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ボッシュの新しい車両制御技術を体感! 電子制御とソフトウエアでクルマはもっと進化する

2025.02.21 デイリーコラム 堀田 剛資
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「走る・曲がる・止まる」が変わる

最近、自動車業界をにぎわせている、SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)なる面妖なもの。細かい定義は定まっていないが、要はでっかいコンピューター(セントラルECU)とそこに積まれるオペレーションシステムで、クルマのすべてを統合制御するらしい。雑に言えば、クルマはiOSやAndroidで動くスマホみたいなものになるのだ。ナビだエンタメだの必要な機能は、アプリよろしくインストールして適宜追加。アナタの愛車をアナタ好みにカスタマイズ……という未来が、われわれを待ち受けているようである。

こう書くと、SDV化ってのは「センターディスプレイの向こう側の出来事」「運転などの根幹にかかわる部分には、そんなに関係ないのか」と思われそうだが、さにあらず。SDVとそれを支える周辺技術は、クルマの「走る・曲がる・止まる」という基本性能や、移動・運搬のソリューションとしての進化に、大いにかかわってくる……というのが、今回のお話である。

2025年2月6日、記者は厳冬の北海道・女満別にいた。かの地のテストコースで行われる、ロバート・ボッシュ(以下、ボッシュ)の取材会に参加するためだ。ボッシュといえば、独ゲルリンゲンに本社を置くグローバルな機械メーカー/テクノロジー企業で、自動車サプライヤーとしては世界最大の規模を誇る。普段、われわれがお世話になっているビーグルモーションマネジメントの事業だけでも、従業員は世界で約3万1000人を数え、19カ国に100カ所以上の拠点を構えているという。そのうちのひとつが北海道にあったとて、なにも不思議ではないだろう。日本のあちこちに、アナタのクルマのなかに、ボッシュは遍在するのである。ユビキタスなのである。

北海道の女満別テストコースで行われたボッシュの体験試乗会より、試乗に供された試作車。
北海道の女満別テストコースで行われたボッシュの体験試乗会より、試乗に供された試作車。拡大
かつての飛行場を改修して開設された、ボッシュの女満別テストコース。彼らはこのほかにも、横浜の本社に埼玉県のむさし工場、栃木・那須塩原の栃木工場と、日本国内に29もの拠点を構えている。
かつての飛行場を改修して開設された、ボッシュの女満別テストコース。彼らはこのほかにも、横浜の本社に埼玉県のむさし工場、栃木・那須塩原の栃木工場と、日本国内に29もの拠点を構えている。拡大
取材会の冒頭にて、マーケットのトレンドやボッシュの戦略について解説する、ビークルモーション事業部 技術統括の田中大介執行役員。
取材会の冒頭にて、マーケットのトレンドやボッシュの戦略について解説する、ビークルモーション事業部 技術統括の田中大介執行役員。拡大

急速な環境変化に対応するために

さて、そんなボッシュの自動車事業部だが、2024年に組織を再編。これまで製品ごとに分けられていた開発体制を、「ADAS(先進運転支援システム)」「ビーグルモーション」「エネルギー」「ボディー&コンフォート」そして「インフォテインメント」と、“顧客価値”のくくりで仕切り直し、さらにこれらの部門を横断するかたちで、ソフトウエア部門を発足させた。理由は、スピードを増す技術革新やクルマの進化、既存のモノづくりにとらわれない中国自動車メーカーの台頭などに対応するため。ハードウエアに依存しないソフトウエアの調達を可能にし、完成車メーカーや他のサプライヤーに、新しいかたちで協業や製品を提案できるようにするためだ。

女満別で記者たちを迎えてくれたビーグルモーションマネジメント事業部も、そうしてできた新しい組織である。これまではパワートレイン、ブレーキ、ステアリング、サスペンションに分かれていた部署を統合するとともに、各部署内で行われていた、部品ごとの制御システム(=ソフトウエア)の開発を統合。各機能を統括する集中型のモーションマネジメントシステムを実用化すべく、再出発を切った。

