「無事、破談になりました」 ホンダと日産の統合話のウラを読む
2025.02.24 デイリーコラム一連の動きを見るにつけ……
ホンダが三部敏宏社長の体制下になって、間もなく4年を迎えようとしています。2021年の4月23日に行われた就任会見では「2040年の四輪車販売比率を電気自動車(BEV)と燃料電池車(FCEV)とでグローバル100%を目指す」といきなりぶち上げたもんですから、マスコミのみならずステークホルダーも金融業界も、なんなら社内の方々も……と、それはもう蜂の巣をつついたような大騒ぎになったわけです。いやはや、月日がたつのは早いですね。
その間、ホンダはソニーとBEV絡みの合弁会社を設立したり、ゼネラルモーターズ(GM)との協業によるBEVやFCEVの商品化にこぎ着けたりした一方、同時期にはまったく新しい4気筒エンジンを軸にしたe:HEVが「シビック」に搭載されて登場。日本未発売の「CR-V」や、「ステップワゴン」など商業的な主力車種にも展開されています。
さらに2027年以降は1.5リッターユニットも刷新し、目玉と呼ばれる理想燃焼領域を40%拡大するといいます。これを新しいe:HEVと組み合わせるのみならず、刷新されたアーキテクチャーの採用により車重は90kg削減……と、発表される内容は、2040年までにハイブリッド車(HEV)さえなきものにするような目標を立てておいて裏ではこれか! と、アナリストさまにもしかられる気配がないのは、直近の欧米、特に米においてHEVが業績に多大な影響を与えるものということが数字的にわかってきたからです。
三部さんは世紀の会見から3カ月後、グループインタビューの場で、くだんの発言について「世界が共有する環境目標から逆算すると時間的猶予はない」とし、社内にも「その意志や決意を伝えるのは今しかないと思った」と答えていました。が、実際はBEVを取り巻く全体速度が低下する一方で内燃機のサステイナビリティーが最注目される現実に、気づけばホンダはしっかり追従できているわけです。
これをもって三部さんの読みが外れたという向きも多くいますが、個人的には別の印象を抱いています。一連の動きを見るにつけ、実は三部さん、“カマシの達人”ではなかろうかと。
すべては策士の筋書きどおり!?
自らを含め、“栃木研究所の面々”の特性を肌身で知る三部さんにとって、すべてを一気に電気に振り向かせることは非常に難しい、いや不可能だろうという読みはあったはずです。であれば、むしろこっちが社を真っ二つにするような極端な方針を打ち出すことで、不可能派の分子たちが三部のたわ言には付き合ってらんねえぞと潜航し、自発的に内燃機軸のプランBを進めてくれるだろう――
と、これはあくまで個人的妄想ですが、果たして三部さんはそこまでの読みをもって絵を描くような方なのだろうか? 実はホンダの四輪部門の偉い人に、そんな質問をしてみたことがあります。すると偉い人、「就任会見の意図がそうであったかはわかりませんけれど」としたうえでいわく――
「私も長いこと近くで見てきていますけれど、三部は相当な策士だと思いますよ。端からはそう見られないかもしれないが、それも含めての策士です」
と、こんな証言を耳にした後のクリスマス直前に日産との経営統合検討の報がありまして、個人的にも年始以降の進捗(しんちょく)を伝えるニュースを注視していました。が、それが2025年2月13日の独自会見をもって2カ月に及ばず正式破談となったのはご存じのとおり。そのトリガーとして2月上旬から伝えられていたのが、ホンダが日産に完全子会社化を持ちかけたものの、日産側の怒りをかったという話です。
時系列的には統合検討開始の覚書を交わしてから冬休みを挟んで3週間程度のこととなれば、事の大きさや繊細さを鑑みても話の展開は早すぎます。日産にとっては寝耳に水だったのかもしれません。一方で、日産側の主要取引銀行にも筋を通していたというホンダ側としては、ユルユルとリソースを割いている場合ではないと、交渉のスピード感を相当重視していたことでしょう。
とあらば、子会社化の手札を見せることで相手方の尻に火をつける。これもまた、カマシの意味合いもあったようにうかがえなくもありません。一方でホンダの経営陣としても踏み込んだ采配を匂わせることは、しくじった際の信頼度や求心力に影響するわけです。ホンダは日産がキレて別れ話を持ち出すことを見越して、手を汚さず監督官庁にも顔が立つように仕向けたのではないか――という説もまことしやかにささやかれますが、三部さんも相当なリスクテイクで臨んだ話だったことは、13日の破談会見の端々から聞き取ることができました。
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日産の勝負はまだこれから
こうなると立ち回りが難しくなるのは日産です。心のよりどころだったホンダとはお友達に戻ることになり、その過程で「金庫番の取引銀行も相手側と一策練っていた」と知れば、疑心暗鬼にさいなまれることになっても不思議ではありません。
鴻海だテスラだとわかりやすいのはさておき、アップルだの……と死んだ子の年を数えるような話までささやかれる今日この頃、ライントレースをしくじって、だめんずに引っかかってしまわないように、内側の強固なスタビリティーも求められます。ホンダとは今も協業を模索する間柄であることに変わりはありませんが、技術流出がリスクとして懸念される相手との接触は即ご破算にもつながりかねませんから、日産も相当慎重に歩を進めることになるでしょう。
個人的には、今回の破談はプラスに受け止めています。ホンダが無理に日産を囲う理由もなければ、日産が泣きついてまでホンダにすがる理由もない。商品軸でみれば……の話ですが、やはり相互補完の目が見えづらいというのが一番の理由です。
逆にいえば、日産はこれからやっとこさ先端で戦える技術と商品がそろい始める段階です。特に最新世代に更新されるe-POWERを筆頭とした2026年の技術群には期待が持てます。ましてや現時点での金銭的負債はないわけですから、新商品たちの動向を見極める猶予くらいはあってもいいのではないかと思います。「SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)にはスケールメリットが優劣の要だから、日産単独の生き残りは無理」なんて仰せの方々には、現時点でSDVウハウハな自動車メーカーがどこにあるのか探してみたほうがいいですよとお伝えしておきたいところです。
(文=渡辺敏史/写真=本田技研工業、日産自動車、webCG/編集=関 顕也)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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