“ウインカーのカチカチ音”は、どんな理由で決められているのか?
2026.05.05 あの多田哲哉のクルマQ&Aウインカー(方向指示器)を使う際のカチッ、カチッという音は、どんなクルマでも必須である一方、よく聞くとブランドや車種によって違うようです。一体、どんな根拠や考えをもって設定されているのでしょうか?
ウインカーの音がカチカチと鳴るのは、昔、「リレー」という部品を使っていたからです。電気を流したり切ったりする際に、リレーの中の銅板がくっついたり離れたりする物理的な作動音が「カチカチ」と響いていたんですね。
ですが、今のクルマのウインカー操作はすべて電子式になっていて、物理的なリレーはもはや使われていません。極論をいえば、音を出す必要すらないのです。
それでも音を鳴らしているのは、昔からの慣れや、ウインカーの消し忘れを防ぐといった実用的な理由からです。今の音はすべて、スピーカーから流れる“電子音”にすぎません。
つまり、スマホの着信音と同じで、音色や音量は自由に変えられます。実際、過去にはウインカー音を選べる車種も存在しましたが、ユーザーからのニーズがそれほど多くはなかったため、今はあまり見かけませんね。
正直に言うと、私自身はこれまでクルマを開発してきたなかで、ウインカーの音にこだわったことは一度もありません。基本的にはサプライヤーから納品される、その年次の標準的なユニット(アッセンブリー)を採用しています。
多くの場合は、クルマのレベルに合わせて数種類(松竹梅)のなかから最適なものを選んで決めています。こだわりを持つ開発者もいるかもしれませんが、私にとっては「特にこだわりのない部品」の代表例でした。
ただし、こうした一見「どうでもいい部品」にこだわると、面白い付加価値が生まれることもあります。例えば、私が「86」を開発した際、ウインカーと同じように標準品を使い回すのが一般的だったルームミラーに疑問を持ち、新たにつくり直したことがあります。この新開発のフレームレスミラーは結果的にレクサスのミラーよりも高価なものになったのですが、それがクルマの大きな特徴や付加価値になりました。
ウインカーの音も、あえてこだわればブランドの個性になり得るわけで、例えばMINIなどは、キャラクターづくりの一環として、音に非常にこだわっていますよね。誰かが真剣にこだわれば、みんなが欲しがるような面白いウインカー音ができる可能性は十分にあると思います。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。