シトロエンC5 3.0エクスクルーシブ(FF/6AT)/ツアラー 3.0エクスクルーシブ(FF/6AT)【試乗速報】
傑作車の素質あり! 2008.09.24 試乗記 シトロエンC5 3.0エクスクルーシブ(FF/6AT)/ツアラー 3.0エクスクルーシブ(FF/6AT)……479.0万円/499.0万円
ミドル級シトロエン「C5」がフルモデルチェンジを果たし、日本上陸。
10月の販売開始を前に、セダン、ワゴン両モデルそろえて乗り味を試した。
ロー&ワイドにイメージチェンジ
シトロエンC5の試乗会は、20ページにわたる某誌のシトロエン特集の原稿が佳境というときに行われた。
その取材で乗ったダブルシェブロンは、いずれも濃ゆい面々ばかり。しかも新型のセダンはポルトガルで行われた国際試乗会ですでに乗っている。ということで、あまり新たな発見は期待せずに軽井沢の会場に乗り込んだのだが、結果は予想以上にお気に入りの1台になってしまった。
日本仕様はセダンとブレークあらためツアラーそれぞれに、2.0と3.0エクスクルーシブを用意する。前者は直4+4段AT、後者はV6+6段ATというスペックだ。このうちセダンとツアラー両方の3.0に乗ったのだが、最初にドライブしたツアラー3.0エクスクルーシブに、いきなりヤラレテしまった。
ボディは旧型ブレークと比べて5mm長いだけだが、ホイールベースは65mmも延長された。80mmワイドになった幅とは対照的に、高さは80mm低くなっている。おかげで旧型のずんぐりした印象はなく、スマートになった。
セダンのサイドやリアの眺めはBMWっぽくもあるが、ツアラーはそんなことはない。むしろ2世代前の「エグザンティア・ブレーク」を思わせる。
伝統が光るパッケージング
センターパッドが固定のステアリング、背もたれの上だけ独立してリクライニングできるフロントシートが特徴のキャビンは、前後ともヒップポイントが先代よりあきらかに低くなった。高さより長さで広さを稼ぐパッケージングもまた、「エグザンティア」やその前の「BX」に通じるものだ。
前席は独立して動く背もたれ上部が硬い以外は、シトロエンの名に恥じぬ心地よさ。でも後席はもっといい。イス全体がチルトするC6のラウンジパッケージ仕様を、いちばん傾けて固定した感じ。くつろいだ姿勢で硬すぎないクッションに身をまかせていると、しばらく座っていたいと思ってしまう。セダンもツアラーも折り畳み式なのにこの座り心地なのだから恐れ入ってしまう。
しかも荷室はセダンのトランクでさえ467リッターを確保。逆反りしたリアウィンドウのおかげで開口部は広い。定員乗車時でも505リッター、後席を畳めば1462リッターの容積をかせげるツアラーは、電動テールゲートのほか、お家芸の油圧を活用してフロアを12cm下げるハイトアジャスターを旧型に続いて装備した。どちらも広さそのものだけじゃなく、アクセスのしやすさまで考えているのだ。
車重は、ツアラー2.0で1690kgに達する。でも2リッターの4ATでもあまり不満を感じないのは、静粛性が高いおかげでエンジンを回しているという意識が薄いからだろう。そんな具合だから6ATとコンビを組む3リッターV6は、高級車と呼びたくなる静かさとスムーズネスを届けてくれる。
キモは“曲がるハイドロ”
でもキモはやっぱり、「ハイドラクティブIIIプラスサスペンション」がもたらす乗り心地だ。旧型のマイナーチェンジ後がそうだったように、2.0より3.0のほうがソフトな味つけで、ほどよい硬さの2.0のほうが万人向けだと思うが、個人的には3.0がいい。ポルトガルで乗った個体ほど演出過剰ではなく、基本はフラット。でも、ときおり例のゆったりした揺れが乗り手を楽しませてくれる。理想的な調律が施されていたのだ。
しかも新型C5は「曲がるハイドロ」でもある。走行状況に応じて自動的にソフトとハードを切り替えるハイドラクティブIIIプラスゆえ、ソフトな足のわりにターンインはかなりリニア。その後は従来のハイドロ・シトロエンのような前輪主導ではなく、前後がバランスよくグリップを分担した、FFらしからぬコーナリングが堪能できる。足まわりの形式が「プジョー407」と共通になったためだろうか。懐の深い接地感を活かして、かなりのハイペースをキープできる。
国際試乗会では、2.0が素直なハンドリングを演じてくれたのに対し、3.0は重いノーズとソフトすぎる足が運動性能をスポイルしていたが、日本仕様は3.0でも乗り手の意のままに曲がってくれた。セダンとツアラーの違いもほとんど感じなかった。
ハイドロ・シトロエン伝統の心地よさを備えたうえで、ここまで走りが楽しい。となると、セダン2.0で400万円を切る価格がリーズナブルに思えてくるし、プラス100万円でツアラー3.0エクスクルーシブに手が届くというのも、悩ましい設定に感じられてしまう。
しかもパッケージングやデザインは先代よりも、さらにその前のモデルに近い。旧型が出たときに買い替えをパスしたエグザンティア・オーナーも、今度はすんなり世代交代を決断するのではないだろうか。2世代前と同じように、傑作車と呼ばれる素質はじゅうぶんある。
(文=森口将之/写真=峰昌宏)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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