ポルシェ・カイエンGTSクーペ(4WD/8AT)
やはりポルシェの仕事 2024.11.07 試乗記 ポルシェの「GTS」といえばモデルライフ後半に“決定盤”としてリリースされるのが通例だったが、最近はどうも事情が変わったようだ。この改良型「カイエンGTSクーペ」も登場時期としてはだいぶ早い。ただし、その中身はまぎれもなく“決定盤”である。ポルシェの大黒柱
初代「カイエン ターボ」の怒涛(どとう)のパフォーマンスに衝撃を受けたのはもう20年も前のことになる。それでも当時は乗り心地など明らかな短所も見て取れたし、やはりポルシェに必要なクルマなのだろうか、と完全に納得はできなかったことを思い出す。だがその後はご存じのとおり、今やカイエンあってこそのポルシェである。
ポルシェはカイエンを2025年に、弟分の「マカン」は2024年に電気自動車(BEV)に切り替える計画を明らかにしていた。実際、すでにBEVのマカンの国内での受注も始まっているが、今のところガソリンモデルと併売されている。BEVの販売が思うようには伸びないことや中国での販売減速などの影響で、BEV化の推進がやや勢いを失っていることはご存じのとおり。もともとカイエンについては、マカンと違ってBEV化された後もガソリンモデルを併売する計画だったが、どのモデルをどのぐらいの期間継続するのかは明らかにされていない。
もちろん市場と顧客がいる限り放り出すわけにはいかないだろう。自他共に認める高性能SUVのパイオニアであるカイエンがライバルに後れを取ることは許されないのだ。しかもカイエンは2023年に世界で約8万7500台を売り上げており(モデル別でトップ)、ほぼ同数のマカンと合わせて、32万台あまりのポルシェの世界販売台数の55%(一時よりはだいぶ縮小したが)を占める。ポルシェでさえSUVが大黒柱なのである。
非ハイブリッドのトップモデル
2023年4月の上海ショーでお披露目された最新型カイエンは通算3代目のアップデート版だが、外観はともかく中身は大きく生まれ変わった。これまでどおりボディーは通常タイプとクーペタイプの2種類、パワートレインはガソリンターボとプラグインハイブリッドだが、グレードによって何種類も用意されている。
すでに日本導入されているのは標準型の「カイエン」と「S」「Eハイブリッド」「S Eハイブリッド」「ターボEハイブリッド」で、さらにクーペのみに「ターボEハイブリッド クーペGTパッケージ」が設定されている。ちなみにニュルブルクリンク北コースでSUV最速タイム(7分38秒9)を記録した純エンジン車のフラッグシップモデル「ターボGT」や「ターボ」は北米や中国向けとなり、欧州や日本には導入されない見込みである。
以前は自然吸気エンジン車の最上級グレードに位置づけられたのがGTSだったが、ポルシェのパワーユニットがほぼすべてターボ付きとなった今は(ターボを除く)豪華高性能モデルという立ち位置だ。要するに2024年春に国内発表された日本仕様のカイエンGTSは純エンジン車の最高性能モデルということになる。試乗車はそのクーペ版である。
ヒエラルキーは揺るがない
よりスクエアでシャープになったヘッドライトやボンネットまわりを除けば、ほとんど変わっていないように見えるエクステリアとは対照的に、ダッシュボードの眺めは大きく変更された。メーターもセンターディスプレイもすべてBEVの「タイカン」同様、フルデジタル化され(助手席前にもディスプレイ装備可能)、シフトセレクターもセンターコンソールではなく、ダッシュに小型のものが装備されている。
GTSのパワーユニットは従来どおりの4リッターV8ツインターボだが、最高出力500PS/6000rpmと最大トルク660N・m/2100-4500rpmへ(従来型GTSは460PSと620N・m)さらにパワーアップされた。2.9リッターV6ツインターボから同じく4リッターV8ツインターボに換装された最新のカイエンS(474PS/6000rpm、600N・m/2000-5000rpm)との差は大きくないとはいえ、長幼の序は崩れていない。
最新のGTSの0-100km/h加速は4.4秒、最高速は275km/hと発表されており(従来型は4.5秒と270 km/h)、同じく4.7秒と273km/hという最新のSに対してもわずかだがちゃんと差がつけられている。ポルシェのラインナップのヒエラルキーは絶対である。この期に及んでV8ツインターボなんて、という向きにはちゃんとプラグインハイブリッドモデルも用意されているのは前述のとおり。市場と顧客の要求には万全の態勢で応えるということらしい。
盤石の足まわり
