第128回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(前編) ―厳しい制約が鍛えた独創の美と創造性―
2026.09.16 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
日本の地に自動車産業が芽生えて幾星霜。今やすっかり自動車大国となったわが国だが、ことカーデザインの質については、世界的に見てどれほどのレベルにあるのだろうか? 日本車の“美”がさらに進化していくうえで必要なもの、足りないものを、カーデザインの識者&読者の皆さんと考えてみた。
※今回の内容は、2026年8月24日に開催した「ぶしつけ御免! 人気連載『カーデザイン曼荼羅』公開収録&交流会」の内容を編集したものです。
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日本のカーデザインはここがスゴい!
webCGほった(以下、ほった):(来場者へ向けて)告知のとおり、今回のテーマは「日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの」というものなのですが、本題に入る前に、皆さんのなかで「日本のカーデザインは世界的にもイケてるほうだ」と思う方は手を挙げてください。……ほうほう。逆に「まだまだだな」と思う方は? ……なるほど。
清水草一(以下、清水):「イケてる」が多数派なんだね。
ほった:意外ですな。webCG読者は、もっと日本のデザインについてキビしいと思っていました。
渕野健太郎(以下、渕野):それならせっかくなので、ここはまず「日本のカーデザインが優れているところ」から挙げていきましょうか?
清水:そうですよ! 私はこのテーマ自体、おかしいなと思ってました。今や欠点より長所のほうが多いんだから。
ほった:本番が始まってからのダメ出しはやめてください。それにほら、刺激的なタイトルの方が、皆、来てくれるじゃないですか(笑)。
清水:ヒドいなぁ(笑)。
渕野:テーマの整合性はさておいて、今の日本のカーデザインが優れている点を私は2つ挙げたいと思います。一つは「創造性が豊かなところ」です。
清水:創造って、ひと昔前まで日本人が一番苦手にしてたイメージですけど。
ほった:そこが勝ってるんですか?
渕野:そうなんです。
豊かな創造性とそれを支える柔軟な発想
渕野:具体例ですが、これはマツダの「CX-30」です。サイドのリフレクションがものすごいですよね。ここまでダイナミックに面が動いているクルマは、欧米にはありません。
ほった:これは恐らく、まだ中国にもない。
渕野:次いで、同じくマツダの「マツダ3」です。似たような立体構成ですが、こちらはCピラーまわりにも注目してみてください。ここをこんなにシンプルに構成しているCセグメントハッチバックも、ほかにない。これは本当にスゴいなと思います。
清水:まず、マツダデザインがスゴいと。
渕野:あるいは日産の「アリア」や、トヨタの「クラウン スポーツ」。このように大胆な立体構成やプランでの動きを感じさせるモデルも、日本車には多いです。
清水:日産やトヨタもスゴいと。
渕野:カーデザイナーがどんなことを考えながら仕事をするかって言いますと、まずは「立体構成」と「軸の位置、傾き」、あとは「踏ん張り感」なんです。最後のはスタンスとも言いますけど、そこらへんを考えながらデザインを始める。で、そこから詰めていくのがカーデザインのやり方なんです。この3つの基本部分が、欧米のクルマは割と凝り固まっていて、テンプレート的なんですよ。
清水:「基本は不変!」みたいな感じですかね。
渕野:それに対して日本のカーデザインは、特にここ10年ぐらいですけど、例えば「前のボリューム、後ろのボリュームをこう嵌合(かんごう)させたら、ここにこういうリフレクションが出せるんじゃないか?」とか、そういう大きな立体構成を使うのが特徴になりました。
清水:そんな専門的な話は初耳ですけど(笑)。ここ10年っていうと、ちょうど日本のカーデザインが欧州に追いついたかも、って思い始めたころかなぁ?
ほった:そんな感じですね。
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アルファードに見る日本のデザインの底力
渕野:もう一つ、日本のカーデザインで優れているのは、「どんなパッケージでも成立させるところ」です。
多くの方は、カーデザインの開発というのがどのように進んでいるのか、分かるようで分からないと思うんですけども、たいていの場合、デザイナーは最初にパッケージ図を渡されます。要は全長、全幅、全高はもちろん、タイヤの位置関係とかオーバーハングの長さとか、設計の基本的な数値はすでに決まっているんです。で、「これでデザインしなさい」って言われてデザイナーの仕事が始まる。それが現代のカーデザインです。
清水:土台はテコでも動かせない。
渕野:重要なのは、そのパッケージがカッコよければいいんですけど……日本車の場合、ほとんどがカッコ悪いパッケージなんです(笑)。
清水:つまり幅が狭すぎるとか、全高が高すぎるとか?
渕野:加えてタイヤが小さかったり、キャビンに対して下まわりの比率が芳しくなかったり。
清水:頭でっかちってことですね。
渕野:それの最たるものがミニバンです。一例として「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」がありますけど……アルファードのデザイン、皆さん肯定ですか否定ですか?
