第962回:路上の伏魔殿? イタリア式パーキングチケット発給機のワナ
2026.05.21 マッキナ あらモーダ!カーライフの鬼門
1980年代中盤、自動車運転免許を取得した筆者には、人に言えないコンプレックスがあった。「パーキングメーターを使ったことがない」ことだった。独身時代に東京都心勤務だったという母親から、どのようなものか説明は受けていた。だが、筆者が育った東京郊外にパーキングメーターが存在しなかったのである。
だから最初にパーキングメーターを使ったのは、大学生時代に旅したオーストラリアやアメリカだった。本当にあったかどうかは失念したが、当時流行していた鈴木英人のイラスト風のたたずまいに感激した。そして、用もないのにレンタカーを路上駐車し、おそるおそるコインを入れてみたのを覚えている。
「さあ、東京でも都心まで運転してゆき、さっそうとパーキングメーターを使いこなすぞ」と張り切ったのもつかの間。1990年代に入って、緑色のパーキングチケット発給機にどんどん取って代わられた。
1990年代末に住み始めたイタリアでも、パーキングチケットの時代になっていた。しかしながら困ったのは、料金体系の煩雑さだった。土曜を除く平日、土曜、日曜祝日などで金額が細分化されていて、それも自治体ごとに異なるのだ。観光地では繁忙期のみ有料という所もある。加えて夜間無料はまだしも、昼食を家でとる住民に配慮して午後の一定時間帯はタダという街もある。一例として本項3番目の写真をご覧いただきたい。左は「トラック禁止」「パーキングチケットによる有料。SCRおよびQURと表示されたカードを持つ住民は無料」「駐車場内全域」「4月1日から10月31日(まで有料)」。右は「チケット(は、ここ)」「有料期間(左と同じ)。平日および日曜祝日、8時から20時。1時間2ユーロ(約370円)、1日24時間10ユーロ(約1850円)」と記されている。硬貨を投入する前に、これを読み解かないといけないのだ。
にもかかわらず、チケット発給機は緻密にプログラミングされていないことが多いので、タダの時間帯でも誤ってコインを入れるとペロッと発給してしまうことがある。つまり、無駄に市の収入を増やしてしまうのである。
支払いの面倒くささもあった。釣りが出ない機械の場合、正確な金額の小銭を持ち合わせていないと泣く泣く余計に投入する必要があった。紙幣挿入可能な発給機というのもあるが、これがかなりの確率で不機嫌で、何度入れても突き返される。ついでに言うと、ナンバープレートの番号も、視認性が悪いディスプレイを見ながらキーボードで入力する必要がある。
そもそも、路上で硬貨や紙幣を出すために財布を取り出すのは、場所によってはひったくり被害に遭う危険性が高い。さらに慣れない土地で操作に時間がかかっていたりすると、犯罪者にとって格好の餌食になる恐れがある。
逆境に差した一条の光明は、クレジット/デビットカード対応チケット発給機の登場であった。だが、こちらも読み取っているのかいないのか、今ひとつ機械の反応が悪いことが多かった。とくにタッチ決済のパッドは最新機でないと“死んでいる”ことが少なくなかった。そうしたなか、期待できるシステムが近年登場した。何かというと……。
爆誕、アプリ決済
「アプリ決済」である。既存のチケット発給機に、アプリケーション(アプリ)運営業者のQRコードが貼られている。それをもとに各自がスマートフォンにダウンロードして使うものだ。いわば、バーチャルのパーキングチケットである。
2026年5月のある日、筆者が県内の行楽地に赴いたときだ。数年前まで無料だった青空パーキングが有料化されていて、チケット発給機が設置されているではないか。地方自治体による駐車場課金は、ちょっとしたブームである。小銭を持ち合わせていなかったうえ、ここのところの習慣で物理カードも持っていない。タッチ決済も前述のように今ひとつ信用できない。そこで、初めてアプリ決済に挑戦することにした。
発給機に貼られていたQRコードには「イージーパーク」と記されていた。後日知ったことだが、運営しているのはスウェーデンに本社を置くアライブという企業だ。もとをたどると、遠く1955年にスウェーデン初のパーキングメーターを設置した法人にさかのぼる。2000年代に欧州数カ国の複数の企業と合併・吸収を繰り返しながら、今日に至っている。
まずはともあれ、QRコードを読み取ってアプリのダウンロードである。理解していただきやすいよう先にことわっておくと、発給機とQRコードからのアプリは、まったく連動していない。筆者が使っている「iPhone」のAppストアにおける国・地域設定は通常「日本」で、ダウンロードできないアプリに遭遇したときのみ「イタリア」に切り替えている。しかし、パスワードを入力し直すなど、ちょっとした手間が必要で、それなりにおっくうだ。幸い、イージーパークのアプリは「日本」のままで大丈夫だった。個人情報や自動車ナンバー、クレジットカード情報を入力する。すると、スマートフォンのGPS機能と連動して現在の駐車場が地図で表示されたので、タッチ。駐車希望時間(たとえば2時間)を入力して決済が完了すると、画面上で残り駐車可能時間が表示され始めた。
しばらくするとアプリには「あと◯分」というプッシュ通知が表示された。これなら時間超過のうっかりも少ない。延長したい場合もアプリ操作で支払うだけだ。チケット発給機まで戻る必要はない。駐車料金のほかにサービスチャージ15%が上乗せされるが、個人的には、前述したような煩雑さや危険から解放されるのなら、仕方ないと考える。
イージーパークのウェブサイトによると、すでに21の国・地域で展開し、4200以上の自治体、6000以上のパーキング運営団体と連携。一度アプリをダウンロードして設定すれば、どこの国・地域の対応機でも有効だという。もう他国にクルマで行っても、駐車にビビることはない。
そのようにいいことずくめのアプリ決済だが、ふと素朴な疑問が頭をよぎった。
それでも残るモヤモヤ
それは、駐車中のクルマがアプリ決済済みかどうかを、どのようにして検査員(イタリアの場合、多くはヴィジリ・ウルバーニと呼ばれる都市警察官)がチェックするのか? ということだ。イージーパークを使用したかどうかは不明だが、隣のクルマを見ると、ワイパーに反則切符がはさまれている。気味が悪いので、紙切れに手書きでEasyParkと記し、ダッシュボード上に置いておいた。
帰宅してからイージーパークのウェブサイトを確認すると、検査員側の端末を通じて、リアルタイムで当該ナンバープレートの車両が支払い済みかを照合できる仕組みになっていることが判明した。ただし、「一部地域では、ダッシュボードに手書きのメモまたはEasyParkマーク(筆者注:自分でロゴをプリンター出力するということか?)を明示する必要があります。それが必要な駐車場の場合はアプリでお知らせします」とも記されているではないか。筆者が駐(と)めた場所は該当していなかったものの、どこかモヤモヤした感じになる。
コミュニティーサイト「レディット」には2025年の投稿として、「アプリで料金を払っていたのにもかかわらず、反則金の通知が来た」といった報告がみられる。さらにイージーパークは、偽アプリに誘導して支払わせる悪質なQRコードが出回っていると注意喚起している。路上有料駐車は、まだまだ伏魔殿の状態が続きそうだ。
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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