ボルボのフラッグシップ電気自動車「EX90」が上陸 軌道修正された電動化戦略の今を探る
2026.08.13 デイリーコラム100%電動化の時期と目標を修正
2022年11月にグローバルデビューを果たしたボルボのフラッグシップ電動SUV「EX90」が、いよいよ日本の道を走り始めた。2026年7月に発売されたEX90は、全長が5m超、全幅がほぼ2mという堂々たるサイズの3列シート7人乗りのSUVだ。106kWhの大容量バッテリーを搭載し、一充電走行距離はWLTCモードで650kmを誇る。
このEX90のプロフィールやラインナップにおける立ち位置と、内燃機関を搭載するフラッグシップモデルとして長年親しまれてきた「XC90」のデビュー(2014年9月)からの年月を振り返ると、単なる「電動大型SUVの追加モデル」にとどまらない、ボルボが推進してきた電動化戦略の足跡と葛藤が浮かび上がってくる。
もはや過去の話であり、メーカーとしてはあまり触れられたくないことかもしれないが、ボルボは2021年3月に「2030年までに100%電気自動車(BEV)ブランドへ移行し、販売もオンラインへ一本化する」と宣言した。当時は車両も販売方法も次世代の潮流をいち早く具現したものと受け止めることができたが、その後の市場の波は、ご存じのように決して穏やかなものではなかった。
宣言から3年が経過した2024年9月、ボルボは2030年までとしていた電動化の目標を修正。「100%BEV」から「プラグインハイブリッドなどを含む電動車比率を90〜100%に」と大きく方向転換を行った。わずか3年の間にBEVを取り巻く環境が大きく変わったことを受けての現実的な判断といえる。その背景には欧米での政策や政治的なアレやコレも深く関係しているだろうが、それらについてはまた別の機会に譲る。
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ブランド別BEVシェアでボルボは2位
ここ数年のBEV市場を振り返ると、急進的な電動化シフトに対する揺り戻しと言える現象が世界的に起きているように感じる。充電インフラの不足や車両の残存価値(リセール)に対するリスクが浮き彫りとなり、結果としてハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の実用性が再評価されたかっこうだ。欧州では、中国ブランドによるシェアの拡大も懸念されたと聞く。
日本においても、BEV市場の成長スピードは決して好調とはいえない。軽規格やコンパクトモデル、都市型クロスオーバーなどのカテゴリーでは着実に浸透しつつあるものの、一家に1台を担うファミリーカーや長距離移動を前提とするプレミアムなGTモデルあたりでは、走行距離への不安や価格的なハードルから、依然として内燃機関を併用するモデルが支持されている。
こうした情勢に対し、ボルボはハイブリッド車も並行して展開する柔軟な姿勢をみせつつも、プレミアムブランドとしての電動化自体は力強く推進している。その明確な回答こそが、フラッグシップBEVであるEX90であり、そのセダン版にあたる「ES90」、そして追って登場する「EX60」である。
ボルボ・カー・ジャパンの発表によれば、国内の輸入プレミアムブランドにおけるBEVのブランド別シェアで、ボルボはテスラに次ぐ2位につけている。PHEVを含めた電動車全体でも、テスラ、レクサスに次ぐ3位のポジションである。もっとも、BEVのブランド別シェアは1位のテスラが68%と圧倒的な強さを見せており、2位のボルボが8%、3位のMINIが7%で続く。
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エンジン車のフラッグシップと同等というリアリティー
EX90において、もうひとつ注目すべきは価格の設定だ。エントリーグレードの「プラス ツインモーター」が1199万円、上位の「ウルトラ ツインモーター」が1349万円、最上級の「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」が1399万円となる。1000万円オーバーというプライスラインは庶民にとって当然手軽とは言えないが、既存のPHEVモデルであるXC90のハイエンドグレードとほぼ同等、あるいは同等の価格帯に抑えられている点は見逃せない。
従来のプレミアムBEV市場では、「BEV=同等サイズのガソリン車よりワンランク上の先進商品」という位置づけが一般的だった。しかしボルボは、フラッグシップを求める顧客に対して「エンジン車かBEVか」を価格差ではなく、ライフスタイルと好みによる選択肢として提示した。
WLTCモードで650kmという一充電走行距離は、休日のロングドライブでも充電のストレスを大幅に軽減する。インフラに対する心理的ハードルを、バッテリーと技術の進化によって力強く押し下げようという意図がうかがえる。
また、EX90はボルボ初の本格的なソフトウエアデファインドビークル(SDV)でもある。購入後も無線通信(OTA)を介して安全機能やドライバー支援システムが継続的にアップデートされ、時代とともにクルマ自体が進化していく。
EX90の登場は、プレミアムカーにおけるBEVの役割が、アーリーアダプター向けから、上質で安心な普段使いへとシフトしたことを示している。静けさと力強い加速、北欧デザインの居心地よいインテリア、そして妥協なき安全技術。過剰な装飾を排したシンプルでモダンなスカンジナビアンデザインの美学はそのままに、次世代モデルとしての基礎力と魅力を高めた。
電動化のロードマップが世界的に再構築され、理想と現実のギャップが整えられつつある今、ボルボもその渦中にいる。当初の計画であれば内燃機関モデルは徐々に姿を消し、「E」で始まる車名だけがラインナップを埋め尽くすはずだった。このフラッグシップSUVが日本の道を走り始めることで、プレミアムBEV市場におけるボルボの存在感がどう変化していくのか注目したい。
(文=櫻井健一/写真=佐藤靖彦、ボルボ・カー・ジャパン/編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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