マツダ・マツダスピードアクセラ(FF/6MT)【試乗記】
マニア御用達 2009.09.02 試乗記 マツダ・マツダスピードアクセラ(FF/6MT)……300万3500円
アイドリングストップ機構「i-stop」で話題の「マツダ・アクセラ」。だけどもし、アナタがクルマ好きを自認するなら、グッとくるのはこのホットハッチに違いない。
ジャジャ馬ぶりは、ハンパじゃない
新型アクセラは先代の大改良版といっていい。プラットフォームはコストベースだと90%が新設計だそうだが、ホイールベースは新旧でまったく同寸、前後トレッドや全幅もほぼ変わりなく、伸びた全長は主にとがったノーズデザイン(と衝突安全性向上)のために使われたという。
新型アクセラシリーズにおける主要な革新はCVTやアイドリングストップを投入したパワートレーンにあるが、このマツダスピードアクセラ(以下MSアクセラ)にはそれも無関係。というわけで、新しいMSアクセラは動力性能、スピード、その感触や肌ざわり……といった点で、従来モデルに酷似している。
つまり、新型MSアクセラもまた、優等生がもてはやされる昨今では“ほとんど奇跡”といってもいいオーバーパワーでオーバートルクのFFスポーツであり、当代随一の“ジャジャ馬”ハッチである。いやホント、ほんの1〜2時間の試乗でもこれほど疲れるクルマは、昨今の量産車ではめずらしい。
変わった点、変わらぬ点
改良型プラットフォームとはいっても、刷新された内外デザイン以外にも改良点というか変更点はいくつかある。たとえば動力性能関連でいえば、エンジンスペックは最高出力も最大トルクもその発生回転数も変わっていないが、息の長い加速と燃費に配慮してかギア比が高くなった。ボディサイズ拡大や補強、そして装備の追加で車両重量も数十kg増しているから、計算上では加速性能は少し後退しているはずである。
またボディ強化は新型アクセラ全体の大きなウリだが,前後サスタワー周辺やフロアトンネルなどは、ベースのハッチバック以上に補強されている。また、先代より60mmも高く配置されたというシフトレバーも、MTのMSアクセラでこそ、その恩恵が最も大きい。
ワタシ自身が先代のMSアクセラに乗ったのは今から2年近く前が最後だが、乗った瞬間にその記憶がよみがえった。ポルシェ911なみ(?)に重いクラッチペダル、ゴリッとわずかに引っかかるシフトレバー、これまた女性には大変だろうと思われる重いパワステ……すべてが2年前と大差ない。
フル加速でもモノコックが切れそうなキシミ音がしないのは新型ならではの改良点だろうが、トラコンのスキを突くようにギャリッと空転する前輪や、あるいはフロントをふわりと浮かせながら進路を乱す明確なトルクステアは、今なお健在である。少しばかりギア比を高めたからといって、CセグメントのFFに、264ps、38.7kgmのターボエンジンを与える商品企画そのものが過剰(!)というほかない。
過剰すぎるトルク
誤解してほしくないのは、エンジンあるいはシャシー……といったMSアクセラの個々の技術やデキはあくまでモダンで高度だということだ。エンジンはターボラグらしいラグはなく、しかしスポーツエンジンらしい爆発力を両立させている。シャシーもまた硬い柔らかい以前に、ロールやピッチングを最小限に抑制し、かつ強靭なリアスタビリティを確保しつつ、そのうえで俊敏で正確なステアリング反応を優先した今っぽいタイプである。スタビリティコントロールのDSCも標準装備だ。
……にもかかわらず、こうして1台にまとまったMSアクセラがここまで骨っぽいのは、すべてそのバランスが生み出したものだ。繰り返しになるが、とにかくエンジントルクが過剰なのである。
直進状態でのトルクステアは明確でも、コーナリング中にエンジンパワーを解放しても、フロントタイヤは外へとはらむがステアリングそのものを取られてしまうことはない。これは先代同様にMSアクセラ独自となる“舵角連携エンジントルク制御”の恩恵が大きく、かつてのハイパワーFFのように、本当の意味でのステアリングとの格闘、すなわち腕力は不要だ。
だが、とにかくエンジンの瞬発力がすさまじいので、コーナーでの不要なスロットル操作は強いアンダーステアに陥るか、あるいはトラコンによって不意の失速……という結果につながりかねない。前記のようにステアリングレスポンスは荷重の大小を問わずに鋭く、またリアスタビリティは強力だから、ドライバーはなによりも舵角とスロットル開度に集中するのが、MSアクセラをうまく手なずけるコツといえるかも。まさしく“手綱を握る”といったところか。
万人向けじゃなくていい!?
