマーらが参加。浮世離れしたTHE MAGARIGAWA CLUBのしつらえや、流ちょうに英語を話す(当たり前だ)JLR本社スタッフの存在もあって、典型的日本人の私としては、なんとも異国情緒を感じるなかでの取材となった。思い起こせば、国内のイベント取材でNDA(秘密保持契約)のサインと事前提出が求められたのも、これが初。小心者の記者は、その段階からすっかり空気にのまれていた。
加えて会場では、イベントの待ち時間にTHE MAGARIGAWA CLUBのサーキットやオフロード場で、ディフェンダーの走行性能を満喫(残念ながら、こちらはオクタではなかったが)。「特別な体験を提供してこそ」というモダンプレミアムブランドならではの歓待(参照)に、「なんだかすごいことになっちゃったぞ」と、某グルメ漫画の主人公のように脳内でひとりごちた。
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「レンジローバー」ゆずりのV8ツインターボを搭載
さて、いよいよディフェンダー・オクタの内覧会である。少人数ごとに時間をずらして進められたそのプログラムは、まずはジャガー・ランドローバー・ジャパンのマグナス・ハンソン社長や、JLR本社のマーク・キャメロン ディフェンダー/ディスカバリー担当マネージングディレクター、コーリン・カークパトリック スペシャルビークルオペレーションズ(SVO)担当プログラムディレクターによるプレゼンテーションから始まった。
いわく、ディフェンダー・オクタの企画は顧客からの「トップヒーローレベルのディフェンダーが欲しい」という要望から始まったという。よそであれば“AMG”や“M”“RS”、あるいは“Vシリーズ”といった扱いのモデルだろうが、JLRの場合、その要望がディフェンダーというモデルに寄せられる点が面白い。レンジローバーとはまた違う方向性で、プレミアムカーの顧客層にも訴えるほどブランドが確立しているのだろう。
そして、その“トップヒーローレベル”のパフォーマンスを実現するべくJLRが用意したのが、「レンジローバー/レンジローバー・スポーツ」のSVモデルにも搭載される、マイルドハイブリッド機構付きの4.4リッターV8ツインターボエンジンだ。このパワーユニットは、既存の「ディフェンダーV8」が搭載するJLR伝統の5リッターV8スーパーチャージドとは異なり、BMW由来のモダンなエンジンである。最高出力は635PS、最大トルクは800N・mと、そのアウトプットもディフェンダーV8を大きく上回る。
個人的には豪快に回る5リッターV8スーパーチャージドも大好きなのだが、それでも「ディフェンダーV8を買ったお客のなかには、オクタの登場に怒り出す人もいるんじゃないかな?」などと、余計な心配をしてしまう。加えて思ったのがディフェンダーのV8エンジンのゆく末で、標準モデルのディフェンダーV8も、いずれはBMW製V8に置き換えられるのかな? ……いや世の趨勢(すうせい)を思うに、このオクタが最後のV8ディフェンダーになるのかも、などと想像してしまった。
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オフロードでも、これが最強
もうひとつ、ディフェンダー・オクタで興味深いのが、オンロードのみならずオフロードでのパフォーマンスも追求している点だ。これはよそのライバルには見られない、このクルマならではの特徴といえるだろう。まぁ考えてみれば、いかに「600PSオーバーでっせ!」といえど、オンロードを優先したディフェンダーなんて聞いただけでシラける。興が冷める。JLRも、そこはしっかり理解しているのだろう。
もちろん、ここでいうオフロードでのパフォーマンスというのは、プレスリリースを埋めるだけのお飾りの類いではない。たとえば足まわり。ここには「レンジローバー・スポーツSV」に続いてピッチ&ロールを制御する「6Dダイナミクスサスペンション」が採用されているが、ディフェンダー・オクタのものはバルブや油圧系統が強化された同車専用品だ。制御プログラムも独自に煮詰められており、オフロード向けの「オクタモード」ではよりやわらかく、素早く伸縮して路面に追従。加えて通常モデルのディフェンダーより25%もホイールアーティキュレーションが高められているという。
タイヤは22インチの「ミシュラン・プライマシーオールシーズン」と20インチの「BFグッドリッチ・トレイルテレインT/A」から選択可能で、タイヤの大径化(≒最低地上高のアップ)およびエンジンの吸気システムの最適化により、最大渡河深度はベースモデルより10cmも深い100cmを実現。カークパトリック氏いわく、「イースナー(JLRのテストコース)では延べ1万4000回のテスト走行を繰り返した。このクルマ専用に追加したプログラムも含め、すべての試験をクリアできたのはディフェンダー・オクタだけだ」とのことだ。
余計なことで悩めるぜいたく
お三方によるプレゼンテーションと各種技術展示の見学を終えると、いよいよ実車の見取りである。ヴィラのガレージで来場者を待ち受けていたディフェンダー・オクタは、おのれが特別なクルマであることを全身でアピール。それこそ100m離れた場所からでもそれと分かるスゴみを放っていた。なにせボディーは、全長で28mm、全幅で68mmもデカいのだ。もちろんオン/オフでのパフォーマンス向上が目的の巨大化だが、アピアランスの面でも効果は絶大。記者などは「駐車場とか大変そうだなあ」なんて情けないことを考えてしまったが、それも含めて、特別な人のためだけの特別なディフェンダーということなのだろう。
ラインナップは通常モデル(という表現が適しているかどうかは別にして)と生産初年度限定モデル「EDITION ONE(エディションワン)」の2種類で、後者には外装:フェローグリーン、内装:カーキ/エボニーの専用カラーコーディネートと、チョップドカーボンファイバーの独自の加飾を採用。いっぽう、標準モデルのオクタには3種類の外装色と2種類の内装色が用意されている。
悩ましいのが足まわりで、既述のとおり22インチのミシュランと20インチのBFグッドリッチが用意されているのだが、車検証上の都合で、購入後にこれを履き替えることはできないのだ。遠慮なくアクセルを踏む快楽を手にしたいなら前者、圧巻のオフロード性能に心ひかれるなら後者だろう。……まぁ、いずれのエクストラな性能も、日本の使用環境では完全にオーバースペック。20インチでも十分なオンロード性能を、22インチでも申し分のないオフロード性能を有しているのは間違いないだろうが、こうした“余計な選択”で悩めることも、特別なモデルならではのゼータクなのだ。
もっとも、昨今の“特別なモデル”では、仕様・装備で悩む前に「まだ買えるの?」という別の悩みが立ちふさがる。ディフェンダー・オクタの日本向けの割り当て台数は、標準モデルが130台、エディションワンが90台。当記事が掲載される頃には、いずれも完売御礼となっている可能性が高い。それでも、気になる人は懇意にしているディーラーマンに電話をしてみよう。仮に完売であったとしても、キャンセル待ちで幸運を拾える可能性はある。運の神さまの恩寵(おんちょう)に浴すべく、ご近所の掃き掃除でもして徳を高めるのもいいかもしれない。このクルマには、そのくらいの価値はあると思う。
(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=ジャガーランドローバー/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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