さらにボッシュでは、このシステムとコネクテッドカーの技術を連携。継続的にフィールドデータをモニタリングし、それを随時開発にフィードバックする体制を整えたり、自動車メーカーの開発支援に用いたり、リアルタイムの道路情報として各ドライバー、車両、道路管理業者等に提供したり……といったことまで考えていた。

今回の取材の趣旨は、この新体制の下で開発が進んでいる、新時代のビーグルモーション技術、コネクテッドカー技術を体験するというもの。具体的には「ブレーキ・バイ・ワイヤ」「セントラルECUによるモーション制御」「路面状況検知サービス」、そして各機能の統合制御による「性能のカスタマイズ」について学ぶことができた。

プレゼンテーション後の質疑応答にて、メディアからの質問に答えるボッシュのスタッフ。写真向かって右から、田中大介執行役員、ブレーキシステム開発統括の近藤浩也ゼネラル・マネージャー、プラットフォーム開発部の吐合 求ゼネラル・マネージャー。
プレゼンテーション後の質疑応答にて、メディアからの質問に答えるボッシュのスタッフ。写真向かって右から、田中大介執行役員、ブレーキシステム開発統括の近藤浩也ゼネラル・マネージャー、プラットフォーム開発部の吐合 求ゼネラル・マネージャー。拡大

ペダルとブレーキ機構を完全に分離

記者がまず体験したのは、ブレーキ・バイ・ワイヤである。人がブレーキペダルを踏んだ際、ロッドやブースターなどを介さずにアクチュエーターがマスターシリンダーを押し、制動力を発生させるというものだ。ちなみにこれ、2025年末には量産開始を予定しているという。

ボッシュではすでに、電子制御式ブレーキの「iBooster」を実用化。2024年の「人とくるまのテクノロジー展」には、ペダルとブレーキ装置を切り離した「デカップルドパワーブレーキ」も出展している。今回のシステムはそれをより推し進めたもので、通常はバックアップ用に用意される、“人力”で作動するマスターシリンダーも廃止しているのが特徴だ。故障時にはESC(横滑り防止装置)側のシステム系統でブレーキを作動させる仕組みで、これにより、ペダルとブレーキを“完全”に分離させることができたという。

ソフトウエアで車両の挙動を統合制御するうえでは、バイ・ワイヤは必須の技術となる。人の手足がロッドやケーブルを介して機械を動かす仕組みでは、そもそも電子制御やソフトウエアが介在する余地がないからだ。これまでは冗長性の観点から、完全なバイ・ワイヤの導入は難しかったが、昨今ではハイブリッド車や電気自動車が急速に普及。複雑な電子制御システムやバックアップ用のシステムを稼働させるのに足る電源が、クルマ側で副次的に用意されるようになったため(ボッシュの関係者いわく「バイ・ワイヤを使う前提が、クルマのなかで出来上がりつつある」)、ブレーキ・バイ・ワイヤの実装が現実的になったのだとか。

ボッシュではこのシステムの特徴として、高い昇圧性能とスムーズで緻密な制御などを挙げており、試乗会ではそれを応用した機能として、制動時のノーズダイブやその後の揺り戻しなどを抑制する“同乗者にやさしいブレーキ”を体験。その出来は非常に素晴らしく、世のタクシーすべてに実装してほしいと切に願ってしまった(笑)。いっぽうで、ロッドやケーブル、ブースターの省略による車両設計の自由度アップや、それに伴う衝突安全性の向上、スペース効率の向上、ブレーキ部品の画一化による開発・量産の効率改善なども期待できるとのこと。ボッシュのお客さまである、各自動車メーカーへのアピールもバッチリだ。

