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「レースの技術を生かしています」は本当か? スバルのモータースポーツ関係者に問う

2026.09.18 デイリーコラム 堀田 剛資
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ただの広告の文句なんじゃないの?

読者の皆さまは、メーカー発信の「サーキットで鍛えられた~」とか「モータースポーツのノウハウを取り入れた~」といううたい文句を、どうお思いだろう? 記者は正直、微妙に懐疑的だ(笑)。

理由のひとつは、その言葉がどれほど事実に即したものかイマイチわからないから。もうひとつは、それが事実であったとしても、記者のへっぽこセンサーではあまり効能を体感できないからだ。もちろん「レース直系!」でスゴいクルマも確かにあるけど、それはレースをやってないメーカーの、レースとは関係のないクルマにだってあるしね。

スペックで見ても、「F1の技術を取り入れたエンジンっていうけど、排気量はぜんぜん違うし、副燃焼室がついとるだけやんけ」とか、「この機能って、別に○○(著名なモータースポーツのカテゴリーを入れてください)に参戦してないメーカーのクルマにも付いてるよね」とか……。まぁこういう経験を繰り返すうちに、すっかりひねくれた人間が出来上がってしまったのである。

そんな記者が、スバルのモータースポーツについて取材することになってしまった。スーパー耐久シリーズと全日本ラリー選手権の関係者に、話をうかがう機会を得たのだ。

読者諸氏におかれては……というか自分もそうだが、スバルでモータースポーツというと、スバルテクニカインターナショナル(STI)の領分というイメージが強いだろう。しかしこの2つのカテゴリーは、母体のスバルが直々に参戦。S耐のチーム監督である伊藤 奨さんも、普段は車両運動開発部で市販モデルの走りを鍛えていたりする。

加えてスーパー耐久と全日本ラリーは、F1やらSUPER GTのGT500やらとは違い、街をゆくクルマの面影を色濃く残したマシンが走るカテゴリーだ。世をすねた記者も、「これなら、私たちでも買える市販車への技術展開を、期待できるんじゃないか」と思いつつ、栃木県はスバル研究実験センターへと足を運んだのである。

スバルがスーパー耐久シリーズのST-Qクラスに投入している競技車両「HIGH PERFORMANCE X version II」。
スバルがスーパー耐久シリーズのST-Qクラスに投入している競技車両「HIGH PERFORMANCE X version II」。拡大
取材会の会場に並べられた、スバルの競技車両。「オートポリスでのクラッシュを受けて修理中」とのことで、残念ながら「HIGH PERFORMANCE X version II」の実車を拝むことはできなかった。
取材会の会場に並べられた、スバルの競技車両。「オートポリスでのクラッシュを受けて修理中」とのことで、残念ながら「HIGH PERFORMANCE X version II」の実車を拝むことはできなかった。拡大
全日本ラリー選手権に投入される「Boxer Rally spec.Z」と、ラリードライバーの新井敏弘選手。
全日本ラリー選手権に投入される「Boxer Rally spec.Z」と、ラリードライバーの新井敏弘選手。拡大
スバルの車両運動実験部でクルマの走りを鍛えている伊藤 奨さん。スーパー耐久シリーズではTeam SDA Engineeringのチーム代表兼チーフエンジニア兼ドライバーと、二足ならぬ三足のわらじを履いている。
スバルの車両運動実験部でクルマの走りを鍛えている伊藤 奨さん。スーパー耐久シリーズではTeam SDA Engineeringのチーム代表兼チーフエンジニア兼ドライバーと、二足ならぬ三足のわらじを履いている。拡大
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レース/ラリーでの実証は稟議でも効く

まずはスーパー耐久シリーズだが、こちらにスバルは、改造無制限のST-Qクラスで参戦している。トヨタやマツダ、ホンダなども顔を並べるこちらのクラスは、次世代技術を実際のレースで実証・開発する“走る実験室”だ。トヨタが水素エンジン車を走らせていたり、カーボンニュートラル燃料の研究なども行われたりしているのだが……今回のお題は、10年後の未来の技術ではない。今日か明日か、遅くとも数年後には、われらクルマ好きが恩恵に浴せる技術の有無である。

というわけで、先述の伊藤さんにダイレクトアタック。スーパー耐久で検証される技術は、どれほど市販車への反映を想定したもので、それはどれくらい間を置いて世に出るものなのか? 氏は特段マズいことを聞かれた風もなく「レブシンクやフラットシフトを『BRZ』の限定車(2025年11月発表の『STI SportタイプRA』)に搭載したように、ソフトウエア系は比較的タイムリーに提供していますよ」とスラスラ教えてくれた。

