第102回:浜松からふたたび乗り物改革を! 〜日本のEVベンチャーを訪ねる
2009.08.13 エディターから一言第102回:浜松からふたたび乗り物改革を! 〜日本のEVベンチャーを訪ねる
ハイブリッドや電気自動車など、いわゆる「エコカー」で盛り上がる自動車業界。そんななか、とある地方のベンチャー企業が電気自動車を作っているとの情報が。そこでは実用化に向けて、地域や自治体を巻き込む努力までしているという。自動車ジャーナリストの森口将之が、現地に飛んだ。
日本にもEVベンチャーはある
三菱、スバルに続いて日産も電気自動車(EV)を発表し、この3社と東京電力が協力して急速充電器のインフラ推進協議会が設立されるなど、EV時代到来を実感させるニュースが次々に舞い込んでいる。
でもEVは、既存のメーカーだけのものじゃない。内燃機関自動車よりも、はるかに簡単に作れるからだ。ラジコンの電動カーとエンジンカーの違いみたいなものである。だから今後はベンチャー企業が続々登場するはず。すでに海外ではEVスポーツカーとして名を上げたテスラを筆頭に、いくつものメーカーが進出を始めている。
こうしたニュースを見ながら「それに比べて日本は……」と思っている人がいたら、それは大きな誤解である。この国にもEVベンチャーは存在するからだ。そのひとつが「ホンダ・スーパーカブ」や「スズキ・ワゴンR」を生んだ日本のモータウン、浜松のNPO法人HSVP(浜松スモーレストビークルシステムプロジェクト)である。
理事長の羽田隆志氏は、市内にある静岡文化芸術大学の准教授で、某メーカーのデザイナー出身という経歴を持つ。その経験を生かし、以前から街乗り用ミニカー(原付規格の3・4輪車の法規上の名称)の試作を続けてきた。当初はエンジンを用いていたが、近年の環境問題を考え、まもなくEVにシフト。2007年にHSVPを立ち上げると、数台のプロトタイプを製作してきた。
そのなかから今回は、スポーツカーの「T3」とクラシックタイプの「ミルイラ」を取材し、ミルイラには試乗もさせてもらった。
「幼いでしょう?」いえいえハイレベルですよ
T3とは、開発に関わった3人のイニシャルがすべてTだったことによるそうだ。小さいながらも流麗なスタイリングをまとめたのは、元ヤマハ(発動機ではなく旧日本楽器製造)の取締役兼デザイン研究所長で、羽田氏と同じ大学の教授も務めた高梨廣孝氏。製作は、地元浜松で自動車関連のモックアップを手がける株式会社Takayanagiが行った。
前2/後1の3輪としたのは、デフが不要なので軽くできるから。後輪を駆動するモーターはインホイールタイプを使っている。一方の操舵系はオートバイそのまま。クイックなハンドリングが楽しめそうだ。バッテリーはフットスペースの前と横に分散して積んでいる。
もう1台の4輪車、ミルイラは、「幼い」という意味の遠州弁「みるい」に「〜でしょう」を示す接尾語「ら」をつけた言葉を車名とした。造形・製作を手がけたTakayanagiの高柳力也社長のセンスが感じられるネーミングだ。
設計はT3以上に意欲的で、パイプで組んだプラットフォームにバッテリーやコントローラーを内蔵し、後車軸に接続したモーターを駆動している。短時間試乗した印象をいえば、フレームやサスペンションの作りがしっかりしており、ステアリングやブレーキを含め、いい意味でフツーに運転できた。羽田氏の設計が優秀であることを、カラダで感じることができた。
でもHSVPにとっては、これで終わりではない。市販化がゴールというわけでもない。実は、はるかに野心的なプロジェクトなのである。
ボディは自由に作ってもらう
HSVPの目的のひとつに、地域の中小企業育成がある。そこには技術伝承や人材育成も含まれている。そのためにHSVPが開発するのはプラットフォームだけとして、ボディは自由に作って組み合わせてもらうつもりでいる。パソコンのOSに近い発想だ。
法規にも目を向けている。オートバイの原付は50cc以下の1種と125cc以下の2種があり、原付2種では2人乗りが可能なのに、ミニカーは50cc以下でひとり乗りに限定されている。これでは送迎などに使うことができない。そこで羽田氏は「EV特区」を認めてもらい、その区内では原付2種ミニカーが走れるようにしていければと思っているそうだ。
軽自動車や小型車規格にしなかったのは、開発や生産が中小企業の手に負えなくなるし、安全基準などを満たそうとすると車体が重く、価格が高くなってしまうからだ。オートバイに原付と自動2輪があるように、街乗り用と遠出用の乗用車を法規で分けるべきというのが彼らの主張である。
HSVPがスゴイのは、ただEVを作っただけじゃないことだ。地域振興や法規改正まで視野に入れているのだから。しかも大メーカーではなく、大学教授や中小企業が主体になっている。古くから遠州地方に根づく「やらまいか(やってやろうじゃないか)精神」は、いまも健在なのである。同じ浜松で60年以上前に始まった「本田宗一郎伝説」みたいなサクセスストーリーが、形を変えて繰り返されるかもしれない。
(文と写真=森口将之)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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