ボッシュが開発しているブレーキ・バイ・ワイヤ機構のブレーキアクチュエーター。競合他社のシステムのなかには、ブレーキの稼働を完全に電動化したものもあるが、ボッシュはあえて油圧機構を残している。
ボッシュが開発しているブレーキ・バイ・ワイヤ機構のブレーキアクチュエーター。競合他社のシステムのなかには、ブレーキの稼働を完全に電動化したものもあるが、ボッシュはあえて油圧機構を残している。拡大
試乗に供されたのは、「ホンダe」をベースとした試作車。ボッシュのエンジニアいわく、「純エンジン車で複雑なバイ・ワイヤシステムを導入しようとすると、そのためだけに電気の容量を増やさなければならない。あらかじめ大きなバッテリーが搭載される電動車の普及が、バイ・ワイヤの実装を後押ししている」とのことだ。
試乗に供されたのは、「ホンダe」をベースとした試作車。ボッシュのエンジニアいわく、「純エンジン車で複雑なバイ・ワイヤシステムを導入しようとすると、そのためだけに電気の容量を増やさなければならない。あらかじめ大きなバッテリーが搭載される電動車の普及が、バイ・ワイヤの実装を後押ししている」とのことだ。拡大
「コンフォートストップ」機能の体験より。ディスプレイに表示されているのは、ドライバーのブレーキ操作量と、システムが発生させているブレーキ圧のグラフだ。踏力がほぼ一定の状態でも、ノーズダイブを抑制するべく、システムが微細にブレーキ圧を調整しているのがわかる。
「コンフォートストップ」機能の体験より。ディスプレイに表示されているのは、ドライバーのブレーキ操作量と、システムが発生させているブレーキ圧のグラフだ。踏力がほぼ一定の状態でも、ノーズダイブを抑制するべく、システムが微細にブレーキ圧を調整しているのがわかる。拡大
車載された状態のブレーキアクチュエーター。このシステムでは、フロントバルクヘッドにブースターを取り付ける必要もなく、車両のフロントまわりの設計の自由度が、大幅に増すという。
車載された状態のブレーキアクチュエーター。このシステムでは、フロントバルクヘッドにブースターを取り付ける必要もなく、車両のフロントまわりの設計の自由度が、大幅に増すという。拡大

バイ・ワイヤ化に秘められた大きな可能性

これらと並んで、実車見取り&試乗体験で好印象だったのが、ABS作動時の音・振動の小ささ、そしてバイ・ワイヤシステム向けに開発されたというパッド型ブレーキ/アクセルペダルの操作性だった。これは、ペダルがほぼストロークせず(ストローク量は6mm)、踏力をベースにスロットル開度や制動力を制御するというもの。最初はガチっと固いペダルタッチ(ストロークしないんだから当たり前だ)に驚いたが、慣れればこれが非常に楽。普通のペダルのクルマに戻ったら、「なんて操作がおおげさで面倒くさいんだ!」と思ったほどだった。

このシステムのいいところは、機械式ブレーキと違って制御を調節できること、そしてペダルの設置場所が自由なことだ。踏力の弱い人でもしっかりフルブレーキングできるよう、個々人ごとにマップをカスタマイズしたり、ドライバーの体格に合わせて好適な場所にペダル位置を動かしたり、といったことが可能になるのである。なんなら足元にではなく、ハンドルに操作パッドを付けちゃったっていい。スズキの「セニアカー」よろしく、操作のすべてが手で行えるようになれば、より多くの人がクルマを運転できるようになるだろう。バイ・ワイヤ技術はそうした可能性も秘めているわけで、記者は「これ、ボッシュの人が考えている以上にステキな技術なのでは?」と思ってしまった。

次いで体験したのが「セントラルECUによるモーション制御」で、ここでは旧来どおりブレーキシステムに搭載された姿勢制御プログラムと、セントラルECU(……はまだ実装されていないので、今回は便宜的にESCのシステム内に搭載)の姿勢制御プログラムとを切り替えながら試乗。氷上の定常円旋回で、両者の効き具合を比較するというものだ。

