プジョーRCZ RHD 6AT(FF/6AT)/LHD 6MT(FF/6MT)【試乗記】
MTはサイコー、ATはフツー 2010.09.02 試乗記 プジョーRCZ RHD 6AT(FF/6AT)/LHD 6MT(FF/6MT)……399.0万円/423.0万円
いよいよデリバリーが始まった、プジョーのコンパクトスポーツクーペ「RCZ」。エンジンの異なる2グレードに試乗し、その違いを探った。
見かけ倒し、かと思ったら
胸を高鳴らせながら向かった「プジョーRCZ」の試乗会、80分枠×2の前半を終えたところでは1対1の引き分けだった。いまいちスカッとしないというか、残念な感じ。
日本仕様の「プジョーRCZ」は、156psの1.6リッターエンジンに6ATを組み合わせた右ハンドル仕様と、同じく1.6リッターながらチューンの高い200psのエンジンを6MTで操る左ハンドル仕様がラインナップされる。前半は6AT仕様に試乗したのだけれど、これが正直、パッとしなかったのだ。
別にどこが悪いというわけではないけれど、運転した感覚は実に平凡で、何を狙ったクルマなのかが曖昧(あいまい)だ。そのステキなデザインは運転していると見ることはできないから、しばらく乗っていると乗り心地の悪い「プジョー308」に乗っているような気分になる。ちなみにRCZは、308をベースにして開発された2+2クーペだ。
「でもこんなにカッコいいのだからそれだけでもうけもん、クルマの神様に感謝せんと」と、自分に言い聞かせる。アンジェリーナ・ジョリーが優しくて料理まで上手だなんて、そんなうまい話があるわけないのだ。だから眺めているだけであっという間に10分ぐらいたってしまうデザインと、退屈なドライブフィールで1対1の引き分けだ。大きかった期待を裏切った分、1対2の劣勢かもしれない。
ところが!! 左ハンドルの6MT仕様に乗ってブッ飛んだ。こいつはいい。西洋甲冑(かっちゅう)を着込んだ騎士のようなお面と、Aピラーからルーフを経てCピラーへと至る「アルミナムアーチ」、そしてルーフからリアウィンドウにかけて豊かに隆起する「ダブルバブルルーフ」デザイン。こういった要素が織りなすデザイン性の高さと、がっぷり四つに組んで負けないファン・トゥ・ドライブがあるのら。コーフンのあまり「あるのだ」と書こうとして「あるのら」とミスタイプしてしまうほど、「プジョーRCZ」(の左ハンドル6MT仕様)は楽しいクルマだった。
背筋がぞくぞくする快音の秘密
左ハンドルの6MT仕様の運転席に座ってまず気付くのは、左足を置くフットレストが立派なこと。アルミ製で、サイズにも余裕がある。エレキギター用の小さなエフェクターを踏んでるみたいだった右ハンドル仕様のフットレストとは大違いだ。東西南北どの方向に動かしても引っかかりがない、それなのにシフトしているという手応えは伝える、理想的なシフトレバーを1速に入れる。
そして、これまた適度な反力を伝えながらスムーズに作動するクラッチをつなぐ。開発にBMWが一枚かんでいる1.6リッターの直噴ターボエンジンは、アイドル回転付近からトルク満々だから、アクセルペダルには触れずにクラッチペダルの操作だけで力強く発進する。そこからアクセルペダルを踏み込むと、いかにも抜けのいい乾いた音でドライバーを楽しませる。音質は中音域を強調した濁りのないもので、「フォーン」と「コーン」を合わせて半濁音を付けた感じ。背筋から腰にかけてぞくぞくするような音だ。
この快音には秘密がある。吸気系に取り付けられた振動板がターボの過給圧に応じて共鳴、さらに増幅して車内に響かせているのだという。プジョーが「サウンドシステム」と呼ぶこのメカニズムの効果について、「やりすぎ」「会話ができない」という声も出た。けれども個人的には、スペシャルなモデルなんだからスペシャルな演出があっていいと思う。会話がしたければ、もっと大きな声を出せばいい。
音だけじゃなく、回転の上昇とともに盛り上がるパワー感も快感だ。スロットル操作に対するレスポンスの鈍さや突然パワーが盛り上がるといった、ターボの悪癖は一切ない。1.6リッターのターボエンジンというよりは2.5リッターぐらいの自然吸気エンジンのようなフィーリングだ。ドラマもなければ鋭さもない、昼あんどんみたいだった右ハンドルの6AT仕様が積む156psエンジンとは大違い。
ちなみに、右ハンドル156ps仕様に搭載されるアイシンAW製の6ATは、可もなければ不可もないといった印象。多段化こそ果たしたけれど、べらぼうにスムーズでもなければ変速が素早いということもない。実用車には十分だけれど、RCZのようなモデルに搭載するのであれば仕事をこなすだけでなく、もう一歩踏み込んで洗練や爽快さを伝えてほしい。
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ハイパワー版のほうが乗り心地もいい!?
曲がるのも得意。ただし、コーナーにダーッと突っ込んで強いブレーキング、ステアリングホイールをギュッと切ってキュッと曲がる、みたいなスタイルだとうまくいかない。サスペンションの豊かなストロークをフルに使って外側のタイヤを沈みこませ、きれいにロールさせながら優雅に曲がるのが一番しっくりくる。ピュアなスポーツカーというよりも、しなやかなスポーティなクーペの趣で、乗り心地も快適だ。
フロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビームというサスペンション形式は、ベースとなった308と共通。乗り心地で不思議だったのは、高出力化に合わせて足まわりも固められている左ハンドル6MTの200ps仕様のほうが、右ハンドル6ATの156ps仕様よりも快適だったことだ。不整を乗り越えてもボディの揺れは一発で収まり、イヤな後味が残らないからスッキリ爽やか。ボディの揺れが残らないぶん、安定性も高いように感じる。
ちなみに156ps仕様は標準だと18インチのタイヤを履くが、試乗車はオプションの19インチが付いていた。156ps仕様の足まわりに19インチのタイヤはオーバーサイズである、というのは勝手な推測であるけれど、足元がバタつく感じはタイヤとサスペンションのミスマッチを感じさせた。
「プジョーRCZ」(の左ハンドル6MT仕様)は、目で愛でることができて、耳が心地よくて、走らせても楽しい花マルのニューモデルだ。FFの“シャレオツ・クーペ”ということで、同価格帯の「アウディTT」と張り合うことになるだろうが、内容的にもいい勝負だ。
お気付きのように、プジョーとして初めて車名に数字が付かないモデルであり、新しいエンブレムを初めて用いたのもこのRCZだ。つまり創業200周年を迎えたプジョーがRCZを発表することで「これからはプレミアムなブランドを目指す」という意思を表明したのだ。「プジョーRCZ」(の左ハンドル6MT仕様)の出来のよさから想像するに、プジョーはこれから面白くなりそうだ。ただしプレミアムを標榜(ひょうぼう)するのであれば、右ハンドルのオートマもしっかり作ってほしい。「左ハンドルがRCZなら、右ハンドルはRCX」という声が出たほどなのだ。もう何十年も同じことを言われているわけですから。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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