ほった:肯定派の方、挙手をお願いします。
渕野:(会場を見渡して)うーん。こんなに肯定派がいるんですね。
清水:半分まではいかないけど、まあまあいらっしゃいますね。
渕野:アルファードも、パッケージ的にはミニバンそのものなので、普通にデザインしたら、なんでもない箱型になります。
清水:冷蔵庫を横倒しにしたような。
渕野:そうそう。なのにこのクルマには、高級車っぽい面の質感がある。そこが重要なんです。多くの場合、ミニバンは両側にスライドドアが付きますよね。だからボディーサイドの後半には“デザインしろ”がない。デザインのしようがないんです(写真キャプション参照)。アルファードの場合はそれを踏まえて、ボディーサイド前半の、デザインできるところでしっかりデザインしている。これがまずスゴいところかな。
清水:サイドの前のほうはしっかりうねらせて、高級なパネル面を見せてるわけですね。
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小さなタイヤをものともしないスタンスの表現
渕野:もう一つは、サイドのキックアップです。ウエストラインを普通につなげると、キャビンと下まわりの比率がどうしてもミニバン的なものになるんだけど、アルファードはここ(ボディーサイド中央部)でキックアップさせている。ボディー部がそこから厚くなって、そのぶんキャビンを薄く見せているんです。つまり、パッケージを犠牲にせずに、高級車らしい見せ方に成功している。これもめちゃくちゃスゴい。
清水:私もアルファードはめちゃくちゃスゴいと思います。渕野さんはいつも「顔はどーでもいい」っておっしゃるけど(笑)、アルファードはなんつっても顔が一番スゴい。鎧(よろい)みたいなフロントグリルが微妙にうねって、それがサイドに美しくつながってる。ミニバンとして史上最高のデザインじゃないかな。
ほった:そうですかねぇ。他にもっとシンプルでいいのがあるんじゃないですか?
清水:ほったくんは守旧派だからね。
渕野:もう一つ例を挙げてみましょう。同じトヨタの「シエンタ」ですけど、タイヤがこんなにちっちゃいでしょう。ボディーに対してずいぶんちっちゃい。でも、こんなにちっちゃいのに、ちゃんと踏ん張り感がある。スタンスがいい。それは、前後のシルエットをしっかり絞って、タイヤに絡ませているからです。
シエンタについては、「フィアットの何かに似てる!」っていう批判がありましたよね?
清水:あったあった。「パンダ」ですね。
渕野:その真偽はさておいて、パンダも踏ん張り感はありますけど、シエンタのほうが要件はかなり厳しいんですよ。そのなかでこのデザインをやったっていうのはスゴいことです。
清水:クルマって基本的に、タイヤをデカくすりゃ自動的にカッコよくなるんですね。タイヤをデカくしてトレッドを広げればカッコよくなる。でもそれができないなかで、シエンタはこれだけかわいらしくて、まあまあ走りそうなカッコに仕上げている。
顔だってステキですよね。僕は常に顔を重視するんですけど、シエンタの顔は、奇をてらわずにちゃんとキャラが立ってる。今のシトロエンよりずっとシンプルでいい顔してると思いますよ。
ほった:この場にシトロエンオーナーがいらっしゃったら、ワタシからお詫び申し上げます(笑)。
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どんなに厳しくても「カッコよさ」をあきらめない
渕野:最後にホンダの「N-BOX」です。これは軽自動車で、しかも全高がすごく高いなかで、これだけしっかりした踏ん張り感を出している。
ほった:シエンタよりさらに難しい仕事ですね。
渕野:フロントはシエンタみたいな構成で、上部のコーナーを絞ることでフェンダーを張り出させているのですけど、リアはとにかくフラットです。軽トールワゴンは、ここをフラットにせざるを得ないパッケージなんですよ。
ほった:少しでも車内を広くしなきゃなんないし、ミニバンと同じで、これもスライドドアですしね。
渕野:そこでどうしたかというと……リアコーナー部のシルエットを見ると、割と丸みがありますよね? サイドビューでもリアゲート自体は丸いんですよ。これによって車体上部の重さをなくして、リアタイヤがしっかり踏ん張ったように見せている。これもすごいなと思いました。
清水:世界的には、むやみにタイヤのデカいクルマばっかり増えてますけど、日本にはこういう、タイヤがちっちゃくても凝縮感があるデザインがあるってことですね。
渕野:そう。これは世界に誇れますよ。クルマのデザインにおいて「タイヤ」はものすごい重要なんです。タイヤを起点にデザインしていると言ってもいいくらい。
清水:自分のクルマのタイヤを4輪外したところを、皆さんも多分見たことあると思うんですけど、すっごくカッコ悪いですよね(笑)。私も、タイヤを外した自分の「フェラーリ328」を見て、「こんな間抜けになるんだ!」って驚きました。タイヤが付いてりゃ「この世にこれ以上カッコいいクルマはないだろ!」ってくらいイケてるんだけど、タイヤを外すと本当に間抜け。
ほった:タイヤはクルマの命ですね。
清水:あとは顔ね(笑)。
渕野:ではいよいよ、今回の本題に入ります。日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの」は何か? ここまでお話したとおり、日本のカーデザインはいいところのほうが目立つので、頑張って絞り出しました(笑)。
ほった:どんな内容なのか楽しみですね。
(後編へ続く)
(語り:渕野健太郎、清水草一、webCG堀田剛資/まとめ=清水草一/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダ、向後一宏、佐藤靖彦、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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