で、記者の感想はといえば、「なんも違いがわからん」というものだった。同乗する技術者に恐る恐るその旨を伝えると「それでいい。それが正解」とのこと。実はこれ、制御プログラムを各機構(今回の場合はブレーキ)から分離してしまうことに対する、ユーザーや自動車メーカー、そしてわれわれ自動車メディアの不安を、払しょくするためのプログラムだったのだ。

実際のところ、ブレーキシステムからセントラルECUへと制御プログラムを移すことで、最大で80ミリ秒ほどシステムの作動は遅れるという。逆に言えば、「0.1秒も変わらん」のだ。鈍感とはいえ記者もなんの違和感もなく運転できたわけで、これについては人間性のねじくれた当方も、「なるほど、確かに」とボッシュの主張にうなずかざるを得なかった。

ブレーキ・バイ・ワイヤの採用を前提に開発された、パッド型のブレーキ/アクセルペダル。通常のブレーキペダルは15cmほどの可動域があるのに対し、こちらのパッドの可動域はわずか6mm。2026年の実用化を予定している。
ブレーキ・バイ・ワイヤの採用を前提に開発された、パッド型のブレーキ/アクセルペダル。通常のブレーキペダルは15cmほどの可動域があるのに対し、こちらのパッドの可動域はわずか6mm。2026年の実用化を予定している。拡大
コースを周回しながら、なんどもブレーキ・バイ・ワイヤの操作性を確かめる。テストカーにはモードセレクターも備わっており、操作レスポンスの変化も体感できた。
コースを周回しながら、なんどもブレーキ・バイ・ワイヤの操作性を確かめる。テストカーにはモードセレクターも備わっており、操作レスポンスの変化も体感できた。拡大
「セントラルECUによるモーション制御」は、FWD仕様の「日産アリア」の試作車で体験。ブレーキはボッシュの「デカップルドパワーブレーキ」に変更されていた。
「セントラルECUによるモーション制御」は、FWD仕様の「日産アリア」の試作車で体験。ブレーキはボッシュの「デカップルドパワーブレーキ」に変更されていた。拡大
ダッシュボードに増設された、システムの作動状態を示すディスプレイ。「VDC Portable Switch」がオフの状態では、DPB(デカップルドパワーブレーキ)の姿勢制御プログラムが作動。オンの状態ではESC内の姿勢制御プログラムが作動し、セントラルECUによる姿勢制御を疑似体験できる。
ダッシュボードに増設された、システムの作動状態を示すディスプレイ。「VDC Portable Switch」がオフの状態では、DPB(デカップルドパワーブレーキ)の姿勢制御プログラムが作動。オンの状態ではESC内の姿勢制御プログラムが作動し、セントラルECUによる姿勢制御を疑似体験できる。拡大
車載ディスプレイより、セントラルECU(実際にはESCユニット)内の姿勢制御プログラムが緻密にブレーキを調整し、車両の横滑りを軽減している様子。
車載ディスプレイより、セントラルECU(実際にはESCユニット)内の姿勢制御プログラムが緻密にブレーキを調整し、車両の横滑りを軽減している様子。拡大

つながる技術でより安心・快適に

続いて体験したのが「路面状況検知サービス」のデモンストレーション。これはビークルモーション技術単体というよりは、コネクテッド技術との合わせ技によるもので、「車載センサーが得た路面の情報を皆で共有すると、どんなイイことがあるのか?」を学ぶものだ。

舞台はテストコースのハンドリング路で、ルート上には凹凸が設けられていたり、一部がスリッピーな路面となっていたりしたのだが、試乗車のADASを作動させて半自動運転状態で走行したところ、各障害(?)の前で音およびディスプレイ表示で警告が発報された。他車がレーダー/カメラや車輪速センサー、加速度・ヨーレートセンサーなどで得た情報が、クラウドを介して共有され、それをもとにクルマが「この先段差があります」「滑りやすいですよ」と知らせてくれたのだ。

