トヨタ・ヴァンガード240S(5人乗り)(FF/CVT)【試乗記】
古いタイプとお思いでしょうが…… 2008.10.02 試乗記 トヨタ・ヴァンガード240S(5人乗り)(FF/CVT)……283万800円
リッチでゴージャスなCMでおなじみの「トヨタ・ヴァンガード」にFFモデルが追加。四駆よりFFのほうがこのクルマらしいと思える、その理由は?
SUVとオフロード四駆は、牛とクジラの関係?
「トヨタ・ヴァンガード」のラインナップに新たに加わったFFモデルを目の前にして、腕組みをしたわけです。オフロードをわしわし進んでいきそうなカッコのこのクルマが四駆ではなくFFだというのが、なかなか興味深い。たとえて言うなら、生活防水のダイバーズ・ウォッチとでも申しましょうか。
SUVの本場アメリカではFFのSUVなんて当たり前、ということは知識としては知ってるつもり。それに、そもそもヴァンガードの四駆システムはFFをベースにしたもので、泥濘地やガレ場など本格的なオフロードで真価を発揮するタイプでもない。
でも正直、脳裏に浮かぶのは「見かけ倒し」という言葉……。どうなんでしょう、FFのSUV。どうなんでしょうと聞かれてもみなさんも困ると思うので、しばらくFFのヴァンガードをお借りして乗ってみました。
で、何日間かをFFのヴァンガードと過ごすうちに考えが変わった。自分は古いタイプなもんで、ついついヴァンガードを「ランクル」や「ジープ」の仲間だと考えてしまう。でもヴァンガードは、祖先こそオフロード四駆と近いかもしれないけれど、まったくの別種だった。近い祖先を持つとされる牛とクジラがまったく別の方向に進化した、みたいな話だ。
使ってみた印象の前にざっくりとヴァンガードを解説すると、日本国内仕様よりもホイールベースが100mm長い輸出用「RAV4」をベースに、少しアダルトなデザインのボディをかぶせた「お洒落版RAV4」。RAV4が輸出を想定しているいっぽうで、ヴァンガードは基本的には国内専用車種だ。
今回試乗したのは2.4リッター直4エンジン搭載の5人乗り仕様で、さんざん書いたようにFF。3列シートの7人乗り仕様も選べる。ただし3.5リッターV6エンジンは四駆との組み合わせのみで、FFの設定はない。
2007年8月のデビューからちょうど1年が経過したこの夏、ヴァンガードに内外装の小変更が施され、あわせてこれまで四駆モデルだけだったところにFFモデルが加わったのだ。
大人っぽくてなかなかいい色合いの、ベージュのシートに収まってエンジンを始動する。
まるで引っかからないドライブフィール
使ってみての第一印象は、「どこにも引っかかりがない」というもの。まず2.4リッターエンジンは、存在感がない。静かで滑らかなうえに振動もほとんど感じさせないから、気がつくと「あれっ、もうこんなスピード」ということになっている。
滑らかな加速に一役買っているのがCVT。このトランスミッションを日本語にすれば「無段変速機」で、その名の通り変速に“段”がない。このゴツい形のものがすーっと速度を上げるフィーリングは、ちょっと不思議だ。
「無段」といいつつも、ヴァンガードには手動でシフトする「7速スポーツシーケンシャルシフトマチック」という機能が備わっている。けれどもチャカチャカせわしなくシフトセレクターを動かすのは、このクルマのキャラに合わない。
なじみの寿司屋で大将に「おまかせね!」という感じで、利口なエンジンとトランスミッションに身を委ねてゆったり乗るほうがこのクルマの持ち味を味わえる。
エンジンとトランスミッションだけでなく、乗り心地にも引っかかりがない。20〜30km/h程度の低い速度域だと凸凹を乗り越えた時に「カツン」というショックを感じるけれど、もうちょい上までスピードを上げると乗り心地は角が丸くなる。
しなやかと書くとほめ過ぎだけど、気に障るところのない感覚にひたっていると、気分がまったりしてくる。コーナーの連続でちょっと張り切ってみても、ロールこそやや大きいけれど基本的な挙動は安定している。
これがスポーツカーであれば、ドライバーをもっと楽しませてほしいと思うのが人情だろう。けれど、ヴァンガードは「乗るクルマ」「操るクルマ」というよりも「使うクルマ」なのだ。駐車場にを停めて荷室や後席をチェックすると、そのことがよくわかります。
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たとえ「古いタイプ」だと思われようが……
3列シートも想定したスペースに2列だけ配置されているから、5人乗り仕様の後席はゆったりと座れて荷室も広々。さらに、レバー操作で楽にシートをアレンジできる。
一部の輸入車には、いまだにシートを倒すのにバカ力が必要なものがあるけれど、ヴァンガードは誰でも簡単に扱える。ここでも見事に「引っかかり」がない。
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ハッチバックやセダンより荷物が積める5人乗りのファミリーカーとしても使えるし、あっという間に2シーターの荷役車にも変身する。ヴァンガードは、自転車とか釣りとかスキーとか、荷物の多い趣味の人に親切な設計だ。
SUVとは「スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル」、つまりアクティブな趣味を楽しむ用途のクルマ。だから、運転中の“冒険”を楽しむのではなく、目的地に到着してからの“冒険”を楽しむのが本来の姿だ。
だから、SUVはラフロードを駆け抜ける必要はないわけで、特にヨンクにこだわる必要もない。あぁ、なるほど、FFのSUVってアリなんだと実感した次第。
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ヴァンガードの240Sというグレードを例にとれば、FFと4WDの価格差はざっくり21万円。昔からよく言われることですが、21万円で4WDを選択するのか、あるいはFFにして浮いた21万円をマウンテンバイクを買ったりスキーに行く回数を増やすことに回すのか……。
ま、とは言ってもこの夏のゲリラ豪雨や雪道のことを考えれば、たとえ古いタイプのクルマ好きだと思われようとヨンクを選びたくなるわけですが。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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