フォルクスワーゲン・ゴルフeTSI Rライン(FF/7AT)
現代の実用車のかがみ 2025.02.05 試乗記 8代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の最新型が日本上陸。近年の呼称法にならえば「ゴルフ8.5」と呼ぶべきビッグマイナーチェンジモデルだ。スポーティーグレード「eTSI Rライン」の仕上がりをリポートする。光る「VW」エンブレム
フォルクスワーゲン・ゴルフの第8世代の後期型。試乗したのは「GTI」と「R」を除く、ゴルフのガソリン仕様では最もスポーティーな仕立てのeTSI Rラインである。デジタル化と電動化を特徴とする8代目ゴルフの本国での発表は2019年秋。そのマークIIである最新型は、デジタル化と電動化がアップデートされて、ゴルフ誕生50周年の2024年にデビューした。
今回、筆者は試乗車を拝借すべく、東京・品川にあるフォルクスワーゲン ジャパンに赴き、現物を薄暗い車寄せで初めて見た。外観ではフロントグリルとバンパー、それにLEDヘッドライトが新デザインとなった。Rラインはフロントバンパーの冷却ダクトが左右独立し、エラが張ったみたいにダイナミックになっている。とはいえ、最新型をひと目で印象づけるのは、フロントグリルと中央の「VW」エンブレムが光ることだ。なんと神々しい。ありがたや~。光る、光る東芝♪ というCMソングがあったように、あるいは新幹線の初代が「ひかり」と名づけられたように、光こそ文明である、とあらためて思う。
インテリアではインフォテインメント用のディスプレイが12.9インチ、ということは画面の対角線の長さが約33cmもある、「iPad」のA4サイズにまで大型化された。ダッシュボードで一番目立っているのがこのタッチ式ディスプレイであることは疑いない。新世代のインフォテインメントシステムは、ChatGPT採用の音声アシスタント「IDA(アイダ)」の搭載が目玉だ。
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心地よい硬さの乗り味
パワートレインはガソリン車の場合、1リッター3気筒が廃止となり、ベーシックグレードの「eTSIアクティブ」には1.5リッターの同じ4気筒エンジン「EA211 evo」の出力違いが搭載されることになった。「eTSIスタイル」とeTSI Rラインはこれまでどおり最高出力150PSで、アクティブは3気筒で110PSだったのが4気筒で116PSとなったのだから、こちらも要注目である。
走り始めるや、ゴルフというのはやっぱりいいクルマだなぁ。と独りごちる。ボディーのしっかり感が他社の同クラスの小型車とはひと味違う。タイヤがかなり硬い印象はある。Rラインはフツーのゴルフ(アクティブとスタイル)より1インチ以上大径の18インチホイールを標準装着していることもある。タイヤは225/40R18の極太偏平サイズだから、少々硬いのは覚悟すべきだろう。ちなみに銘柄はブリヂストンのロングツーリング用タイヤ「トランザT005」である。
硬いといっても不快ではない。心地のよい硬さ。硬くても気にならない硬さ、というものが世のなかにはある。路面がいいところではもちろん快適だし、首都高速の目地段差でも、タタンと、ストロークはやや短めながら、脚が素早く動いて、余韻を残すことなく通過する。タタンと動いた足まわりの根本にしっかと硬い骨盤があり、その硬い骨盤がゴルフの「いいクルマだなぁ」感を生み出している。
1.5リッター4気筒直噴のインタークーラー付きターボは、最高出力150PS/5000-6000rpm、最大トルク250N・m/1500-3500rpmで、前期型とスペック上は変わりない。ただし、48VマイルドハイブリッドのBSG(ベルトスタータージェネレーター)は最高出力13PSと最大トルク62N・mから19PSと56N・mへとパワーは6PSアップし、トルクは6N・mダウンしている。
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氷上を滑るかのようなコースティング
BSGは発進時にはスターターとしてエンジンを始動し、さらにエンジンをブーストする役目も担う。トルクは加速と、パワーは最高速と関係するはずで、とすると今回の改良は、加速タイムよりもより伸びやかな加速感を狙ったもの、あるいはエンジンとモーターの協働をより円滑にするためのもの、と受け取ることができる。
実際、そのつながりに違和感はまったくない。低負荷時には気筒休止もしているはずだけれど、不覚にも筆者は感知し得ず、実にスムーズな回転マナーに感心することしきり。静かなことも印象的で、街なかでアイドリングストップするから静かなこと林の如しなのは当然ながら、ブレーキオフと同時にBSGがエンジンを再始動しても、不快な振動とは無縁のまま、ただスッと一歩を踏み出すのみ。
