ベントレー・コンチネンタルGTC V8(4WD/8AT)【試乗記】
モダンジェントルマンの馬車 2012.11.28 試乗記 ベントレー・コンチネンタルGTC V8(4WD/8AT)……2592万7880円
超高級グランドツアラー「ベントレー・コンチネンタルGTC」のV8モデルが日本に上陸。晩秋の八ヶ岳で、その走りを試した。
性能を保って燃費を削る
ベントレーのようなイギリスの超高級ブランド車に試乗すると、ダンディズムとかジェントルマンシップとか、『007』ジェームズ・ボンドとかを思わないではいられない。男の胆力、女性でしたら人間力というものが問われるような気がしてしまう。じいさんの代から乗っていた、というような自家製の物語のある方は別にして。
「コンチネンタルGTC V8」は、575ps、6リッターの12気筒モデル「コンチネンタルGTC」、2640万円に対して、4気筒と2リッターと68ps少ない分、およそ10%、260万円こころやすいモデルである。12気筒との差額で「MINIクーパー」がほぼ(1万円値切るだけで)買える。邦貨2380万円。
これが安いのか高いのか、1%のお金持ちの世界は99%の小市民の想像力を軽々と超える。こういうことをウダウダ書く人がいるから、日本は世界第2位の富裕層数を誇るにもかかわらず、お金持ちほどひっそりと白い「トヨタ・マークII」に乗っていたりするのかもしれない。すびませんねぇ。
ベントレーによると、コンチネンタル・シリーズの8気筒は、12気筒の単なるディフュージョンにあらず。ほぼ同等の性能を維持しつつ、燃費が40%も優れている、環境フレンドリー大使なのだ。たとえば、ベッカムがGTCの12気筒から8気筒に乗り換えたりすると、「彼も環境のことを考えているんだな」と思われたりするわけである。
仮にMINI 3台分の燃料消費量が2台分になり 、お値段が10台分から9台分になった。燃費の比喩ですが、より正確には、欧州の複合燃費で、リッター6.7kmから9.2kmに改善された。素晴らしい話ではないか。
もっとも、既存の12気筒オーナーは今のところ12気筒のゴージャスな魅力にあらがえないらしい。過ぎたるは足らざるに勝る、そこは安土桃山時代なのである。
白鵬みたいにサラッと走る
試乗会の基地のリゾナーレ八ヶ岳にたたずむテスト車は、豊富なカラーリストの中から選ばれた、まるで50年代のカニ目(オースチン・ヒーレー スプライトMk1)のような軽やかな水色のボディーカラーをまとっていた。内装はボディー色にあわせた濃淡2色のブルーで、ウッドパネルはタモ・アッシュ、というプロ野球選手にぜひとも乗っていただきたい、さわやかな組み合わせである。
単に木製バットの材料がタモの一種だというだけの話ですけど。
パワートレイン方面でクーペのV8との違いはない。アウディと共同開発した4リッターV8ツインターボは、「S8」用と基本的に同じで、ベントレー独自のチューニングが施されている。最高出力を控えめにして、中低速トルクを重視しているのだ。重い12気筒より、8気筒はエンジン単体で60kg軽い。ただし、12気筒が6段ATであるのに対して、8気筒は新たに8段ATがおごられている。その分重くなることもあって、早晩12気筒も8段化されるが、現状の比較では25kg軽いだけだ。
でも、人間というのは不思議なもので、その25kgが主にフロント部分で軽くなっていることがわかる。12気筒のフロントノーズに、昔の綿のふとんが12枚積み重ねてあるようだとすれば、それが8枚になったような軽さである。だから、ぜいたくのあまり、ふとんを積み重ねすぎてバランスが崩れた感が魅力の、私の記憶の中の12気筒と比べると、淡泊でさらりとしている。
12気筒は車重2.5トンを怒濤(どとう)のトルクで羽毛のように走らせたけれど、8気筒はそれを静かな海のまま走らせる。3000rpmを超えるとV8らしい咆哮(ほうこう)が轟(とどろ)くけれど、そのあたりで私的には十分満足な速度に達していて右足を緩めてしまうのですが、いまはプロレスラーに転じた曙みたいな人が曙じゃないみたいにドッカーンと走ったのが12気筒コンチの魅力だとすれば、8気筒は曙みたいな人が白鵬みたいにサラッと走って、タイムはほぼ同じ、という感じなのです。ケレン味がない。それが8気筒独自の魅力といえる。
高貴なボディーは乗り手を選ぶ
たぶんワインディングロードは8気筒のほうが、少なくともスムーズに走ることができる。コンチネンタル・シリーズ2代目にして採用された40:60の後輪駆動寄りの前後トルク配分も、いっそうハンドリング面で効いているに違いない。
乗り心地は、電子制御のサスペンションとスーパーヘビー級の重量のおかげで、荒れた八ヶ岳周辺の路面でも硬めだけれど、素晴らしく快適である。なにしろオプションの巨大なタイヤを履いている。275/35ZR21である。そして、いまになって明記しますが、コンバーチブルボディーである。屋根が布でできている! おまけに4シーターで、布屋根の下のボディーは、缶切りで蓋を開けた缶詰の空き缶のように、ガバチョと穴が開いている。それが、巨大なタイヤ&ホイールの上下動でユサユサ揺すられる。
にもかかわらず、ボディーはミシリともいわないのである。オープンボディーの解析技術の進歩によるものであろう。フォルクスワーゲン以前、ロールズ/ベントレー時代は、フツウに走っていてミシミシ、革のシートがこすれる音がしたもんぢゃ。「ターボR」はそうでもないけれど。いつの話をしているのですか、おじいさん。
八ヶ岳は雪が舞った。オープンにしていると、やっぱりさぶかった。自然と時に闘うあらぶる魂。それこそがオープンカーの醍醐味(だいごみ)なのだった。
なお、幌(ほろ)自体は初代と同じカルマン製で同じだそうである。いまどき開閉に25秒もかかる。スターが登場するには、ゆっくりゆっくり幕が開く。観衆の期待を前にして、ドライバーズシートに座る主役には、男であれ女であれ、尋常ならざる胆力が求められる。それは8気筒でも12気筒でも違いはない。ノーブレス・オブリージュを担えるモダンジェントルマンは、ためらうことなく乗るべし。
快男(女)児を、クルマ好きに限らず、ニッポンは待っている!
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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