僅差の2025年、その先へ――F1は2026年、大改革でどう変わるのか?
2026.01.05 デイリーコラム2025年が僅差の戦いとなったわけ
2025年のF1は、一時はポイントリーダーから104点もの差をつけられていたマックス・フェルスタッペンが、シーズン終盤10戦で驚異的な追い上げを見せたことで大いに盛り上がった。最終戦アブダビGPまでもつれ込んだタイトル争いは、わずか2点差でランド・ノリスが初のドライバーズタイトルを獲得するという劇的な結末を迎えた。これは2010年から続く現行ポイント制度において、最も僅差で決着したチャンピオンシップとして記録されている。
昨シーズンはコース上でも接戦が繰り広げられた。100分の1秒単位で順位が入れ替わり、ハンガリーGP予選Q3ではトップ10台が0.543秒以内に収まる、史上最も僅差のグリッドが形成されるなど、各陣営の戦力差は大きく縮まっていた。その背景にあったのが、2022年に40年ぶりに復活した「グラウンド・エフェクト・カー」の存在である。
マシン下部のフロア下に複雑な形状のトンネルを設け負圧を発生させ、ダウンフォースの大部分を稼ぐグラウンド・エフェクト・カーは、開発面で特有の難しさを抱えていた。事実上ひとつの巨大な空力パーツともいえるフロアの出来が性能を大きく左右する一方、改良を重ねることでバウンシングやポーポシングといった望ましくない挙動が発生し、多くのチームを悩ませた。また、車体上部の空力パーツで帳尻を合わせることも容易ではなかった。
さらに、継続的な開発によって得られる“伸び代”が比較的小さく、早い段階で性能向上が頭打ちになる傾向もみられた。グラウンド・エフェクト初年度の2022年に22戦17勝、翌2023年には22戦21勝と他を圧倒したレッドブルは、いち早く開発の限界に達し、その後は相対的な優位性を失っていった。一方でライバル勢もダウンフォース重視の開発が行き詰まり、結果として各車のギャップが縮まっていったのである。しかし各車の差が詰まったからといって、前車の追い抜きがしやすくなったかといえばさにあらず。気流の乱れがマシンの挙動を不安定にし、オーバーテイクがしにくくなるという宿痾(しゅくあ)はひどくなるばかりだった。
ダウンフォース量よりもマシン全体のバランスを重視したマクラーレンは、2024年のマイアミGPで投入したアップデートを契機に躍進し、コンストラクターズ選手権を2年連続で制覇。2022年からパワーユニット開発が凍結されていたことも、非ワークスチームであるマクラーレンにとっては有利に働いた。
こうしたグラウンド・エフェクト時代の勢力図をリセットし、まったく新しいレギュレーションのもとで競争力の高いレースを実現しようとするのが、史上でもまれに見る大改革となる2026年のレギュレーション変更である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
激変のレギュレーション、2026年は新時代の幕開け
2026年シーズンほど、車体と動力源であるパワーユニットの双方が大規模に刷新されるケースはめったにない。レギュレーション変更の最大の狙いは、抜きつ抜かれつのバトルが可能な「レーサビリティー」の向上にある。車体は小型・軽量化され、より俊敏でオーバーテイクしやすい特性が目指された。
パワーユニットは、2014年から続く1.6リッターV6ターボ・ハイブリッドという基本構成を維持しつつ、新規マニュファクチュアラーの参入を促すため、簡素化と環境負荷低減が進められた。主な変更点は以下のとおりだ。
【車体面】
- 車幅は100mm減の1900mmに、ホイールベースは最大3600mmから3400mmに短縮
- 最低重量は30kg減の768kgへ軽量化
【パワーユニット面】
- 熱エネルギー回生システム「MGU-H」の廃止
- 内燃機関(ICE)と運動エネルギー回生システム「MGU-K」の出力比率を従来の8:2から5:5へ変更
- 燃料をカーボンニュートラル燃料(CNF)100%へ移行
【機構面】
- 可動リアウイング「DRS」の廃止
- 前後ウイングを可変とする「アクティブエアロ」の導入
- パワーユニットの出力を制御する「オーバーテイクモード」「ブーストモード」の採用
フロアの簡素化によってダウンフォース量は減少し、ラップタイム自体はやや遅くなるとみられている。しかし、より大きな変化は、パワーユニットにおいて電気モーターが総出力の半分を担う点だ。唯一の回生システムとなるMGU-Kは最大出力が120kW(163PS)から350kW(476PS)へと大幅に引き上げられ、エネルギーの回生・蓄電・放出を最適に制御する高度なマネジメントが不可欠となる。