また、ハードウエアの変更はハードルが高いというが、そちらについても「(レースで得た知見を)次世代車両の開発に取り入れており、確実にお客さまに届くよう進めている」という。例えばエアロダイナミクスでは、「量産車の空力担当メンバーも加わり、風洞実験やCFD解析の頻度を高めている」。ボディーやシャシー関連でも、「解析と実際の車両運動の相関も取れてきているので、次のシャシー改良のタイミングで量産車に生かしていきたい」といった具合だ。

私的にちょっと意外だったのは、車両開発の場において、「サーキットでの実証」というものに、それほどの説得力があったのかということ。少なくとも今のスバルでは、モータースポーツでの効果の証明にはちゃんと威光(?)があるようで、例えば稟議などでも、「イメージで語るより『モータースポーツで実際に効果があった』と提案するほうが、エビデンスとして通りやすい」(本井雅人チーム代表)のだとか。伊藤氏も「クルマ全体のパッケージのなかで、一部だけ変えて本当によくなるのかは試してみないとわからない。『実際にこれだけ効くなら、量産化を頑張ってみよう』とプレゼンもしやすくなる」と語っていた。

レースごとに改良を受け、競争力を高めている「HIGH PERFORMANCE X version II」。エンジンは「WRX」などでおなじみの「FA24」だが、最新の仕様では、その最高出力は375PSに、最大トルクは525N・mに高められている。
レースごとに改良を受け、競争力を高めている「HIGH PERFORMANCE X version II」。エンジンは「WRX」などでおなじみの「FA24」だが、最新の仕様では、その最高出力は375PSに、最大トルクは525N・mに高められている。拡大
2025年11月に発表された「BRZ STI SportタイプRA」。スーパー耐久シリーズで得た知見が全面的に取り入れられており、シフトダウン時に自動でエンジン回転数を合わせるレブシンクや、アクセルを戻さずにシフトアップの操作を可能とするフラットシフトなどの機能が搭載される。
2025年11月に発表された「BRZ STI SportタイプRA」。スーパー耐久シリーズで得た知見が全面的に取り入れられており、シフトダウン時に自動でエンジン回転数を合わせるレブシンクや、アクセルを戻さずにシフトアップの操作を可能とするフラットシフトなどの機能が搭載される。拡大
「HIGH PERFORMANCE X version II」に施された補強の模型。量産車では燃料タンクによって骨格が分断されているのだが、タンク位置を上方に移動して補強ブレースを配置し、力の流れを改善している。これを含め、レースカーの製作・改良で得た知見は、次世代シャシーの開発に活用されるという。 
「HIGH PERFORMANCE X version II」に施された補強の模型。量産車では燃料タンクによって骨格が分断されているのだが、タンク位置を上方に移動して補強ブレースを配置し、力の流れを改善している。これを含め、レースカーの製作・改良で得た知見は、次世代シャシーの開発に活用されるという。 拡大
スバル 商品革新本部 スポーツ車両企画室 担当部長の本井雅人氏。スバルにおいて車両・技術の研究実験を主導する人物であり、Team SDA Engineeringのチーム代表を務める。
スバル 商品革新本部 スポーツ車両企画室 担当部長の本井雅人氏。スバルにおいて車両・技術の研究実験を主導する人物であり、Team SDA Engineeringのチーム代表を務める。拡大

クルマ好きにとっていちばんの脳内麻薬

それにしても気になるのが、スバルがスーパー耐久で走らせている競技車両「SUBARU HIGH PERFORMANCE X version II」の“お姿”である。なにせこれ、2025年のジャパンモビリティショーで公開された「Performance-B STIコンセプト」にソックリじゃありませんか。2026年の東京オートサロンでも、HIGH PERFORMANCE Xは「Performance-Bと同じ思想を持つクルマ」と紹介されていたし、この2台を重ねて見るなというほうがムリでしょう。

技術的なフィードバックはもちろん、そもそも「わが愛車(と同じ格好のクルマ)が、サーキットやスペシャルステージを走ってる!」という事実は、クルマ好きにとり最強の脳内麻薬だ。スバルにおかれては、ぜひともPerformance-Bを発売し、ファンの頭をドーパミンでドバドバにしていただきたい。

一方で、こちらはどう考えても市販化されなさそうなのが、全日本ラリーを走る「Boxer Rally spec.Z」だ。なにせこのマシン、後輪駆動のBRZにロードカーとは無縁の直結式4WDを押し込んだ、ラリー専用車なのだ。デビューは2026年5月の「YUHO Rally 飛鳥」ということで、今はまだトラブル出しの段だというが、それでも実車からは、競技車両特有のスゴみがプンプンである。加えてこの、スポーツクーペならではの優雅さよ。かの「ランチア・ラリー037」に通じると表したら言い過ぎか? でもコンパクトカー由来のコロコロとしたマシンがひしめくラリー会場では、「なにあれ、カッコいい!」と黄色い声を浴びているそうな。

