ライバルはGR? ホンダが発表したHRCのモデルラインナップとその狙いに迫る
2026.02.05 デイリーコラムホンダが新たに打ち出したHRCとは?
2026年1月の「東京オートサロン2026」(TAS2026)で、ホンダはHRC仕様のコンセプトモデルを6台展示した。「シビック タイプR HRCコンセプト」と「プレリュードHRCコンセプト」のほか、あとの4台はSUV系で、「CR-VトレイルスポーツHRCコンセプト」「ZR-VトレイルスポーツHRCコンセプト」「ヴェゼル トレイルスポーツHRCコンセプト」「WR-VトレイルスポーツHRCコンセプト」である。
TAS2026でホンダは、オンロードの「スポーツライン」とオフロードの「トレイルライン」の2つの新しいラインを展開していくことを明らかにした。シビック タイプRとプレリュードがスポーツライン、トレイルスポーツの名称が入ったSUVの4モデルがトレイルラインというわけ。いずれも、ホンダのレース運営子会社であるホンダ・レーシングがオンロードとオフロードのレース参戦を通じて培った知見を反映しており、その証拠としてHRCの名称をモデル名に付与している。
モータースポーツに精通していなければ、「HRCって何?」と首をかしげたくなるだろう。HRCはHonda Racing Corporationの頭文字をつなげたもので、本田技研工業の100%子会社である。ホンダからレースフィールドに関する業務委託を広く受けて活動するモータースポーツのプロ集団だ。
会社の設立は1982年。「クルマには興味あるけどバイクは疎くて」という人(筆者もそう)には耳なじみがなくて当然だ。HRCは、もともとは二輪のモータースポーツ活動を行う会社として設立された。1964年の初参戦以来、F1に出たりやめたりしているのをみればわかるように、とかくモータースポーツ活動は会社の業績に左右されがちだ。業績が悪くなると、真っ先に切り捨てられるのがモータースポーツ活動である。
それじゃいかんということで、二輪のほうが先に動いた。会社の業績に左右されずモータースポーツ活動を継続できるよう、別会社をこしらえたのである。それがHRCだ。もともと二輪のモータースポーツ活動を行っていたHRCに四輪のモータースポーツ活動がジョインした格好である。
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モータースポーツ直系のブランド
転機は2022年。ホンダは前年まで、「ホンダ」としてF1のパワーユニットを開発・製造し、レッドブルグループに供給するかたちで参戦していた。ところが、「将来のカーボンニュートラルに集中して取り組んでいく」ため、2021年シーズン限りでの参戦終了を発表。2022年以降はレッドブルグループに対し、パワーユニットとレース運営の技術支援を行うことになった。このタイミングで、モビリティーカンパニーのホンダではなくモータースポーツ専門会社のHRCとしてサポートすることにしたのである。HRCが新体制に移行したのは、2022年4月1日のことだった。
以後、F1だけでなくSUPER GTやスーパーフォーミュラなど、それまでホンダとして行ってきた四輪のモータースポーツ活動はすべてHRCが主体的に行うようになった。HRCの本社は埼玉県朝霞市にあるが、ここは二輪の活動拠点であり、四輪はこれまでどおり栃木県さくら市にある拠点で開発を行う。HRCへの移行に合わせ、HRD SakuraはHRC Sakuraに改称。また、アメリカでインディカーシリーズやIMSAの参戦活動を行うHPD(Honda Performance Development)はHRC USに改称した。
新生HRCの四輪部門はモータースポーツ活動にとどまらず、事業の手を広げている。2025年4月には、ホンダのモータースポーツにまつわる収蔵品の一部を、オークションなどを通じてレースファンに提供するメモラビリア事業を立ち上げた。第1弾は2025年8月の米ボナムス・クエイル・オークションに出品した、1990年にゲルハルト・ベルガーが実際に使用した3.5リッターV10エンジン「RA100E」だった。HRC代表取締役社長の渡辺康治氏は新事業立ち上げの狙いについて、「レーシングブランドとしてのHRCの価値を高めるため」と説明した。
そして、TAS2026である。HRCはモータースポーツ直系のブランドとして独り立ちしたいのだろう。トヨタ自動車のGRのように、あるいは日産自動車のNISMOのように、はたまたメルセデス・ベンツにおけるAMG、BMWのMのように。
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モデューロや無限とのすみ分けは?
GRには究極のハイパフォーマンスモデルであるGRMNがあり、本格スポーツモデルのGRがあって、エントリーラインナップに位置づけるGRスポーツがある。HRCも同様のヒエラルキーを検討しているフシがある。TAS2026に展示されたシビック タイプR HRCコンセプトは、丸ごと一台をHRCの技術でまとめたコンプリートカーで、ピラミッドの頂点に位置するモデル。
「HRCパフォーマンスパーツ」を装着したプレリュードHRCコンセプトはもっとライトな感覚で、モータースポーツの技術とムードが味わえる位置づけだろう。ストイック度に濃淡はあるが、どちらもモータースポーツのプロ集団が実際のレースで鍛えた技術と知見が反映されていることに変わりはない(はずだ)。
モータースポーツやスポーツ性を前面に押し出したラインということになると、気になるのは、既存のスポーツラインであるモデューロ(ホンダアクセス)や無限(M-TEC)とのすみ分けだ。現時点ではどうも、HRCがやみくもに突っ走っている感があり、交通整理はこれからのよう。F1、SUPER GT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久といったモータースポーツ直系のHRCを軸に、徐々にキャラクター分けがなされていくのだろう。
2025年のスーパー耐久シリーズST-QクラスにはTeam HRCがシビック タイプRをベースにモディファイした車両を走らせた。最終戦富士ではシビック タイプRの量産K20C型エンジン(2リッター直4ターボ)をベースに、HRCが開発した500PS超のレース専用エンジン「HRC-K20C」を搭載して走っている。この車両の空力パーツはホンダアクセスと協力して開発したという。HRCとモデューロ、無限はホンダとの強いつながりもあり、競合するブランド同士というわけでもなさそう。HRCを加えて、ホンダはスポーツモデルを全方位で強化する格好だ。
(文=世良耕太/写真=本田技研工業/編集=櫻井健一)
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世良 耕太
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