クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

「BYDラッコ」がアジアにはばたく!? ニッポンの軽自動車規格が海外勢に奪われる日

2026.10.30 デイリーコラム 佐野 弘宗
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

まずはスリランカとマカオから

BYDは去る2026年10月4日、神奈川県平塚市の販売店で開かれた国内納車1万台記念式典で、話題の「ラッコ」を日本以外でも販売する計画を明らかにした。まずはスリランカとマカオで販売を開始するという。ともに右ハンドルの地域だし、電気自動車(BEV)なので環境関連の基準も容易にクリアできるのだろう。

すでにご承知のように、ラッコはBYDが日本の軽自動車(以下、軽)の規格に合わせて、ゼロから開発したという触れ込みのBEVである。日本での年間販売目標は1万台だ。

ちなみに、国産軽の昨2025年の販売台数は、スズキで約57万台、ダイハツが約51万台、ホンダが約28万台である。軽乗用車にかぎっても、スズキ約45万台、ダイハツ約36万台、ホンダ約25万台、そして日産/三菱合計で約20万台といったところだ。

いっぽうのラッコは、すべてがゼロからの新開発である(とされる)うえに、国産軽より割安な価格設定を掲げている。となると、われわれ野次馬には「ラッコが目標どおりに年間1万台を売り上げたとしても、モトが取れるまでに何年かかるのか?」という疑問がわく。

今回の発表前に、BYDの日本サイドの関係者に話をうかがったときには、ラッコだけですべての投資が回収できるかはわからないが、その最大の基盤技術である「X-PACK」を、グローバルで広く使うことで投資を回収するのでは……との回答だった。X-PACKとは、駆動電池、電子制御ユニット、DC-DCコンバーター、車載充電器、配電ユニット、PTCヒーター、エアコンコンプレッサーといった、BEVにまつわる(モーター以外の)主要電装品を一体化したものだ。それが軽サイズの床下に見事におさまるX-PACKは、素人目にも非常に合理的なシステムに映る。

その回答にいったんは納得しかけた筆者だが、その矢先の今回の発表である。BYDはやはり、ラッコそのものもグローバルで売る計画だったわけだ。

日本の軽自動車規格に合わせて開発された小型BEV「BYDラッコ」だが、このほど、日本以外のマーケットへの導入が発表された。
日本の軽自動車規格に合わせて開発された小型BEV「BYDラッコ」だが、このほど、日本以外のマーケットへの導入が発表された。拡大
「ラッコ」に採用されている「X-PACK」。バッテリーや制御ユニットなどをひとまとめにしたものだ。
「ラッコ」に採用されている「X-PACK」。バッテリーや制御ユニットなどをひとまとめにしたものだ。拡大

そもそも軽自動車は海外で受け入れられるのか?

ただ、われわれ日本人は、ここで再び「軽はそのまま海外でも売れるのか?」という疑問を抱いてしまう。

あらためて軽とはどういうクルマかをおさらいすると、全長3.4m以下、幅1.48m以下、高さ2m以下という車体サイズで、乗車定員が最大4人、エンジン車の場合は排気量660cc以下という規格となっている。それを満たしたクルマは軽として認められて、各種税金や道路料金などが優遇される。軽規格は完全に日本独自のもので、1949年からはじまった。そこから何度か改定されているが、現行規格は1998年から30年近く変わっていない。

ラッコの日本以外での販売について、われわれ日本人が疑問をもってしまう理由のひとつは、日本の軽がそのまま海外で売られたケースはほとんどないからだ。とはいえ、皆無というわけではない。たとえばパキスタンでは、660ccエンジンを積んだ右ハンドルの「エブリイ」と先代「アルト」が現地生産・販売されており、2026年8月には、そのパキスタン製スズキ軽が、ブルネイにも輸出されることになった。ただ、同じスズキでも、かつて日本からアルトをタイなどに輸出したときは、まったくうまくいかず、短期間で撤退を余儀なくされた。日本の軽メーカーはそうしたトラウマも抱えている。