既存のコネクテッドナビなどに搭載される道路情報・交通情報機能がより高度化された感じで、ボッシュいわく「道路管理業者と情報を共有すれば、効率的な設備管理にも役立てられる」とのこと。記者としては、ADASの加減速制御とも連携させられたら、落下物との衝突や渋滞末尾での追突事故も減らせるのでは? と思った次第である。

そして最後に体験したのが、「性能のカスタマイズ」機能である。クルマの挙動にかかわるすべてのハードウエアを、集中型のソフトウエアで統合制御/協調制御したら、どんなことが可能になるのか? 試乗に供されたのは、2モーター4WDの「レクサスRZ」をベースに、リアアクスルステアとセミアクティブサスペンション、そしてボッシュが試作したステアリング・バイ・ワイヤとデカップルドパワーブレーキを搭載した車両だ。

「路面状況検知サービス」については、「フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント」の試作車で体験。車載のセンサーに、ボッシュ独自のソフトウエアが追加されている。
「路面状況検知サービス」については、「フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント」の試作車で体験。車載のセンサーに、ボッシュ独自のソフトウエアが追加されている。拡大
段差を越えたり、スリップしたりするたびに、その情報をクルマが検知していく。今回、試作車は1台しかなかったので、実際にはコースを2周し、「路面状況を検知する車両」と「路面情報の提供を受ける車両」を、一台二役でこなすかたちで試乗が行われた。
段差を越えたり、スリップしたりするたびに、その情報をクルマが検知していく。今回、試作車は1台しかなかったので、実際にはコースを2周し、「路面状況を検知する車両」と「路面情報の提供を受ける車両」を、一台二役でこなすかたちで試乗が行われた。拡大
地図上には、凹凸のある場所や滑りやすい箇所などが、その大きさや推定された摩擦係数などとともに記録されていく。
地図上には、凹凸のある場所や滑りやすい箇所などが、その大きさや推定された摩擦係数などとともに記録されていく。拡大
2周目は「情報を提供される側」のクルマの状態を体験。障害が接近すると、画面上の表示と音で警告がなされた。
2周目は「情報を提供される側」のクルマの状態を体験。障害が接近すると、画面上の表示と音で警告がなされた。拡大

統合制御でクルマはもっと安全になれる

カスタマイズ機能の体験ということで、センターディスプレイにはドライブモードのメニュー画面が映されており、そこには「Luxury」「Soft」「Sport」「Light weight」の4つのモードが表示されている。で、その下には車両の挙動を縦軸・横軸にしたマトリックスが鎮座(写真参照)。このシステム、どうやら既存のドライブモードセレクターのように、「パワートレインのレスポンスは10段階中5」「サスペンションの固さは4」といったかたちで各機構を調整するのではなく、「ヨーレートはこれぐらい」「ロールやピッチの許容量はこれぐらい」というふうに、狙いとするクルマの挙動を指標にして、各機構を統合制御するようだ。

それだけでも十分に興味深いのだが、すごいのはやはり、各モードのつくりこみ。挙動変化の振れ幅が非常に大きく、まるでクルマを乗り変えたみたいにキャラクターが切り替わるのだ。乗る前は「『ライトウェイトモード』って、そりゃ無理があるやろ(笑)」と思っていたのに、確かにレクサスRZが「マツダ・ロードスター」っぽい身のこなしをしてみせたのである。車重2tの、SUVタイプの重量級EVが!

