第146回:それでもやっぱりシトロエン
2019.10.15 カーマニア人間国宝への道古ければ古いほどエライ
先日、シトロエンの100周年イベントに行ってきました。9月23日に行われた、『代官山モーニングクルーズスペシャル~シトロエン~』のパレードランに、愛車の「DS3」で参加したのです。
これは、ヒストリックシトロエンによるパレードランと銘打たれていて、DS3みたいな新しいモデルが参加してもえーの? って感じでしたが、歴代モデルをなるべくくまなく並べたいということだったので、端っこに混ぜてもらいました。
朝、集合会場の代官山 蔦屋書店に到着すると、うおお、いるいる! 憧れの「DS」(元祖)や「SM」が! スゲー!
思えば、シトロエンほど「古ければ古いほどエライ」というヒエラルキーが強いブランドはないかもしれない。フェラーリでも、古いモデルほど希少で価値が高いという傾向はあるものの、新しいフェラーリほど速いので、スーパーカーという立場上、新旧なんとなくバランスが取れる。
ところがシトロエンの場合、速いとか信頼性が高いとかいった世俗的な部分はまったく価値がない。いや、足として使う場合はもちろんそれなりに大事ですが、こういうイベントでは価値はない。ほぼダイレクトに古ければ古いほどエライ!
個人的には、「2CV」より前のシトロエンはチンプンカンプンなので、シトロエンはDSが頂点! 次はSM! そのような価値観で生きております。
憧れの「シトロエンDS」
シトロエンDSは、カーマニアである私の憧れの極北に位置している。この場合の憧れは、「買える可能性があるクルマを欲しいと思う気持ち」の意です。
そりゃ、「フェラーリF40」欲しいなぁという気持ちもないではないですが、お値段を考えると到底不可能。DSなら500万円くらいらしいので、買おうと思えば買える。でも、趣味車は1台が限界。つまり、フェラーリを所有している以上永遠に買えない。欲しいし買える可能性はあるけれど買えない。そこにカーマニアとして悶々(もんもん)たるリビドーが堆積し、見ただけで目が潤んでしまう。
そんなDSを、私は過去一度だけ運転させてもらったことがある。今回のパレードの運営者である、堀江史朗さんが所有していた59年式の丸目のDSだ。
あれはすごい体験だった。DSのありとあらゆる部分が変態なのですが、一番変態なのはブレーキ! だってブレーキペダルがおまんじゅうなんだもん! 床についてるおまんじゅうを踏むとブレーキがかかる! んでそれを踏んだら「びりりりりりりりり」って 足の裏で油圧仕掛けのおまんじゅうが震える。うひ~くすぐって~! おまんじゅうを強く踏んだらびりびりも止まってブレーキもちゃんと利いた。ブレーキ踏んだだけで笑いが止まらなかった……。
そんな変態感満点なDSやSMや「AMI」を見てると、自分のは新しいモデルだとかいうちっぽけなコンプレックスは吹っ飛んで、いちカーマニアとしてコーフンしてしまいました。
シトロエンってすばらしい!
午前9時半、いよいよパレードラン開始。
古い順にスタートなので、目の前で次々とクラシックシトロエンが出発していく。それがだんだん新しくなって、「エグザンティア」が現れた。
エグザンティアは、私が最初に買ったシトロエン。7年半、足として使い倒させていただきました。そのエグザンティアが、スタート前の停止状態で、お尻を上下にピクンピクンと上げ下げしている。止まってると勝手に上がったり下がったりしたっけなぁエグザンティア。あ~、ハイドロシトロエンだなあ。懐かしいなぁ。
私のすぐ前は最後の「C5」。C5は2台目のシトロエンとして買わせていただきました。お尻が勝手にピクンピクンしないせいか、1年半で売ってしまいましたが、あれもいいクルマだった。
というより、やっぱりシトロエンって名車だらけなんだよね。2CVやDS、SMが名車なのはアタリマエとして、「CX」や「XM」、「C6」と、時代が新しくなっても、「うひ~!」と叫んでしまう変態的名車がちゃんと存在する。
私がいま乗ってるDS3なんざ、端っこの端っこでメカはまったくフツーに現代的、ATなんてアイシン製だけど、それでもカッコはやっぱりシトロエン。あらためて見直すと、かなりシトロエンしてる。
そんなDS3でパレードの最後尾の方を走ったわけですが、沿道に待機したシトロエンマニアの方(約10名さま)が、わがDS3にもカメラを向けてくださいました! 「シエンタ」の代替えで買った激安登録済み未使用車なのに! ありがたくて涙が出ます。
ゴールのアークヒルズでは、入り口前がカメラの放列! こんなフツーなクルマに乗っててスター気分! あ~、シトロエンってすばらしいなぁ。なにしろ今年100周年ですしね。フェラーリはまだ72年。そこは永遠に逆転できません。
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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