誰にいくらでどうやって? トヨタの「GR GT」の販売戦略を大胆予測
2026.02.11 デイリーコラムトヨタが挑む新しい世界
高級スポーツカーの成否は物語的だ。「価格」や「ブランド」はもちろん、「哲学」や「話題性」(性能、デザインを含む)、「希少性」(生産台数や供給台数)といった要素が複雑に絡み合って「物語」が生まれ、販売の成否が決まる。
斯界(しかい)のベンチマークはフェラーリだが、こちらは別格。公式マーチャンタイズからロードカー、そしてモータースポーツ活動まで見事な“登山型ビジネスモデル”を構築し、今なお多くのブランド、マクラーレンやアストンマーティンなどがその後を追いかけている。すでに独自の地位を築いたポルシェやランボルギーニ、BMWなどの存在も忘れてはならない。
ゼネラルブランドであるトヨタがそんな領域で勝負する。一見無謀にも思えるが、やりようはある。何せ今、世界の自動車メーカーで元気がある会社といえばフェラーリとトヨタぐらいのものだから。
世界で最も人気のあるカテゴリーGT3既定にのっとったレーシングカーとして常勝を目指す。そのためにベースとなるロードカーには“自動車屋”の持てる知見を惜しみなく投入する。そこでの人の経験値は必ずや未来のクルマづくりへの財産となる。動機はともかく、このあたりが語るべき「哲学」となるだろうか。
次に「物語」づくりが必要だ。それゆえのGRであり、レクサスであろう。「ブランド」にはヘリテージが必須となるが、GRはもちろん、レクサスであっても十分とはいえない。けれどもトヨタにはそれがある。そこでトヨタ=「2000GT」、レクサス=「LFA」、GR=「GT」というグループ総出のヘリテージストーリーを紡いだ。F1ハースへの大胆な露出もその延長線上だろう。
販売価格はいかほどか
プロトタイプが発表された。しかも3台同時に! ということで、すでに日本市場における「話題性」は十分だろう。あとはそれをいかに世界へと広げていくか。2027年からといわれているGR GTのマーケット投入に向け、開発はもちろん、マーケティングや販売の活動もますます重要になっていく。
スポーツプロトタイプではなく、FIA GT3既定のレーシングカーを頂上に据えるというからには、ロードカーの生産台数はそれなりに多くなるはず。レギュレーション上でベース車両の生産台数を縛る規則はない(レース車両にはある)けれど、世界を見渡しても年産2000台程度のスポーツカーがベースになっているケースが多い。
トヨタがいったい年産何台つくろうとしているかは分からないけれど、いずれにしても何年継続するかによっても総生産台数が決まり、「希少性」という価値の一端が定まる。GT3レースがしばらく盛況に続くと仮定すれば、メーカーが生産し供給するレーシングカーという性格上、しばらく継続的に生産し、進化させていく必要がある。フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェ、アストンマーティンなど、メジャーブランドのGT3およびベース車両はみんなそうだ。3年以上はつくり続けて、「希少性」という意味では最終的に“そこそこレベル”に落ち着くことになる。逆になんらかの理由で早々に撤退となれば「希少性」は高まるが、肝心の物語が未完成に終わってしまって……。
そうなると既存のGT3ベース車両、なかでも同じようなFR+V8というハードパッケージを持つモデルと(積み上げ式のコストはともかく)販売「価格」もまた横並びにならざるを得ない。勝手に予想すれば、ベースモデル3000万~3500万円、ローンチエディション3500万~4000万円、3年後以降に+スペシャル(限定)で5000万円、GT3で8000万円あたりではないだろうか。
誰にどうやって売るのか
最後に、現時点では世界的に見て確固たるブランド性を築き終えてはいないGRが、F1やラリーでのイメージ戦略と並行して考えておくべき(そしてもちろん考えているし、そのための準備も続けてきた)ポイントはもちろん、GR GTそのものの販売方法だ。
発表と同時にオーダーを受け付けデリバリーへ、といった通常のモデルと同じ手法は当然ながら採らないし、採れない。何しろ3000万円以上のスポーツカーである。いきなり店頭販売は難しい。それに「物語」としても最初のデリバリーは重要で、転売ヤーの飯のタネになるようじゃイメージが悪い。
これまた勝手な予想だが、例えばローンチエディションのカスタマーをメーカーがダイレクトに選ぶという“マラネッロ・スペチアーレ商法”を採るのではないか。手だれのユーザーに乗ってもらうことで、いいクルマであることを世のクルマ好きに知らしめる。
「センチュリー」ですでに顧客を選んだ実績はある。とはいえ、地元の名士とトップクラスのクルマ好きとではあまりにカテゴリーが違う。レクサスでもやろうと思えばできるがブランドストーリーのつじつまが合わないし、電動のオリジナルモデルも控えている。
見込み客はたくさんいる
ではGRにそれができるのか?
できる。なぜなら実績があるからだ。モータースポーツ活動を通じてのさまざまな関係者ルートも活用できるだろうし、ジェントルマンドライバーにはこの手のスーパーカーマニアも少なくない。
さらにこれまでのGRの限定車、「ヤリス」や「スープラ」の顧客リストも実は使える。「GRMNヤリス」のオーナーにスーパーカー好きが多いことはよく知られている事実だ。
加えてヘリテージを重視するためにも、トヨタ2000GTやレクサスLFAの現オーナーにも優先的に声をかけるという手も考えられる。それに忘れてもらっちゃ困るのが、幻のハイパーカー「GRスーパースポーツコンセプト」プロジェクトだ。あの時、市販に向けてすでに彼らは世界のハイパーカーオーナーたちとコンタクトをとっていた“はず”である。
まずはそこに1年、ひょっとすると2年目までの生産台数をあてこむ。もちろんそれらはGRディーラーを通じてデリバリーされる。そこで実際に車体やオーナーと接することでスタンダード版の販売へのOJTとする(ハードルは高いけれど)。
ローンチエディションを何台にするか。いつ、どのようにスタンダードエディションへと切り替えるか。そのあたりの戦略性もまた重要になることは間違いない。そして一般ユーザーに購入のチャンスがあるとすれば、早くて2年後、遅くて3年後か。もっとも、クルマの完成度が高く、評判が評判を呼び、またレースでもGT3マシンが圧勝するような事態になれば、さらに先伸ばしになるかも。いちファンとしては、そんな和製スーパーカーとなることを期待してやまない。
(文=西川 淳/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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