もうひとつ、このシステムですごいのが、人間のほうでアレコレしないでもクルマの限界性能を引き出せること。理想の車両制御を実現できることだ。例えばあるコーナーで最大の旋回力を引き出そうとしたら、通常は「ハンドルをコジる寸前のところを模索しつつ、スロットルを探りつつ」なんて芸当が求められるが、このシステムではそれをクルマがやってくれるのである。

取材会では雪上でのダブルレーンチェンジでシステムの有無の違いが示されたが、オフの状態では盛大に尻を振っていたRZが、システムをオンにすると見事に挙動を収束させていた。これはスゴい、本当にスゴい。モーションマネジメントの領域で、クルマにまだ安全になれる余地が残されていたことに、浅学な記者は感動してしまった。

「レクサスRZ」をベースとした試作車。運転中はもちろん、はたからスラロームを走る様子を見ていても、モードによってロール・ピッチが大きく変わっているのが理解できた。
「レクサスRZ」をベースとした試作車。運転中はもちろん、はたからスラロームを走る様子を見ていても、モードによってロール・ピッチが大きく変わっているのが理解できた。拡大
ドライブモードを選択、調整するタッチスクリーン。右上部の「Luxury」「Soft」「Sport」「Light weight」のボタンでモードを選択できるほか、その下のマトリックスをタッチすると、触れられたマスに応じて、より細かく車両の特性が切り替わる。マトリックスは、縦軸がロール/ピッチといった車両挙動の大きさ、横軸がヨーレートの大きさだ。
ドライブモードを選択、調整するタッチスクリーン。右上部の「Luxury」「Soft」「Sport」「Light weight」のボタンでモードを選択できるほか、その下のマトリックスをタッチすると、触れられたマスに応じて、より細かく車両の特性が切り替わる。マトリックスは、縦軸がロール/ピッチといった車両挙動の大きさ、横軸がヨーレートの大きさだ。拡大
例えばこの車両で急旋回を試みた際、アナタが必要以上にハンドルを切ってしまっても、クルマが自動で、タイヤが最大の旋回力を発生する舵角を保持してくれる。そこにパワートレインやリアステアなどの制御も合わさり、クルマのコントロール性を保ちながら最大の旋回性能が発揮されるのだ。
例えばこの車両で急旋回を試みた際、アナタが必要以上にハンドルを切ってしまっても、クルマが自動で、タイヤが最大の旋回力を発生する舵角を保持してくれる。そこにパワートレインやリアステアなどの制御も合わさり、クルマのコントロール性を保ちながら最大の旋回性能が発揮されるのだ。拡大
雪上にて、車速60km/hでのダブルレーンチェンジに臨む「レクサスRZ」の試作車。車両の統合制御システムがオフの状態ではリアを振り出していたが、オンの状態ではスムーズにレーンチェンジをこなしてみせた。
雪上にて、車速60km/hでのダブルレーンチェンジに臨む「レクサスRZ」の試作車。車両の統合制御システムがオフの状態ではリアを振り出していたが、オンの状態ではスムーズにレーンチェンジをこなしてみせた。拡大

自動車メーカーと“競争”になるかも?

かように、あまたの可能性を秘めたボッシュのビークルモーションマネジメント技術。各プログラムでの試乗を通し、記者はソフトウエアと車両制御の革新がかなえる、“乗り物”としてのクルマの進化を夢想してしまった。これらの技術が実装されたら、自動車はどんなふうに変わるのでしょうね……。

ただいっぽうで、イベントの端々において、ボッシュとの間にささやかな認識のズレを感じてもいた。記者がスゴいと感じたポイントと、ボッシュがスゴいと思っているポイントが、微妙に違っているのだ。「ここまでするなら、なんでバイ・ワイヤブレーキの操作パッドをハンドルに付けないんだろう?」「この技術を応用したら交通事故も減らせそうなのに、そこは言及しないの?」等々の疑問で、微妙にモヤモヤしていたのである。最たる例が集中型ソフトウエアによる統合車両制御技術の解説で、「普段はジェントルに、一人のときはダイナミックに運転を楽しむパパ」というプレゼンテーションの映像に、「この技術のキモって、そこ?」と思ってしまった。