また、「軽は衝突安全性が低いので、海外の基準がクリアできない」といわれることも多い。これも完全なウソではないが、正確でもない。たしかに軽と白ナンバーの登録車で安全基準がちがっていた時代もあったが、現在の国内の衝突安全基準では、軽と登録車に基本的な差はない。さらにいうと、アジアには日本と同じ左側通行(=右ハンドル)の国や地域が多い。ざっとあげるだけでも、前記のスリランカやマカオ、パキスタンに加えて、香港、タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、バングラデシュ、ネパールなどがある。

スリランカにおける「アルト」発表会の様子。(2019年6月)。同車は、スズキの現地子会社であるパックスズキモーターによって製造・販売されている。
スリランカにおける「アルト」発表会の様子。(2019年6月)。同車は、スズキの現地子会社であるパックスズキモーターによって製造・販売されている。拡大
パキスタンで2024年11月に販売が開始された「エブリイ」。「アルト」と同じく、日本で販売される軽自動車仕様と同寸のボディーに、同じ排気量のエンジンを搭載している。
パキスタンで2024年11月に販売が開始された「エブリイ」。「アルト」と同じく、日本で販売される軽自動車仕様と同寸のボディーに、同じ排気量のエンジンを搭載している。拡大

“軽自動車は中国のもの”になってしまう?

以上のことから、クルマの安全基準が日本のそれと同等の国や市場なら、メーカーがその気になれば、ラッコ同様に軽をほぼそのまま売ることも技術的には困難でないと思われる。それに、最新軽の実力や商品力の高さは、日本のクルマ好きならご承知のとおりで、メーカーがその気にさえなってくれたら、海外でも大ウケする可能性は低くないと想像する。

ただ、ここで「メーカーがその気に……」と2度も繰り返したように、軽の海外展開については、メーカーじたいが及び腰になっているように見える。今の軽でも海外基準のクリアはむずかしくないといっても、市場ごとのチューニングや小変更は必要で、場合によっては設計段階から考慮する必要もあるだろう。また、軽がいかに魅力的な商品といっても、日本以外で売るなら、ほかのグローバル車がやっているように、細かいデザインや装備内容も、仕向け地ごとにあらためて吟味しなければならない。

日本メーカーのすべての軽は、国内市場だけで十分な収益が得られるように、企画、設計、重量、安全性、製造コストまで、すべてが高度に最適化されている。そんな軽で新たに海外市場に挑戦するとなると、長い歴史のなかで緻密に練り上げられてきた軽の収益構造を、根本から見直さなければならなくなる。つまり、日本の軽メーカーの目には、軽の海外進出は販売台数が増える可能性より、今の収益構造がくずれるリスクのほうが大きく映っているのだろうか。

その点、日本を最優先に開発しつつも、それ以外の市場も念頭に置いていた(と思われる)ラッコは、最初からそのリスクと可能性も織り込んでいたわけだ。日本の軽を研究しつくしたラッコが、かりに日本以外でヒットすると、海外ではBYDが“軽の元祖”と認識されてしまう危険もある。そうなってしまったら、もはや手遅れだ。それに、国産軽の頼みの綱である日本の自動車市場は、少なくとも規模では、今後縮小していくことが確実。正念場をむかえる日も、そう遠くないかもしれない。

(文=佐野弘宗/写真=BYD、スズキ/編集=堀田剛資)

パキスタンで販売されるパックスズキ製の「アルト」も、厳密には日本仕様とまったく同じではない。現地の道路事情を考慮して最低地上高を上げるなど、使用環境に合わせた変更が施されているのだ。
パキスタンで販売されるパックスズキ製の「アルト」も、厳密には日本仕様とまったく同じではない。現地の道路事情を考慮して最低地上高を上げるなど、使用環境に合わせた変更が施されているのだ。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

デイリーコラムの新着記事
デイリーコラムの記事をもっとみる
新着記事
新着記事をもっとみる

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。