マツダ・プレマシー20S-SKYACTIV Lパッケージ(FF/6AT)【試乗記】
滋味あふれるレスポンス 2013.02.24 試乗記 マツダ・プレマシー20S-SKYACTIV Lパッケージ(FF/6AT)……239万4000円
マイナーチェンジで、ついにスカイアクティブの2リッター直噴ガソリンエンジンと6段ATを手に入れた「プレマシー」。しかし注目すべきは、進化を遂げたパワートレインだけではなかった。
ウワサの“SKYACTIV”がミニバンにも
現行「プレマシー」初のマイナーチェンジのキモは、心臓部たるパワートレインが“スカイアクティブ”化されたことだ。「CX-5」や「アテンザ」「アクセラ」でおなじみの2リッター超高圧縮比ガソリンエンジンと最新6段オートマチックトランスミッションの組み合わせである。CX-5や新型アテンザのヒットのけん引役であるクリーンディーゼルの搭載は、残念ながら実現せず。
ただ、最も安価な「20CS」だけはこれまでどおりの2リッターDISIエンジン+5ATとなる。従来型DISIエンジンが残されたのは「廉価版を残してほしい」という販売現場からの強い要望から。なんでも、国内市場でのプレマシーは「安価なスライドドア・ミニバン」として「ホンダ・フリード」と競合する例が少なくなく、フリードに対抗できる価格(179.9万円)の20CSはどうしてもはずせない存在なんだとか。さすがにハイテク満載の最新鋭スカイアクティブをその価格で出すのは無理だったらしい。
好評なエクステリアデザインに特筆すべき手直しはない。目立つ変更点といえば、スカイアクティブ化にともなって同パワートレイン搭載車に“滑らか運転養成機能”のi-DMが追加されたほか、全車の荷室に(緊急タイヤ省略によって)実用的な床下トランクが新たに確保されたくらい。あとは内外装および装備の細かい仕様変更。シャシーチューンは従来から変わっていないという。
それはそうと、今回開催されたメディア試乗会では「プレマシーの走りに込めた思いをわかってほしい」と、開発陣による長時間の説明タイムが設けられた。前記のように今回はシャシー関連に変更はなく、そこでアツく語られたのは、フルチェンジ時の開発秘話である。現行プレマシーの乗り味はそれまでの“ひと乗りボレ”をキーワードとした俊敏さ最優先から一歩進んで、いわば「スムーズな荷重移動による、Gが滑らかにつながるピークの出ない挙動」を目指したのだそうだ。それは後のスカイアクティブにもそのまま生かされる思想で、個別の要素技術にこそ(開発時期の都合で)スカイアクティブは採用されていないプレマシーだが、味つけの方向性はCX-5やアテンザとほぼ同じといってよい。
温故知新のドライブフィール
プレマシーへのスカイアクティブ・パワートレイン搭載にあたっては、あらためてシャシーとの統一感を追求して、ATのシフトプログラムやエンジンの加減速特性を突き詰めたそうである。ここでいうエンジンの特性とは単純にペダルとスロットルの開度関係ではなく、もっと繊細な制御チューニングの部分……なんてことを、とうとうとうれしそうに語るマツダ技術陣は、なんともエンスーである。
プレマシーのドライブフィールには、即座にテンションが上がる派手でスポーティーな演出も、あるいは走りだした瞬間にフワッと上下する大げさに良い乗り心地もない。ターンインではスーッと滑らかにロールして、いい感じにフロント外輪に荷重が移る。ドライバーをせきたてることはないが、ピタリと正確。働くべきタイヤに自然と荷重がかかるから、手やお尻にもタイヤのグリップ状況がきちんと伝わる。クルマの動きがリアルタイムで把握できるので、スピードの高低にかかわらず、とても運転しやすい。
いまだに「スポーティーで正確な走り=ロールしないでカキコキ」と信じて疑わない自動車メーカーも少なくない。私の記憶では、現行「デミオ」が出る以前のマツダも、(確信犯的かもしれないが)そういう乗り味を前面に押し出していた。
しかし、スカイアクティブにむけて「人車一体感とはなんぞや?」をあらためて研究したマツダは、まず国籍やジャンル、時代を問わずにドライビングフィールが良いとされるクルマを集めて、各車の入力と応答の時間差、荷重移動とヨーの関連、コーナリング時のアウト側前輪とイン側後輪を結んだ対角線上の荷重移動……などを細かくデータ取りして、マツダの考える「いい走り」を定量化したという。このときに集められた参考車には最新のポルシェのほか、メルセデスの初代「Eクラス」(W124)や1960年代発売の「ルノー・キャトル」まであったというから、これまたエンスーだ。
やさしい運転が身につけられる
プレマシーの滋味あふれるレスポンスは、ちょっと上から目線で恐縮だが「うーん、分かっとるねえ」といって差し上げたい。慣れるほどに手足のように、そして滑らかに扱えるようになるタイプの味つけだ。
このシャシーに合わせて緻密にチューニングされたパワートレインもしかりで、ATのプログラムも、スロットルの踏み込み量や踏み込み速度からドライバーの微妙な意思をうまく吸い上げて、加速時もやみくもにキックダウンしない。これを「かったるい」と思う人もいるかもしれないが、深く踏み込んできっちりと意思を示せばきちんとダウンシフトする。
これを逆に言うと、このATプログラムに違和感を覚えるようなら、自分の運転を見直すべし……といってもいい。自由意思で加減速してもプレマシーのATが自分の読みどおりに変速してくれるようになったら、それはイコール、同乗者にもクルマにもやさしい運転が身についたということでもある。
冒頭でシャシーに変更なし……と書いたが、厳密にはひとつ新しいところがある。タイヤだ。これまではグレードごとに15、16、17インチの3サイズがあったが、今回から基本的に15インチで、最上級グレードのみ17インチという構成になった。主力の15インチは今回のために新開発されたエコタイヤ(ダンロップ・エナセーブEC300)で、グリップ性能と乗り心地、そして転がり抵抗のすべてにこだわったプレマシー専用タイヤという。
いずれにしても、CX-5、アテンザ、そしてこのプレマシーと、最近のマツダ車はフルスカイアクティブでなくとも、乗り味や走りのリズムが見事に統一されている。長い目で見ると、クルマを買い替えるにも「マツダじゃないと肌に合わない」という依存症患者(?)を着実に育んでいくと思われる。
しかし、それはあくまで長期的にファンを囲い込むための手法であって、新規ユーザーを取り込むにはちょっと引きが弱い……と思わざるをえないのも事実。CX-5やアテンザが世のクルマ好きに支持されているのも、やはりディーゼルの存在が大きい。
だから、技術的に困難(もともとスカイアクティブ・パワートレインは排気系スペースに余裕を持たせたスカイアクティブ・ボディーが前提の設計だ)なのは承知のうえで、それでもムリヤリにでもディーゼルを積んでくれたら……と、新しいプレマシーに思ってしまったのも本音だ。今回のマイチェンで、さらに燃費よく、走りにも磨きがかかったプレマシーの商品力が、着実に向上しているのは間違いないが。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。