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フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(4WD/7AT)

羊だろうと 狼だろうと 2025.03.14 試乗記 清水 草一 最高出力333PSのパワーをフルタイム4WDで御す豪速ハッチバック「フォルクスワーゲン・ゴルフR」に試乗! かつてなら脳内麻薬が飛び散るような体験だったのだが……令和の今、テスターである清水草一氏が抱いた感想は、まったくもって異なるものだった。
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現代版「羊の皮を被った狼」

「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の高性能バージョン「GTI」は、現在の中高年世代が若かりし頃、神話化された存在だった。日本には2代目ゴルフから正規導入され、私も『CAR GRAPHIC』誌の一読者として、その羊の皮を被(かぶ)った狼ぶりに憧れたものだ。

その後、ついに実物に乗る機会を得た時は、スペック以上に「このクルマはすごいんだ! GTIだもん!」と、念仏を唱えながら走った。

そのGTIを上回る高性能バージョンとして6代目から登場したのが、ゴルフRである。当時私は、アグレッシブすぎるくらいのエンジンフィールに、「オマエはランボルギーニか!?」と震撼(しんかん)。シフトアップのたびに「ブホッ! ブホッ!!」とリズミカルな変速サウンドが耳に届き、思わず『カーグラフィックTV』のオープニングテーマ曲を流したくなった。

当時のゴルフRは、2リッターターボで最高出力256PS。今回試乗した新型のゴルフRは、同じ2リッターターボで333PSに強化されている。今回はマイナーチェンジながら、従来型に比べ13PSのアップである。

ルックスに関しては、羊の皮を被った狼の伝統が受け継がれており、見た目はノーマルのゴルフと大差なく、かなりフツー。目印は、フロントエアダム中央部の反り上がりと、ボディーやブレーキを控えめに飾る「R」のロゴとエンブレム、そして4本出しマフラーくらいだ。伝統を守る姿勢は立派だが、昨今、「羊の皮を被った狼」は、あまり流行(はや)らないのではないか。

かつて速さは、クルマにとって最大の価値だったが(私見です)、現在はそうではない。グリルの小さな「GTI」バッジを発見して道を譲ってくれる時代は、完全に終わっている。高性能なら、シロートさんでも一目でわかるくらいハデにしないとアピール力がない。別にアピールする必要はないんだけど……。

「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のハイパフォーマンスバージョンにあたり、ラインナップの頂点に位置する「ゴルフR」。4代目ゴルフの「R32」を起源とし、2リッターターボ化された6代目で、今日のゴルフRという名に改称された。
「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のハイパフォーマンスバージョンにあたり、ラインナップの頂点に位置する「ゴルフR」。4代目ゴルフの「R32」を起源とし、2リッターターボ化された6代目で、今日のゴルフRという名に改称された。拡大
インテリアには、カーボン調メッシュデザインのデコラティブパネルやブルーのアクセントを採用。オプションの「ラグジュアリーパッケージ」を選択すれば、パノラマサンルーフやharman/kardonのプレミアムサウンドシステムを備えた豪華仕様にもできる。
インテリアには、カーボン調メッシュデザインのデコラティブパネルやブルーのアクセントを採用。オプションの「ラグジュアリーパッケージ」を選択すれば、パノラマサンルーフやharman/kardonのプレミアムサウンドシステムを備えた豪華仕様にもできる。拡大
ヘッドレスト一体型のスポーツシート。表皮は「ゴルフR」がファブリックとマイクロフリース、「ゴルフRアドバンス」がナッパレザーとなり、また後者には電動調整機構やシートベンチレーション機能(運転席・助手席)も装備される。
ヘッドレスト一体型のスポーツシート。表皮は「ゴルフR」がファブリックとマイクロフリース、「ゴルフRアドバンス」がナッパレザーとなり、また後者には電動調整機構やシートベンチレーション機能(運転席・助手席)も装備される。拡大
すご味の効いた音を放つ左右4本出しのクロームエキゾーストパイプ。外観における「ゴルフR」最大の特徴でもある。
すご味の効いた音を放つ左右4本出しのクロームエキゾーストパイプ。外観における「ゴルフR」最大の特徴でもある。拡大
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ハイパフォーマンスなのに快適

