第111回:衝撃! プラグイン男にコネクトされた−大矢アキオがいざなう「フランクフルトショー」魅惑の裏話?(後編)
2009.10.03 マッキナ あらモーダ!第111回:衝撃! プラグイン男にコネクトされた−大矢アキオがいざなう「フランクフルトショー」魅惑の裏話?(後編)
未来の自動車デザイナー育成のために
(前編からのつづき)
大矢アキオがいざなうフランクルトショー後編は、「憩い」編である。
まずはショー会場で最もメインゲートに近い、メルセデス・ベンツから。毎年同社は1パビリオンをまるごと使用して、2階建てで展開している。その建物は「フェストハッレ」といって、なんと1909年に第11回ドイツ体育大会のため建設開始されたものだ。つまり、100年前のパビリオンに世界最古の自動車メーカーという組み合わせである。
ここまで書くと何やら荘厳さばかりが漂うが、実は2階部分に行くと、興味深いアトラクションが待っている。そのひとつがデザインコーナーだ。実際のデザイナーが日頃の作業を見せる企画である。
こうしたデザイン実演は、近年ジュネーブショーで、ランチアやGMが手描きスケッチでやっていたのを覚えている。ただし、フランクフルトのメルセデスはコンピューターによるレンダリングなど、ライブ感では各段に上である。特に、壁にテープを使って車体の側面を描くテープドローイング(写真1)は、迫力がある。デザイナーは、キャスター付きスツールを滑らせながら、会場でデビューしたばかりの「メルセデス・ベンツSLS AMG」を描いていく。
どのメーカーでもデザインセンターで行われている作業であるのにもかかわらず、ショー会場でやると、スペクタクルに変貌する。「毎日がスペシャル」である。
ボクは「一人前になるまで、何年かかるんっすか?」とか聞けばいいものを、すっかり忘れて見入ってしまった。自動車デザイナーを志す若者が少なくなったといわれて久しいが、もしこうした作業を子供たちが目にすれば、クルマのデザインに少なからず興味を示すに違いない。
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「雪男」に「モミモミ」
会場でサンプリングした、その他の「憩い」コレクションを披露しよう。
写真2は、フォルクスワーゲン系でチェコを本拠とするシュコダで見つけた着ぐるみの雪男である。
なんで雪男なのかというと、同社のラインナップに「イエティ」(雪男)というコンパクトSUVがあるからだ。この雪男、前編の「フォルクスワーゲンタイプ2」同様、プレスデイにもかかわらず携帯カメラで記念撮影する人が多かった。家で待つ子供に「ほーら、雪男を見たぞ」などと言って喜ばせる自動車ビジネスマンの光景が目に浮かんで微笑ましい。
ただし、疑い深いボクは、「雪男の中にはメーカーのマーケティング担当者が入っていて、来場者がつぶやくシュコダの評判を逐一リサーチしているにちがいない」などと想像を膨らませてしまった。
写真3はご存知、旧東ドイツの国民車「トラバント」である。
そのリバイバル版電気自動車「トラバントnT」が登場したことは『webCG』をはじめ数々のメディアで伝えられているが、実は元祖をベースにした改造車も場内をウロウロしていたのだ。
何かと思って聞けば、隣町リュッセルスハイムで行われる「トラバント写真展」の宣伝カーであった。新型トラバントとは何ら関係はないが、天然相乗効果を生んでいた。
トラバントを目撃した直後、またもや旧社会主義圏車か? と一瞬目を疑ったのが、次のクルマである(写真4)。実際のところは、空気で膨らませたバルーンであった。近くには犬を連れたマネキンが佇んでいる。そのシュールな光景をしばらく眺めていたら、真実が判明した。パーキングアシスト(日本では「トヨタ・プリウス」が先鞭をつけたアレです)の縦列駐車体験コーナー用の街角再現セットだったのである。
よりベタな「憩い」もあった。
あるパピリオンの入り口に椅子が並んでいたので何かと尋ねれば、マッサージクッションであった。ドイツ系メーカーだが、「マルチ・シアツ(指圧)」という、わかりやすいネーミングが可愛い。
スタンドのおじさんによれば、今回は「とくに長距離トラックドライバーの来場者にイチオシしたい」と説明する。「アダプターを差し替えるだけで、ご家庭でも使えますよ」とのアドバイスも。
実際体験していた人に聞いてみると「結構いいよ。ポータブルにしては意外にしっかりと揉んでくれる」との感想。おじさんに、「通常200ユーロ超のところ、本日なら店頭特価!」と薦められ、気の弱いボクは、もう少しで抱えて帰る羽目になるところだった。
ちなみにその横では、他社が展開する全身マッサージ機の体験コーナーもあって、2日続きのプレスデイで身魂使い果たした外国人フォトグラファーが、機材一式を置いて気持ち良さそうに休んでいた。
不思議な二人組の教えてくれたもの
しかしながら今年のフランクフルトショーで、最優秀パフォーマンス賞を差し上げるなら、写真7の方々である。
出会いはこうだ。いきなり背後からピピッと音がして、何かを背中に当てられた気配を感じた。振り向くと、2人組のおじさんが笑っていた。手にはLEDでピカピカ光る電気プラグを握っている。実はこれ、メンネケスという電気プラグメーカーのパフォーマンスだったのある。
目ぼしい人を見つけては、ピピッとやって驚かせているのだ。念のため言っておくと、もちろん音だけ。スタンガンではないから電気ショックはない。それでも、いきなり背中に当てられて、音がするから結構驚く。
彼らが持っているのは、電気自動車と充電ステーションをつなぐケーブル&コネクターを模したものだ。したがって、当初は一般ユーザーがメンネケスの製品を積極的に選ぶという図式はなさそうだが、そのうちプラグイン・ハイブリッド車や充電ステーションが普及すれば、必ずお世話になるアイテムである。
普通のコンパニオンは家に帰ってしまうと、どこのメーカーがどんな娘でどんな衣装だったかは記憶に残らない。それに対して、メンネケスの2人組は、ちょっとやそっとでは忘れられない。人々にインパクトを与えるのは、もはやスタンドの広さや立派さではないことを、おじさんたちのパフォーマンスは無言のうちに教えてくれたのであった。
同時にそれは、曲がり角にきているモーターショーという重厚長大な存在自体にも疑問を投げかけているように思えてしまったのである。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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