追い抜きの促進策として採用されるアクティブエアロは、ストレートでは空気抵抗を減らすためにウイングを寝かせ、コーナーでは立ててダウンフォースを得る仕組みだ。さらにDRSに代わるかたちで、状況に応じて出力を上げられる複数のパワーモードが導入される。
一見するとテレビゲーム的にも映るが、空力技術の進化が皮肉にも競争を難しくしてきた現代F1において、技術的アプローチで本来のレース性を取り戻そうとする試みだといえる。
拡大 |
拡大 |
2026年シーズンで勝つために重要なこと
これだけの大改革が行われる2026年シーズンの勢力図を正確に予想するのは至難の業だが、ひとつ確かなことがあるとすれば、優れたパワーユニットが勝敗を大きく左右するという点だろう。
ターボ・ハイブリッド時代が始まった2014年以降のF1を振り返れば、その重要性は明らかだ。メルセデスは2021年まで前人未到のコンストラクターズ選手権8連覇を達成し、この間に111勝を挙げた。その原動力となったのが、卓越したパワーユニット開発力である。エネルギー回生効率の高さ、電気モーターとバッテリーを高度に制御するシステム、そして車体との最適なパッケージングにより、他陣営を凌駕(りょうが)する競争力を築き上げた。
実際、2025年シーズン中も関係者やドライバーの間では、2026年に向けたメルセデス(とパワーユニット)の優位性がしばしば取り沙汰されていた。王座奪還を狙うメルセデスが、有力候補の筆頭に挙げられるのは自然な流れだろう。
高い前評判を得ているという点では、アストンマーティン・ホンダも同様だ。ホンダ製パワーユニットは、2018年に始まったレッドブル・グループとのパートナーシップにより、172戦72勝、ドライバーズタイトル4回、コンストラクターズタイトル2回という輝かしい実績を残してきた。
2026年の新パワーユニット開発について、ホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長は、アストンマーティンの公式サイトの企画に出演し、エネルギーマネジメント効率の重要性を強調。最先端のバッテリー技術を有するホンダにアドバンテージがあると語り、新世代パワーユニットへの自信をうかがわせた。車体開発を手がけるのが、名デザイナーとして知られるエイドリアン・ニューウェイであることも、期待を高める要素だ。
フェラーリもまた、2025年型マシンの開発を早期に切り上げ、次世代マシンへリソースを集中してきたとされる。開幕前はまず信頼性を重視した“スペックA”で走行距離を稼ぎ、段階的に性能向上を図っていくというアプローチが想定されており、堅実なスタートを狙っているようだ。
レッドブルは、フォードの支援を得ながら自社開発したパワーユニット「レッドブル・フォード・パワートレインズ」を満を持して実戦投入する。その完成度は未知数で、開幕から優勝争いに加われるかは不透明だ。さらに、2025年シーズン中にクリスチャン・ホーナーがチーム代表の座を退き、長年ドライバー人事を統括してきたヘルムート・マルコも第一線を離れたことで、組織運営に不安を残す面もある。
それでも、困難な状況から立て直す力をこれまで何度も示してきたのがレッドブルというチームだ。そして何より、現代F1を代表するトップドライバーであるマックス・フェルスタッペンの存在がある以上、決して軽視することはできない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
中団勢のダークホース? 11番目のチーム
1993年にザウバーとしてF1参戦を開始したスイスを拠点とするチームは、2026年から新たにアウディのワークスチームとしてスタートを切る。
ザウバー・フェラーリとして戦った2025年シーズンは、わずか4点に終わり最下位となった2024年から大きく躍進し、70点を獲得。イギリスGPではニコ・ヒュルケンベルグが3位表彰台を獲得するなど、明確な上昇気流に乗っていた。2026年はアウディ初のF1用パワーユニット投入となるが、ルマン24時間レースで通算13回の総合優勝を誇る同社の実績を考えれば、2030年までにタイトル争いに加わるという目標に向け、着実にパッケージを仕上げてくるはずだ。
2026年のもうひとつの大きなトピックが、9シーズン続いた10チーム・20台体制が終わり、11番目のチームとしてアメリカの自動車大手キャデラックがF1に参戦する点である。
アメリカと欧州に複数の拠点を構えて挑む新チームは、マシン開発やチーム運営など多くの課題を抱えることになるだろう。そこでドライバーにはセルジオ・ペレスとバルテリ・ボッタスという経験豊富なベテランを起用し、パワーユニットとギアボックスはフェラーリから供給を受けることで、安定した基盤構築を図っている。