そのような複雑な思いを抱きつつ、ゴルフRのエンジンに火を入れる(古語)。さすがR。いきなりいい音をかましてくれた。これが傘下にランボルギーニを持つ、フォルクスワーゲンの「R」系の伝統である。

走りだすと、やたらダッシュがいい。ノーマルの「eTSI」もモーターアシストでかなりダッシュがいいが、ゴルフRはエンジンの力だけで、無意味なくらいダッシュがいい。発進からヤル気にさせるじゃないか。全域で力強く、ターボラグを感じさせないレスポンスのよさが、このエンジンの持ち味である。

マイナーチェンジした8代目ゴルフ、通称「ゴルフ8.5」については、「eTSI Rライン」に大変いい印象を持っている。エンジンは地味な1.5リッターマイルドハイブリッドだが、その地味なよさは、古きよきゴルフの伝統にかなう。それでいて足はスポーティーで、しかも抜群に乗り心地がいい。首都高のジョイントを越える時の「カツーン!」という感触が、こんなに気持ちいいクルマは初めて! と思ったくらいで、18インチタイヤ+専用スポーツサスの仕上がりは、“首都高スペシャル”だ。

対するゴルフRは、タイヤが19インチ化され、サスペンションは電子制御化されている。さらにすごい首都高スペシャルかと期待したが、そうでもなかった。

ステアリングの「R」ボタンを押して、ドライブモードを変更する。「コンフォート」だと、Rラインよりちょい硬。「スポーツ」と「レース」でやや硬(差はわからず)。ちょい硬とやや硬は、やや硬のほうが少し硬いイメージです。ただし、ジョイントや路面の凹凸を越えた時の収束をはじめ、全体のバランスは、Rラインの18インチ+スポーツサスのほうが、首都高の路面には合っていた。

といっても、乗り心地は十分良好。ゴルフの頂点に君臨する「R」がこんなに快適でいーんスか! というくらい快適ではあるが、一般道や首都高レベルでは、「Rラインで十分だし、そっちのほうがかえっていいかもなぁ」という感覚は残った。

ドライブトレインには運動性能を高める機構を満載。左右後輪の駆動力を可変制御するトルクベクタリングや、電子制御デファレンシャルロック「XDS」なども装備される。
ドライブトレインには運動性能を高める機構を満載。左右後輪の駆動力を可変制御するトルクベクタリングや、電子制御デファレンシャルロック「XDS」なども装備される。拡大
タイヤサイズは「ゴルフR」が225/40R18、「ゴルフRアドバンス」が235/35R19。後者には一本あたり約8kgという軽量ホイールが装備される。ブレーキの仕様は両者共通で、フロントには高い制動力を発揮する18インチのブレーキシステムを採用。前後ともにキャリパーは青で塗装される。
タイヤサイズは「ゴルフR」が225/40R18、「ゴルフRアドバンス」が235/35R19。後者には一本あたり約8kgという軽量ホイールが装備される。ブレーキの仕様は両者共通で、フロントには高い制動力を発揮する18インチのブレーキシステムを採用。前後ともにキャリパーは青で塗装される。拡大
ステアリングホイールには専用の「Rボタン」を装備。ハンドルから手を離さずに、ワンタッチでドライブモードの切り替えが可能だ。
ステアリングホイールには専用の「Rボタン」を装備。ハンドルから手を離さずに、ワンタッチでドライブモードの切り替えが可能だ。拡大
ドライブモードセレクター「ドライビングプロファイル機能」には、「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「レース」「カスタム」の5種類の設定が用意される。
ドライブモードセレクター「ドライビングプロファイル機能」には、「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「レース」「カスタム」の5種類の設定が用意される。拡大

“速い”って価値だけでプラス300万円払えるか?

333PSを誇るエンジンを上までブチ回すと、言うまでもなく元気で速かった。「エコ」やコンフォートモードでは、エンジン回転は2000rpm以下に抑えられる時間が長いため、アクセルを少し踏み足すくらいでは、強い反応は返ってこないが、スポーツモード以上なら、エンジンは常に2000rpm以上のパワフルゾーンをキープしているので、アクセルを踏み足した瞬間から、常にグワッと反応する。333PSの最高出力を発生するのは5600rpmから6500rpmの範囲内。そこまで回せば、ゴルフRは「ほぼランボルギーニ」と化す。シフトアップ時の「ブホッ!!」というブタさんのいななきも、しっかり受け継がれている。無敵だぜ!