このクラスの横綱というべき「ゴルフGTI」の例をあげるまでもなく、Cセグメントはこうしたホットモデルでも、高級、快適、安楽、バランス、イージー……というベクトルで進化している。新型アクセラはインテリア質感という点では確かに“高級”になったが、少なくともこのMSアクセラに関しては、硬い乗り心地は手放しで“快適”とはいえず、すべてが手応え・足応えたっぷりの操作系はとても“安楽”とは表現できない。フロントタイヤ2本だけではどうにも荷が重いエンジンパワーははっきりと“アンバランス”であり、それをうまく押し切るのはとても“イージー”とはいえない。
ワタシ自身はこのクルマを万人にオススメする気にはなれない。“ちょっとスポーティな気分”を味わうだけなら、マツダ車であれば「ロードスター」や「RX-8」のほうが好適だ。MSアクセラは、マツダ車……いや国産車でも随一のマニアックな存在である。たとえば“トルクステアに得もいわれぬ興奮をおぼえる”といった筋金入りのクルマ変態(失礼!)の方々のためにある。
とにかく優等生ばかりになった現代のクルマ世界において、こういう突出した存在が、しかも日本メーカーが用意していることに、クルマ変態のひとりとしてワタシは感謝の念でいっぱいである。
(文=佐野弘宗/写真=菊池貴之)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)/CR-V e:HEV RS(4WD)【試乗記】 2026.4.1 ホンダの「CR-V」が日本市場に帰ってきた。先代モデルの発売時(2018年)も2年ぶりの復活で(少し)盛り上がっていたが、今回もまた3年半ぶりの復活である。モデルライフが途切れ途切れなところは気になるものの、新型のすっきりと上質な乗り味はまぎれもなくプレミアムな領域に達している。
-
メルセデスAMG GTクーペ/メルセデスAMG GT 4ドアクーペ【試乗記】 2026.3.31 メルセデスAMGの「GT63 S Eパフォーマンス クーペ」と「GT53 4MATIC+(ISG)ファイナルエディション」は、同じAMG GTを名乗りながらも片や2ドア、こなた4ドアのクーペモデルだ。この両者には、どんな特徴や違いがあるのか。クローズドコースで確かめた。
-
レクサスGX550“オーバートレイル+”(4WD/10AT)【試乗記】 2026.3.30 スタッドレスタイヤ装着の「レクサスGX」でウインタードライブへ。クルマ好きにとってはいかにも胸がふくらむシチュエーションだが、刻一刻と変化する自然環境が相手ゆえに、なかなか一筋縄ではいかないものだ。山に分け入る際には引き返す覚悟もお忘れなく。
-
スズキeビターラZ(4WD)【試乗記】 2026.3.28 スズキが満を持して世に問うた、初の量販電気自動車(BEV)「eビターラ」。エントリーグレードは400万円以下! 500万円以下で4WDも用意されるというお値打ち価格のBEVは、走らせてみるとどうなのか? 東京-愛知を往復して、その実力を確かめた。
-
スズキGSX-8T(6MT)【レビュー】 2026.3.25 昨今のネオクラシックブームに乗り、いよいよスズキからも新型車「GSX-8T」が登場。しかし実車に触れてみると、既存のライバルとはちょっと趣の異なるマシンとなっていた。スタイリッシュないでたちとスズキらしい実直さが融合した、独創の一台を報告する。
-
NEW
マレク・ライヒマン、珠玉のコラボウオッチを語る
2026.4.2ブライトリング×アストンマーティン 限定ナビタイマーの魅力に迫る<AD>スイスの高級時計ブランドであるブライトリングが、アストンマーティンの名を刻む特別なクロノグラフを発売した。それは一体、どのような経緯と開発ポリシーで生まれたのか? プロジェクトの重要人物であるマレク・ライヒマン氏に話を聞いた。 -
NEW
街から看板が消えたシェルがエンジンオイルで再出発 ブランドの強みを生かせるか
2026.4.2デイリーコラムサービスステーションの再編で、おなじみの看板が街から消えたシェルは、エンジンオイルで存在感を示そうとしている。F1パイロットも登場した新製品の発表イベントで感じたシェルの強みと、ブランド再構築の道筋をリポートする。 -
NEW
第955回:イタリアでは事情が違う? ニュースにおける高級外車の“実名報道”を考える
2026.4.2マッキナ あらモーダ!目立つから仕方ない? ベントレーやランボルギーニといった高級輸入車だけが、事故を起こすたびに“実名報道”されてしまう理由とは? この現象は日本固有のものなのか? イタリア在住の大矢アキオが、日本の事故報道におけるふとした疑問を掘り下げる。 -
NEW
MINIクーパー コンバーチブルS(FF/7AT)
2026.4.2JAIA輸入車試乗会2026JAIA輸入車試乗会で「ディフェンダー」の次に乗り込んだのは新型「MINIクーパー コンバーチブルS」。重厚でタフな世界から一転、屋根を全開にして走りだせば、飛ばさなくても笑みがこぼれる、幸せな時間が待っていた。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)/CR-V e:HEV RS(4WD)【試乗記】
2026.4.1試乗記ホンダの「CR-V」が日本市場に帰ってきた。先代モデルの発売時(2018年)も2年ぶりの復活で(少し)盛り上がっていたが、今回もまた3年半ぶりの復活である。モデルライフが途切れ途切れなところは気になるものの、新型のすっきりと上質な乗り味はまぎれもなくプレミアムな領域に達している。 -
今こそブランドの伝統と強みを前面に マツダと三菱のPHEVを乗り比べる
2026.4.1デイリーコラム日産自動車をはじめとした国産6ブランドがBEVとPHEVを集めた合同試乗会を開催。マツダと三菱のPHEVを乗り比べ、それぞれの特性や開発陣の考え方の違い、近い将来に向けたビジョンなどに思いをはせた。
