ハース、フォード、そしてGM/キャデラック。近年高まりをみせるアメリカでのF1人気が、いよいよコース上の戦いとして結実しようとしている。
どのチームのニューマシンもまだ1mすら走っていないなか、早くも新しいパワーユニット規定に抜け穴を見つけたメーカーが出たというニュースが昨年暮れに持ち上がった。渦中のメーカーはメルセデスとレッドブル・フォード。1.6リッターエンジンの圧縮比をルールに定められた以上にするトリックを見つけたとされ、ライバルが問題視しているというのだ。さすがは生き馬の目を抜くF1。開発競争と政治論争はシーズン開幕を前にすでに始まっているということである。
2026年1月には各チームの新型車(主にカラーリング)が発表され、プレシーズンテストは1月26日からスペイン・バルセロナでの非公開テストを皮切りに、第2回は2月11日からバーレーン、第3回は同地で2月18日から行われる予定だ。3月6日、オーストラリア・メルボルンで幕を開ける新時代のF1。その勢力図は、これから徐々に明らかになっていく。
(文=柄谷悠人/編集=関 顕也)
拡大 |

柄谷 悠人
-
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探るNEW 2026.10.8 スバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。
-
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか? 2026.10.7 いよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。
-
人件費不要の自動運転タクシー導入! で、料金はどうなる? 2026.10.5 運転手がいない完全無人の自動運転タクシーが、2027年中に国内で運用される見通しとなった。では、われわれユーザーが享受できる具体的な恩恵は? 望ましい料金とは? 清水草一はこう考える。
-
メーカー団体もついに本気になった? 日本における「自動運転」の未来と現在地 2026.10.2 日本の自動車メーカー14社で構成される日本自動車工業会が、記者会見で「自動運転」の普及・実装へ向けた取り組みを発表した。彼らは、どのようなロードマップで自動運転の社会実装を考えており、そこにはどのような課題があるのか?
-
安いのは分かってる 軽スーパーハイトBEV「BYDラッコ」のお買い得度を検証する 2026.10.1 BYDの軽スーパーハイトBEV「ラッコ」がいよいよ日本の道を走り始めた。すでに各所で報じられているとおり安いのは間違いないが、装備内容等も考慮したうえでの買い得度はどんなものか。ライバル車との比較を通じて検証した。
-
NEW
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.10.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、10月15日(木)の夜、19時半から実施します。 -
NEW
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。 -
NEW
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。 -
NEW
第131回:新型三菱パジェロ(後編) ―レトロブームには頼らない? 最新のデザイントレンドを追求した三菱の思惑―
2026.10.7カーデザイン曼荼羅正式発表を間近に控え、ますますファンの間で話題が盛り上がっている新型「三菱パジェロ」。歴史的な旗艦の復活だというのに、三菱があえてレトロブームに乗らなかった理由とは? カーデザインの識者とともに、新型パジェロに見る最新のデザイントレンドを探る。 -
写真で解説する「スズキeスカイ」
2026.10.6画像・写真軽規格の新型電気自動車「スズキeスカイ」がデビュー。2026年10月6日に東京都内で発表会が開催された。スズキが総力をあげて開発したというニューモデルの見どころや、会場における社長の談話を紹介する。 -
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】
2026.10.6試乗記「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。








