フィアット500アバルト(FF/5MT)【海外試乗記】
いつでも、そこに歓びが 2008.08.22 試乗記 フィアット500アバルト(FF/5MT)復活の「500」に、復活の「アバルト」がドッキング。キュートなマシンをチューニングした「500アバルト」は、サソリのエンブレムに恥じない走りを見せてくれるのか?
名前だけで期待する
そのルックスだけでひと目惚れという人も、きっと少なくないだろう。復活アバルトの第二弾にして、やはり復活なった「フィアット500」初の派生モデルである、「フィアット500アバルト」の話だ。
モチーフとされているのは、往年の「850TC」や「1000TC」あたり。鼻先に現代的にリファインされたサソリのマークを戴き、大型化されたバンパーを得たフロントマスクや、そのボディカラー、そしてボディ各部に入れられたストライプなど、往年の雰囲気を再現しながらも決してレトロ趣味には陥らず、今の時代のデザインとして成立させているあたりは、さすがイタリアンブランドという印象である。
しかしなんと言っても期待させるのは、その走りっぷりだ。個人的には往年のアバルトのプロダクトについては、文献で得られる知識以上には、ほぼ知らないと言っていい。なにしろ名義貸しではなく実際にアバルトが手掛けた、その名を冠するプロダクトと言えば、「リトモTC」あたりまで遡らなければならないのだから。けれど、その名にはやはり大いに期待してしまう。きっと、そういう人は少なくないはずだ。
小振りなバケットタイプのシートに身を沈めると、中央にアバルトのマークを戴き赤いステッチが入れられた革巻きのステアリング、同じく5段MTのシフトノブに、アルミ製ABCペダルといった定番アイテムが気分を盛り上げる。さらによく見ると、メータークラスター左側には中心にGSI(ギアシフトインジケーター)を備えたブースト計が据えられていることに気付く。
嬉しくなるコントロール性
そう、新生500アバルトのパワーユニットは排気量1368ccの直列4気筒DOHC16バルブユニットに、IHI製ターボチャージャーを組み合わせたもの。最高出力は135ps、最大トルクはノーマルモードでは18.4kgm、スポーツモードでは21.0kgmを発生する。今回の試乗はテストコースが舞台。当然、スポーツモードを選んで走り出すことにしよう。
ギアを1速に入れてクラッチを繋ぐと、小さなボディが弾かれたようにダッシュを開始する。その後も、フラットトルク型の特性のおかげで、どの回転域からでもターボラグをまるで意識させることなく加速態勢に入ることができる。しかし回転上昇に伴って迫力を増すサウンドは、きっと高回転域まで回したいという衝動を呼び起こすはずだ。
コーナーに差し掛かりブレーキングすると、その効きはもちろんコントロール性のよさに嬉しくなる。前輪に欲しいだけの荷重をかけて、いざターンイン。すると期待どおり、小さなボディは軽快に向きを変えていく。そして立ち上がりでは、TTC(トルクトランスファーコントロール)と呼ばれるブレーキLSDが内輪の空転を最小限に抑えてくれるため、ターボパワーを活かして再び猛然とダッシュをキメることができる。
知らない人をも引き込む魅力
こんな具合で、シャシーのしつけにも文句の付けどころはない。あえて言うならば、電動パワーステアリングがもう少しダイレクトな手応えを返してくれたらなというぐらいである。また乗り心地については、テストコースなのでたしかなことは言えないが、おそらくは結構硬め。けれど、それがなんだっていうんだという楽しさが、その小さなボディには詰まっている。
復活なった500アバルトは、往年のホットハッチのような、高性能な代わりにピーキーで扱いづらいものではなく、日常域の扱いやすさやコントロール性の高さで、いついかなる時もドライビングプレジャーを感じさせる1台に仕上がっていた。いや、あるいはそのファッション性は、運転していない時でさえ歓びをもたらすとすら言えるかもしれない。ようするに、見た目にしても走りにしても、かつてのアバルトを知る人はもちろん、知らない人をも一気に引き込む魅力が、この新生フィアット500アバルトには濃厚に備わっている。そう言うことができそうだ。
そんなわけで、ここ日本でも注目を集めるのは間違いないところなのだが、唯一懸念されるのが価格である。ヨーロッパでの車両価格1万8500ユーロは、そのまま円換算すると300万円を超えてしまうのだ。アバルト復活を景気良く祝うためにも、ここはぜひ戦略的な値付けを期待しつつ、来年の今頃というまだしばらく先の日本導入を指折り待つこととしよう。
(文=島下泰久/写真=フィアット・オート・ジャパン)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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