スポーツカーに未来はあるか?

2026.09.01 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカー。多田さんご自身もそのように言われていますが、果たして、この先も存在しうるでしょうか? その将来性、未来のスポーツカー像について、ご意見をお聞かせください。 

これもいろいろなところでよく聞かれます。自動車業界ではしばしば話題になるテーマですよね。

皆さんがイメージする「スポーツカーの未来」というのは、おそらく“昔ながらのスポーツカー”についてのことだと思います。つまり、エンジンがでっかくてパワーがあって、排気音がバリバリ鳴るようなクルマです(笑)。しかし、そういった従来型のスポーツカーがこの先もずっと続いていくかというと、それは非常に難しいというのが現実です。

排出ガスの規制に加えて、騒音規制も年々厳しくなっています。「スープラ」を発表した時にもコメントしたのですが、このクルマは、従来型のスポーツカーをつくって市販できるギリギリのタイミングで発売に至りました。今年、2026年で生産終了となったのも、そうした規制や環境の変化が背景にあるのです。

ただし、スポーツカーの概念や定義、そして皆さんがスポーツカーに期待するものは、技術や環境、さらには人々の興味の方向性によってどんどん変わっていくものだと思います。私はそれこそが、この質問に対する答えであり、スポーツカー存続のポイントになると感じています。

これまでのスポーツカー像の根底にあったのは、やはり「モータースポーツ」でしょう。中でも、その頂点である「F1」の姿。それらへの憧れから、市販のスポーツカー像が形づくられてきたわけです。

それを踏まえて考えれば、今後の答えもここにある。くしくも今シーズン(2026年)から、F1のレギュレーションは大きく変わりました。これについては賛否両論あって、昔からのレジェンドといわれる人たちや古いファンのなかには辛辣(しんらつ)な意見の方もいますが、今年ランキングトップを走っているのは20歳になったばかりの若いドライバー(アンドレア・キミ・アントネッリ)です。明らかに、新しい世代の感覚でうまくアプローチしているわけですね。

そんな今年のF1における、レギュレーション改定の大きなポイントは2つあります。「マシン自体が小さくなったこと」と、「電気エネルギーの使い方が一段と勝敗を左右するようになったこと(=ドライバーが電気をコントロールして速く走らせる比重が増したこと)」です。ここに、これからのスポーツカー像につながる大きなヒントがあると思います。

以前、このコーナーには「シフトパドルに代わる、ATのシフト操作の将来についての質問」が寄せられ(関連記事)、私は「そもそもシフト操作自体が要らなくなる」と答えました。これまでは「ハンドルを切る」「アクセルとブレーキのペダルを踏む」に「シフト操作」があって、それらをいかにうまくこなすかで運転のうまさが決まっていましたが、今後はシフト操作の代わりに「電気エネルギーのマネジメント(制御)」が加わってくることになります。

EVに乗っていない方でも、加速性能を変化させる走行モードのスイッチや、回生エネルギーの強さを切り替えるボタンがEVに付いていることはご存じかと思います。そうした「電気をコントロールする操作」が新しく加わり、そのコントロールがうまいかヘタかで走りが変わる時代へと変化していっているわけです。

つまり、「運転を楽しむ」ということ自体の成り立ちが変わってきていて、そうしたパッケージングの中から、新しい時代のスポーツカー像が確立していくのだと考えます。そして、クルマの中身や技術は時代とともに変わっても、本質である「運転を楽しむ」という点に着目すれば、スポーツカーの未来はまだまだ明るいと思います。

今は、フル電動化へ完全に移行する前段階、つまり「足踏みしている過渡期」なわけですが、再三言われているように、スポーツカーのようなニッチで需要の少ないものを世に出していくというのは容易ではありません。従来型の手法のままで無理につくろうとしても、非常に中途半端な商品になってしまうでしょう。電動化の波は、タイミングのズレはあったとしてもなくならないですし、今後は自動運転の技術も当たり前のように進化していきます。

もっとも、「自動運転のスポーツカー」というのは矛盾していますけれども(笑)、自分がコントロールして楽しいという観点に立つならば、電動化や自動運転の流れの中で「いかに運転を楽しめるか」を現実的に考えていくのが筋だと思います。

その点、2026年5月に発売されたホンダのコンパクトEV「スーパーONE」には、大いに考えさせられました。

実は私自身、近くのホンダディーラーでスーパーONEを借りて1週間ほど乗ってみたのですが、本当に面白いクルマでした。世間では「手厚い補助金でお得に乗れる」という話ばかりが目につきますが、そんなことはさておき、これは純粋に「未来のスポーツカーに向けた提案やアイデアが詰まったクルマ」だといえます。

まず、軽自動車ベースで車体が小さい(全長×全幅×全高=3580×1575×1615mm)。航続距離を無理に伸ばそうとせず(一充電走行距離はWLTCモードで274km)、バッテリーをむやみやたらと積まないことで、車重も抑えている。現在市販されてるEVでスポーツモデルを名乗っているクルマの大半は、バカでかい電池を搭載しています。それで車体が大きく重いために運転の楽しさが台無しになっているのですが、スーパーONEはまさに逆。あのような構成の“小型EVスポーツカー”は、世界的に見てもまだほとんどありません。

1090kgという軽さゆえにハンドリングがすごく楽しめるし、コンパクトなので日本のワインディングロードで非常に扱いやすい。さらにブーストモードや仮想有段シフト制御などで「新しい電気的な操作」も堪能できる。おまけに街乗りや買い物などの実用性も非常に高い。長距離ドライブを除けば、本当に言うことなしの素晴らしい企画だと思います。

ホンダもいまは新型EVに大きな投資をできないので、既存の軽EV「N-ONE e:」をベースにつくっていますが、非常に面白いパッケージに仕上げている。各社のエンジニアも「こういう表現方法(やり方)があるのか!」と気づかされたはずです。

もし私が、ホンダのようなしがらみがなくゼロから電動スポーツカーの開発を任されたなら、やはり、小さく軽くしたいですね。車両重量でいうと「1500kg以下」を目標に。1200~1500kg程度まで許容すれば、スーパーONEよりは多くのバッテリーが積めますし、モーターのパワーも増やせます。

そして、できれば「ツインモーターの4WD」にして、前後のトルク配分や左右のベクタリングを自在にコントロールできるようにする。モーターによる前後左右のトルク配分は、クルマの運動性能にとって特別な意味を持ちます。今までの内燃エンジン車とは全く次元の違う走りを体験できるクルマになるはずです。

1500kg以下で、コンパクトで、前後左右のトルクベクタリングを備えた四輪駆動の小型EVスポーツ。これが開発できたら、間違いなく、ものすごく面白いクルマになりますし、これからの新しいスポーツカーの軸になっていくと思います。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。