新型カイエンはPASM(ポルシェアクティブサスペンションマネジメント)に伸び側と縮み側を別々に連続制御する“2バルブテクノロジー”なる可変ダンパーが採用され(ZF製という)、またエアサスペンションも従来の3チャンバーから2チャンバー式に変更されている。GTSはターボGT同様のよりスポーティーなサスペンション設定を備えるというが、さらにPASMやアダプティプエアサスペンション、PTV Plus(ポルシェトルクベクタリングプラス)を標準で装備するうえに、オプションのアクティブスタビライザーのPDCCスポーツとリアアクスルステアリングも加えられており、2260kgもの車重と強力なそのパワーをまったく持て余すことがない。しかも22インチという巨大なタイヤを履きながら、野蛮なハーシュネスや突き上げを感じさせないのはこれまでどおりで、ドライブモードにかかわらずガサツな振動は感じないし、ビシッと引き締まった感覚はスピードが増すにつれて顕著になっていく。
高速道路を流している際の扱いやすさはもちろん、「スポーツ+」モードを選ぶと精悍(せいかん)な快音(人工音ではないという)を響かせながら、打てば響くレスポンスとたくましいパワーで猛獣のように反応する。ハンドリングはこれまでに増して文句なし、というかそら恐ろしくなるほどだ。巨体を道幅ぎりぎりに寄せてもまったく不安がない正確でインフォメーション豊富なステアリング、うねりのあるコーナーを突破してもまるで揺るがないスタビリティー、例によって強力無比なブレーキなど、やはりさすがとうならざるを得ない。
ちなみにエアサスペンション仕様車ではモードやスピードに応じて車高は5段階に変化する(スタンダードレベルから上下各2段階)。こんなタイヤとホイールでラフロードに踏み込む人がいるとは思えないが、「オフロード」モードを選択すると最も高いスペシャルテレインレベルまで上昇する機能もちゃんと付いている。当然高価だけれど、ポルシェがつくる高性能SUVとはこういうものだ、としみじみ納得させられる。無理を通して磨き上げた結果、本当ならスポーツカーと呼ぶのは無理筋なSUVもここまで引き上げることができるという証拠である。
(文=高平高輝/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=ポルシェジャパン)
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テスト車のデータ
ポルシェ・カイエンGTSクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4930×1983×1674mm
ホイールベース:2895mm
車重:2260kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:500PS(368kW)/6000rpm
最大トルク:660N・m(67.3kgf・m)/2100-4500rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y/(後)315/35ZR22 111Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.8-8.9km/リッター(WLTPモード)
価格:1923万円/テスト車=2240万6000円
オプション装備:ボディーカラー<カーマインレッド>(35万7000円)/リアアクスルステアリング(25万5000円)/センターパイプ付きスポーツエキゾーストシステム<ダークブロンズ>(0円)/タイヤシーリングキット(9000円)/ポルシェダイナミックシャシーコントロール(49万1000円)/エクスクルーシブデザインフューエルキャップ(2万円)/シートヒーター<前後>(6万6000円)/リアシート用サイドエアバッグ(6万2000円)/22インチGTデザインホイール<シルクグロスブラック塗装>(0円)/4ゾーンオートクライメートコントロール(12万3000円)/リモートパークアシスト(7万2000円)/ソフトクローズドア(10万6000円)/ヘッドアップディスプレイ(19万3000円)/アクティブレーンキーピングアシスト&クロスロードアシスト&エマージェンシーストップ(11万2000円)/パッセンジャーディスプレイ(20万5000円)/プライバシーガラス(7万5000円)/ライトウェイトスポーツパッケージ<軽量カーボンルーフ、カーボンインテリアパッケージ、スポーツデザインパッケージスコープ>(103万円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:3101km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:283.8km
使用燃料:48.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.9km/リッター(満タン法)/6.0km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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