ロールス・ロイス ゴースト(FR/8AT)【海外試乗記】
近くなった神の世界 2010.06.03 試乗記 ロールス・ロイス ゴースト(FR/8AT)……2900.0万円
ドライバー志向の強いニューモデルとして誕生した「ロールス・ロイス ゴースト」。その走りと乗り心地を、米ロサンゼルス近郊で試した。
重責担うニューモデル
2003年にBMWの傘下に入って以来、スタンダードなサルーンを出発点に「エクステンデッド ホイールベース」、「ドロップヘッド クーペ」、「クーペ」とラインナップを拡大してきた現代のロールス・ロイス。ただし、これらはいずれも「ファントム」をベースにしたもので、いわば単一シリーズ内のバリエーション展開だった。
それに対して“ベイビー・ロールス”の名で開発計画が報じられてきた「ゴースト」は、エンジンもシャシーもファントムとは異なる、まったくのニューモデル。ちなみにロールスが完全な新型車をリリースするのは過去50年間でこれが4台目という。つまり、それくらい特別な重みを持ったニューモデルが、ここで紹介するゴーストなのである。
ベイビー・ロールスの名が示すとおり、ボディ・サイズはファントムよりひと回り小さいが、エクステリアから醸し出される雰囲気は、ロールスそのもの。ファントムとの比較でいえば、全体的に丸みを帯びたボディが柔らかい印象を与えるものの、たとえばボディパネルのパリッとした“面の仕立て”などは、まるでロンドンのサビルロウに店を構えるテーラーであつらえたスーツのごとき気品が漂う。
「ファントムとは異なり、ゴーストにはどんなシチュエーションにもマッチすることが求められました。そこでボールド(力強い)な存在感のファントムに対して、ゴーストはよりアンダーステイトメント(控えめ)なデザインとしています」 そう語ったのは、ゴーストのエクステリアデザインをとりまとめたミハエル・マルケフカである。
ワケあって新設計
ゴーストのボディ構造には、ファントムのアルミ・スペースフレームとは対照的に、より一般的なスチール・モノコックが採用されている。
「ファントムのように台数が限られている場合はアルミ・スペースフレームにもメリットがありますが、それよりも多くの販売台数が見込まれるゴーストには、スチール・モノコックが理想的と判断しました。1993年以降、熱間処理や超高張力鋼板などが進化した結果、スチールは素晴らしい素材に生まれ変わっています。特にクラッシュテストには有効で、自分の子供を乗せるなら、むしろスチール・モノコックを選びたくなるほどです」。
これはプロジェクト・ディレクターを務めたマティアス・レヒナー博士の言葉。レヒナー博士は、続いてゴーストに積まれる6.6リッターV12直噴ターボエンジンについて次のように説明してくれた。「シリンダーもブロックも新設計で、ファントム用とは別物です。自然吸気のファントムに対して、ゴーストにターボエンジンを搭載したのは、省燃費、CO2排出量、効率、パワーなどを重視した結果です。これにZF製の8段ATを組み合わせたのも同様の判断からです」
ふんわりしたソフトな乗り心地。これがゴーストに試乗しての第一印象である。ただし、さらに走り込むと、ソフトな乗り心地のなかに強い“芯”のようなものを感じることがあった。オーナー自らがステアリングを握る機会が多いと想定されるゴーストは、サスペンションもドライバーズカーとしての性格を強めた味付けとされたのだ。
ジキルとハイドの強心臓
そうした方向性をより明確に感じたのが、山道に足を踏み入れたときのこと。ワインディングロードでペースを上げていっても、予想したほどにはロールしない。これは、快適な乗り心地とダイナミックなハンドリングを両立する「アクティブ・ロール・スタビライゼーション」の効果といえる。このシステムは走行状況に応じて前後のスタビライザーとサスペンションを機械的につないだり、切り離したりするもので、直進状態ではソフトな乗り心地を、コーナリングでは安定感あるハンドリングを生み出す。また、エアサスペンションには2.5ms(=1000分の2.5秒)ごとに減衰力を調整する電子制御式ダンパーが組み合わされており、こちらもハンドリングと乗り心地を高次元でバランスさせるのにひと役買っているようだ。
570ps/5250rpmの最高出力と79.5kgm/1500rpmの最大トルクを生み出すV12ターボエンジンは、普段はキャビンを無音の状態に保ってくれるが、ひとたびスロットルを深々と踏み込めば、0-100km/h加速:4.9秒、0-1000m加速:23.1秒という圧倒的なパフォーマンスを発揮する。それでいて、停止状態から動き出すときには、みじんもショックを伝えることなく、“ヌルッ”と上品に発進するのだから、まったくもってジキルとハイドのごとき二面性を持ったパワートレインといえる。
ファントムと同じクオリティのレザーとウッドが惜しげもなく使われたインテリアは、並の量産メーカーには決して真似のできない“ロールスならでは”の世界。しかも、この特別なサルーンが、ファントムの半額に近い2900万円で手に入れられるのだから驚きを禁じ得ない。もちろん、筆者のような庶民には依然として縁遠い話だが、それでも“神々の暮らす世界”がほんの少し近づいたようで、ちょっぴりうれしくなる。いやいや、車名がゴーストなのだから、“神々”ではなく“幽霊たち”というべきか……。
(文=大谷達也(Little Wing)/写真=ロールス・ロイス・モーター・カーズ)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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