もっとも、関係者の皆さんのお話を聞いていると、その辺はボッシュも理解している様子。イノベーションより付加価値商品としての売り込みをしないと、自動車メーカーは技術を買ってくれないということなのか? うーむ……。

もうひとつ気になったのが、このビークルモーションマネジメント技術が、自動車メーカーが目下“手の内化”しようとしている技術の領域に、かなり踏み込んでいることである。実用化しても、「いや、そこはぜひ自分でつくりたいので、ボッシュさんの商品はいりません」と言われそうな気がするのだ。実際、一部のプレゼンでは「……これ、ほぼそのまんまの話を去年のホンダの勉強会(参照)で聞いたな」と思ってしまったほど。ボッシュは「機能ごとの“バラ売り”も可能」「ソフトウエアはハードウエアに依存していないので、他社のブレーキや操舵機構も組み合わせられる」と説明していたが……。

いや、もういっそ、ボッシュで自動車までつくっちゃいません?(笑) このシステムをバラ売りするなんてもったいない。バラ売りでも試乗会でみせたようなパフォーマンスを実現できるのか。「他はぜんぶマイクロソフトで、文書ソフトだけ『一太郎』」的な不便や非効率は起きないのか。ソフトウエアに疎い記者には、どうにも疑問がぬぐえないのだ。

それにである。これだけのビジョンがあるボッシュが完成車をつくったら、一体どんなものになるか。読者の皆さんも、ちょっと気になりませんか?

(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=webCG、ボッシュ、本田技研工業/編集=堀田剛資)

試乗プログラムの合間に、本イベントのために用意された試作車を前に休憩するメディア関係者とボッシュのスタッフ。
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バイ・ワイヤ技術の活用による、車両の運転システムの革新については、さまざまなメーカーが新しい提案をしている。写真は「ジャパンモビリティショー2023」に出展された、トヨタの「NEO Steer(ネオステア)」。スロットルとブレーキの操作装置を備えた、「アクセル&ブレーキレバー統合ハンドル」だ。
バイ・ワイヤ技術の活用による、車両の運転システムの革新については、さまざまなメーカーが新しい提案をしている。写真は「ジャパンモビリティショー2023」に出展された、トヨタの「NEO Steer(ネオステア)」。スロットルとブレーキの操作装置を備えた、「アクセル&ブレーキレバー統合ハンドル」だ。拡大
「CES 2025」における「Honda 0」発表会の様子。ホンダは2026年発売の新型EV、Honda 0シリーズに、独自のダイナミクス統合制御を導入。電子制御のステア・バイ・ワイヤとサスペンション、ブレーキを統合制御するほか、3次元ジャイロ姿勢推定と安定化制御により、意のままに操れるスムーズなハンドリングを実現するとしている。
「CES 2025」における「Honda 0」発表会の様子。ホンダは2026年発売の新型EV、Honda 0シリーズに、独自のダイナミクス統合制御を導入。電子制御のステア・バイ・ワイヤとサスペンション、ブレーキを統合制御するほか、3次元ジャイロ姿勢推定と安定化制御により、意のままに操れるスムーズなハンドリングを実現するとしている。拡大
SDVの時代へ向け、さまざまな技術を仕込んでいるボッシュ。当記事の本旨とは離れてしまうが、取材会ではライバルにはない自身の強みとして、「強固なハードウエアのノウハウ」も挙げていた。ソフトとハードの両面で高い技術力を持つ彼らが、イチから完成車をつくったらどんなものになるか? 帰りの飛行機でちょっと想像してしまった。
SDVの時代へ向け、さまざまな技術を仕込んでいるボッシュ。当記事の本旨とは離れてしまうが、取材会ではライバルにはない自身の強みとして、「強固なハードウエアのノウハウ」も挙げていた。ソフトとハードの両面で高い技術力を持つ彼らが、イチから完成車をつくったらどんなものになるか? 帰りの飛行機でちょっと想像してしまった。拡大
堀田 剛資

堀田 剛資

猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。

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