高速道路でも大変静かで、例えば100km/h巡航時、1497cc直4ターボは7段DSGとのコンビでもって2000rpmをやや下回る低回転を維持し、存在をほとんど消す。風切り音も低く、聞こえてくるのはロードノイズだけだ。交通状況によって、アクセラレーターに置く右足をちょいとゆるめると、たちまちエンジンが休止する。回転計の針で確認しなければ、ドライバーも気づかないうちにエンジン休止と再始動を繰り返す。あれ? 変だなぁ。と感じるのは、エンジン休止の際、クルマがまるで氷上を滑っているように、極めてスムーズに滑走するからだ。エンジンとクラッチで切り離すだけでなく、エンジンが停止することで無振動となり、さながらカーリングのストーンとなる。記憶のなかの前期型と比べ、エンジン休止の頻度が増えている……ように思う。エンジンブレーキを利かせたいときは、パドルシフトでギアダウンすればよい。
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実用燃費も優秀
山道でのハンドリングもフツーのゴルフ史上最高に安定していて、安心・安全だと思った。走行中、常に前2輪だけではなくて、4輪全体で接地している感がある。加減速時にも姿勢変化が小さいのは、リアのマルチリンクサスペンションの恩恵だけではなくて、マイルドハイブリッド用のリチウムイオン電池を前席下に配置していることもあるのかもしれない。車検証に見る前後重量配分は61.5:38.5と、古い例で恐縮ながらゴルフIIのGTIの64:34より、フロントの荷重が軽くなっている。おまけに18インチ仕様だから、筆者程度のフツーの腕前だとフロントのタイヤをキーッと鳴かせようにも、無理無駄どころか無謀である。
「走る・曲がる・止まる」が相変わらずきっちりしている。室内は広い。おとな4人と4人分の荷物のための空間が確保されていて、リアにゲートがあって、後席の背もたれを倒すと、広い荷室が現れる。
そういえば、出発時、給油まで820km(!)ととデジタルメーターは告げていた。燃料タンク容量は51リッターもある。つまり、車載のコンピューターは820km÷51リッター=16.1km/リッターと予想した。実際には東京~箱根ターンパイク往復を含んで、結果は16.6km/リッター。2日目の取材はおとなしく走ったとはいえ、実用燃費は優秀だ。
最新のゴルフは「実用車」の枠を飛び越え、「プレミアム実用車」と呼びたいくらい高級になったけれど、東京~箱根を往復してみて考え直した。これぞ「現代の<実用車のかがみ>」なのだ。
(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=フォルクスワーゲン ジャパン)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフeTSI Rライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1475mm
ホイールベース:2620mm
車重:1350kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:150PS(110kW)/5000-6000rpm
エンジン最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1500-3500rpm
モーター最高出力:19PS(14kW)
モーター最大トルク:56N・m(5.7kgf・m)
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:18.7km/リッター(WLTCモード)
価格:455万3000円/テスト車=493万8000円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルアイスブルーメタリック×ブラックルーフ>(0円)/ディスカバーパッケージ(17万6000円)/テクノロジーパッケージ(20万9000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:568km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:430.0km
使用燃料:24.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:17.6km/リッター(満タン法)/16.6km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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