でも、この無敵のゴルフR、なんとなく持て余すなぁ。

価格は749万9000円(ゴルフRアドバンス)。ゴルフがついに総額800万円超えか! とビビらずにはいられない。eTSI Rラインの455万3000円という価格が、激安に思えてくる。首都高を走る限り、両車にそれほどの差は感じず、むしろRラインのほうが好印象だったのでなおさらだ。むろんアウトバーンやサーキットなら別ですが。

そもそも、こういった羊の皮を被った狼の存在意義というのは、前述のように微妙になっている。自己満足に勝る満足はないものの、目立たない高性能にプラス300万円はキツイ。

そんなのは個人的な感想にすぎないし、今でも羊の皮を被ったランボルギーニを好むカーマニアはいるだろう。高速道路の追い越し車線で、カーシェアのコンパクトカーに前をふさがれるかもしれないが、そういうドライバーは本物のランボルギーニだろうがなんだろうが、後ろを全然見てなかったりするのだから仕方ない。今日びは羊も狼も、みんな平等なのだろう。涙。

(文=清水草一/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=フォルクスワーゲン ジャパン)

「EA888」型の2リッター直4ガソリンターボエンジン。420N・mの最大トルクはそのままに、最高出力が従来モデルより13PS高い333PSに引き上げられた。
「EA888」型の2リッター直4ガソリンターボエンジン。420N・mの最大トルクはそのままに、最高出力が従来モデルより13PS高い333PSに引き上げられた。拡大
デジタルメーターの表示は多彩で、エンジンのアウトプットや、作動温度、ブースト圧、Gセンサー、トルクスプリットなどの確認が可能。ドライブモードで「スポーツ」「レース」を選択すると、「ゴルフR」専用グラフィックに表示が切り替わる。
デジタルメーターの表示は多彩で、エンジンのアウトプットや、作動温度、ブースト圧、Gセンサー、トルクスプリットなどの確認が可能。ドライブモードで「スポーツ」「レース」を選択すると、「ゴルフR」専用グラフィックに表示が切り替わる。拡大
「カスタム」モードの設定画面。ダンパーの減衰力とパワーステアリングの特性を変えられる「アダプティブシャシーコントロール“DCC”」は、実に15段階で調整が可能。さらにステアリング機構やパワートレイン、車外エンジン音、車内エンジン音、アダプティブクルーズコントロール、オートライト、エアコンの制御まで調整ができる。
「カスタム」モードの設定画面。ダンパーの減衰力とパワーステアリングの特性を変えられる「アダプティブシャシーコントロール“DCC”」は、実に15段階で調整が可能。さらにステアリング機構やパワートレイン、車外エンジン音、車内エンジン音、アダプティブクルーズコントロール、オートライト、エアコンの制御まで調整ができる。拡大
ボディーカラーは「ラピスブルーメタリック/ブラックルーフ」「ピュアホワイト/ブラックルーフ」「グラナディラブラックメタリック」から選択が可能。ラピスブルーのみ4万4000円の有償色となる。
ボディーカラーは「ラピスブルーメタリック/ブラックルーフ」「ピュアホワイト/ブラックルーフ」「グラナディラブラックメタリック」から選択が可能。ラピスブルーのみ4万4000円の有償色となる。拡大
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス
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フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(4WD/7AT)【試乗記】の画像拡大
 
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(4WD/7AT)【試乗記】の画像拡大
 
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テスト車のデータ

フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1460mm
ホイールベース:2620mm
車重:1520kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:333PS(245kW)/5600-6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2100-5500rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y XL/(後)235/35R19 91Y XL(ブリヂストン・ポテンザS005)
燃費:--km/リッター
価格:749万9000円/テスト車=754万3000円
オプション装備:ボディーカラー<ラピスブルーメタリック/ブラックルーフ>(4万4000円)/Discoverパッケージ(17万6000円)/テクノロジーパッケージ(20万9000円)/DCCパッケージ(23万1000円)

テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1321km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(6)/高速道路(4)/山岳路(0)
テスト距離:114.0km
使用燃料:14.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.8km/リッター(満タン法)/7.5km/リッター(車載燃費計計測値)

 
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清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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