しかし、やはり開発担当の山田大輔さんいわく「このクルマそのものを市販化するのは、非常に難易度が高く、難しい」のだとか。そもそも今のラリー活動は、「スバルブランドを立てることや、お客さまに挑戦する姿勢を見ていただくことを目的としており、まずはいい成績を得ることが最優先」とのことだった。

2025年のジャパンモビリティショーに出展された「Performance-B STIコンセプト」。若いユーザーが気軽に楽しめることを想定したコンセプトモデルで、スバル伝統の水平対向ターボエンジン+6MT+シンメトリカルAWDの組み合わせを踏襲。ショーではメインステージの展示を差し置いて、ファンからカメラやスマホを向けられまくっていた。
2025年のジャパンモビリティショーに出展された「Performance-B STIコンセプト」。若いユーザーが気軽に楽しめることを想定したコンセプトモデルで、スバル伝統の水平対向ターボエンジン+6MT+シンメトリカルAWDの組み合わせを踏襲。ショーではメインステージの展示を差し置いて、ファンからカメラやスマホを向けられまくっていた。拡大
今やBセグメントのコンパクトカーで競われるようになったラリーにおいて、大柄な「WRX」は不利に。「Boxer Rally spec.Z」は、そうした状況を踏まえて投入された新型マシンだが、まだ車両の挙動やエンジンレスポンスに課題を残しているという。
今やBセグメントのコンパクトカーで競われるようになったラリーにおいて、大柄な「WRX」は不利に。「Boxer Rally spec.Z」は、そうした状況を踏まえて投入された新型マシンだが、まだ車両の挙動やエンジンレスポンスに課題を残しているという。拡大
「FA24」エンジンは280PS以上の最高出力と500N・mを超える最大トルクを発生。2026年7月の「ARK ラリー・カムイ」では一時総合2位につけるなど、最近は速さを見せるようになってきている。
「FA24」エンジンは280PS以上の最高出力と500N・mを超える最大トルクを発生。2026年7月の「ARK ラリー・カムイ」では一時総合2位につけるなど、最近は速さを見せるようになってきている。拡大

メーカーもうれしいしファンもうれしい

もちろん全日本ラリーのほうも、市販車の開発とは完全に無関係というわけではなくて、山田氏も「今後の4WDシステムや、次のスポーツ車両を考えるにあたっての、起点やヒントになる」「現場には若いエンジニアが帯同しており、ジオメトリーの調整などを実地で試して、タイムの良しあしを即座に確認しながら知見を持ち帰り、次のクルマづくりに生かす取り組みを行っている」と続けていた。人の育成や学びの場として生かされている点は、スーパー耐久の現場と同じのようだ。

それでも「技術フィードバックに明確な道筋を立てているわけではない」と正直に語る山田氏の弁には、むしろ潔さを感じた次第。市販車にフィードバックがあるのは有益だし、自分のクルマがレースやラリーで活躍していたらテンションも爆上がりだが、競技の本分はそこじゃないでしょ。モータースポーツというのは、それ自体が十分にスバラシイ競技であるし、エンタメであるし、文化なのだ。

……でもやっぱり、“6発のBRZ”とか“4WDのBRZ”とか、まかり間違って発売されたりしないかしら? なにせスバルは、お値段870万円の「S210」にファンが殺到するような、希有(けう)なブランドなのである。モータースポーツでの活躍をビジネスに生かせたら、救われるのはメーカーだけじゃないと思う。

(文=webCG堀田/写真=スバル、webCG/編集=堀田剛資)

スバル スポーツ車両企画室 担当部長の山田大輔さん。モータースポーツ技術企画グループで「Boxer Rally spec.Z」の開発を指揮している。
スバル スポーツ車両企画室 担当部長の山田大輔さん。モータースポーツ技術企画グループで「Boxer Rally spec.Z」の開発を指揮している。拡大
2026年の東京オートサロンより、スバル/STIがSUPER GTのGT300クラスに投入している「BRZ GT300」。パワーユニットには往年の「EG33」をベースとした6気筒エンジンを搭載している。
2026年の東京オートサロンより、スバル/STIがSUPER GTのGT300クラスに投入している「BRZ GT300」。パワーユニットには往年の「EG33」をベースとした6気筒エンジンを搭載している。拡大
モータースポーツで得た知見を市販のスポーツモデルに投入しては、ファンを色めき立たせてきたスバル。これから登場する車種にもぜひ期待したい。
モータースポーツで得た知見を市販のスポーツモデルに投入しては、ファンを色めき立たせてきたスバル。これから登場する車種にもぜひ期待したい。拡大
堀田 剛資

堀田 剛資

猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。

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