マツダ・プレマシー20E(FF/5AT)/20S(FF/5AT)【試乗速報】
大人のZoom-Zoom 2010.07.20 試乗記 マツダ・プレマシー20E(FF/5AT)/20S(FF/5AT)……227万7000円/238万7750円
マツダの主力ミニバン、3代目「プレマシー」がデビュー。新型はどう変わったのか? ライバル車との違いは? 箱根を走って確かめた。
ライバル対決の現場を目撃
7月上旬のある日、横浜をドライブしていたら、フルモデルチェンジしたばかりの「マツダ・プレマシー」2台と、同行する「トヨタ・ウィッシュ」を目撃した。3台とも広島ナンバーのクルマで、乗員からは「広島から遊びに来ました!」という雰囲気が感じられない。後日、試乗会の席で開発担当主査に聞いてみると、「都内やその周辺で燃費を確認していたのでしょう」ということだった。
2リッターモデル同士で見ると、「i-stop」付きのプレマシーが10・15モード燃費でわずかに優れているわけだが、現実の世界でもこの関係が成り立つかどうか、念入りにチェックしたかったのだろう。
プレマシーが分類される全高低めのMクラスミニバンには、「トヨタ・ウィッシュ」「ホンダ・ストリーム」という強敵が存在する。そんなライバル相手にプレマシーがどんな戦いを挑むのか、試乗会でお手並み拝見といこう。
あらためて見るプレマシーは、アクセラのようなフロントマスクと、ボディサイドに流れる「NAGARE(流れ)」ラインが印象的だ。全車3ナンバーボディのプレマシーは全幅が1750mm。それゆえ、落ち着きのあるリアビューも特徴のひとつだ。
そして、忘れてはならないのが、両側スライドドアを採用したこと。「ライバルがヒンジドアなのに、どうしてプレマシーだけがスライドドアなんだ?」という意見がマツダ社内にもあったというが、メインターゲットがファミリーユーザーだけに、先代に続き、この新型でもスライドドアを採用したというのが、前出の担当主査の言い分だ。
変化するセカンドシート
標準は手動、オプションで両側または片側(助手席側)電動スライドが選べるスライドドアは、確かに狭い場所でもドアの開閉に気を遣う必要がないし、開口部が広いぶん乗り降りもラクだ。さっそく、セカンドシートに身をゆだねる。
左右のシートはクッションが厚めで、乗員をしっかりと受け止めてくれるのがいい。スライド可能なシートは、さすがに前端だと足が入らないが、少しうしろにずらせば十分なスペースが確保される。ただ、自然な姿勢をとりたければ一番うしろまでスライドさせる必要があり、実際ここが定位置だろう。このクラスのミニバンでは、通常3〜4人乗りで、5人以上になることはめったにない……という前提でつくられているのだ。
だから、ふだんサードシートは収納したままで、セカンドシートの中央もアームレストやドリンクホルダーとして使えたら便利だ。これを実現したのがプレマシーの「カラクリ7thシート」。使わないときは中央のシートクッションを座面下に格納し、シートバックを折りたたむとウォークスルーのスペースが確保される。また、シートクッションの代わりに収納ボックスを引き出すこともできる。
実際に使ってみると大人がウォークスルーするには狭いが、ドリンクホルダー付きの収納ボックスは便利に利用できそうである。
うれしいのは、この中央の7番目シートが、短時間の移動であれば、本来の役割をきちんと果たすこと。もちろん狭いのは確かだが、シートバックが板のように硬いわけではなく、3点式シートベルトやヘッドレストもきちんと用意される。サードシートを収納していて荷物もたくさん積まれている、という状況では、突然の5人目が簡単に乗れるというのがとてもありがたい。
サードシートはあくまで補助席という位置づけだが、こちらも短時間の移動ならガマンできるレベルに仕上がっている。ただ、サードシートを起こすと荷室が狭くなるので、荷物を伴う長距離ドライブなどには不向き。あくまで3〜4人家族で使うのが適している。
自然な身のこなし
後席から運転席に移動すると、シンプルなデザインのコックピットがドライバーを迎え入れてくれた。最初に試乗したのは「20E」という真ん中のグレード。アイドリングストップのi-stopはこの20Eか上級グレードの「20S」に搭載される。本革巻きステアリングホイールは20Sのみ標準装着で、20Eではウレタン製が標準となるのが惜しい。
ウィッシュやストリーム(2リッターエンジン搭 載モデル)がCVTを搭載するのに対し、プレマシーはFF車には5AT、4WD車(8月上旬発売予定)には4ATが用意される。2リッター直噴エンジンとの組み合わせは、低回転から不満のない加速を見せ、3000rpm以下の常用域でも十分活発な性能を持つ。まわせば4000rpmを超えたあたりから力強さを増す。直噴の自然吸気エンジンには多少ざらついた感触もあるが、目くじらを立てるほどではない。i-stopはヨーロッパメーカーのアイドリングストップに比べると始動時のショックが小さいのがいい。
旧型プレマシーでは、アクセルペダルの踏みはじめで比較的大きくスロットルを開ける特性としていたそうだが、新型ではその過敏な味付けから一転、リニアなスロットル特性を採用したという。おかげでアクセルペダルの操作に対するエンジンの反応が実に自然で、ドライバーは安心して操作ができるようになった。
プレマシーの身のこなしも実に自然だ。ステアリングを切ると、スポーティな演出がないかわりに、ノーズがコーナーのインに向かう動きとボディのロールがうまくシンクロし、落ち着いてコーナーを駆け抜けるのが実に印象的だ。ペースを上げていったところで、この絶妙なバランスは保たれ、いままでの“Zoom-Zoom”とは別次元の運転の楽しさが味わえる。「大人のZoom-Zoom」とでも呼びたいこのセッティング、個人的にはとても好ましいと思った。乗り心地は快適で、動きも落ち着いている。20Sにオプションの17インチを装着すると、さすが路面からのショックを拾いがちだが、乗り心地は十分許容範囲に収まっていた。
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バランスの良さに好感
というわけで、短時間の試乗では、バランスの良い仕上がりに好感を抱いた新型プレマシー。ライバルに対するアドバンテージは、スライドドアの採用と使いやすいセカンドシート、i-stopによるクラストップレベルの燃費、そして、懐深い走り、ということになるだろう。
一方、ライバルとして名を挙げたウィッシュとストリームも、プレマシーとは異なる魅力の持ち主だ。たとえばストリームは、FFモデルなら1545mmという低い全高のおかげで、ステーションワゴン感覚で利用することができる。タワーパーキングでも困ることはないし、なによりその身軽さが運転好きのドライバーにはうれしいはずだ。
対するウィッシュは、このクラスのリーダーだけに、パッケージング、動力性能、乗り心地のレベルは高く、そつなくまとまっているのはさすがトヨタだ。ただしそのぶん、面白みに欠けると思うドライバーもいるだろう。
その点プレマシーは、とくに運転にこだわらないドライバーにも安心感を与えるし、それでいて運転好きをもうならせるバランスの高い走りを実現したのが見どころだ。3ナンバーボディを買うことに奥さまが反対しなければ、しめたものである。
(文=生方聡/写真=峰昌宏)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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