トヨタFJクルーザー(5AT/4WD)【海外試乗記】
日本生まれ北米育ち 2008.06.04 試乗記 トヨタFJクルーザー(5AT/4WD)日本ではあまり聞き慣れないトヨタのSUV「FJクルーザー」。1960年代のランドクルーザー「40系」のスタイルを再現した、トヨタが北米向けに生産するモデルだ。自動車ジャーナリスト河村康彦がアメリカで試乗した。
ベースはプラド
「40系」と称された“ジープルック”の「トヨタ・ランドクルーザー」。1960年の発売以降、四半世紀近くセールスが続けられ今でも世界各国で名車の誉れが高い。「トヨタFJクルーザー」とは、そんなヨンマルのアイコンをデザインに採りいれたいわゆるノスタルジックカー。2006年から北米マーケット限定で発売されているモデルだ。
郷愁を呼び起こすフロントマスクを備えたモデルだが、“レトロカー”と称されるモデルたちと一線を画すのは、そのデザインがノスタルジーの演出だけにとどまらず、たとえばサイドビューなどには新たなスタイリングの提案も盛り込んだ点にある。ハードウェアも、このモデルがベースとするのは日本でいうところの「ランドクルーザー・プラド」。すなわち、ボディ骨格には屈強なフルフレーム方式を採用するなど、見た目だけではなくその構造上もヨンマルに敬意を表した本格的なオフローダーとしての内容を備えるのだ。
米国旅行の折に運よく触れることができたのは最新の2008年モデル。以前のモデルと異なる点は、全席対応のカーテンエアバッグが標準装着され、ビルシュタイン製ダンパーやラグ溝タイヤ、リアのデフロックなどといった本格的なヘヴィーデューティ装備が“オフロードパッケージ”としてオプション設定されるところある。
6段MT(!)や後2輪駆動モデルも用意されるFJクルーザーだが、今回借り出したのは4WDの5段AT仕様。オプションとして、キーレスエントリーやバックソナーなどからなる“コンビニエンスパッケージ”や、ダッシュボード上の3連マルチインフォディスプレイ、サブウーハー付きアップグレードオーディオなどがセットの“アップグレードパッケージ”が装備される。これだけ付いても価格は、3万868ドル(約320万円)となかなかリーズナブルだ。
合理的なパッケージング
FJクルーザーは、先輩が築いたヘリテッジに敬意を表しつつ、それに頼るだけではないモダンさを盛り込むことにも挑戦した。乗り込んでみると、「ルックスこそがまずは売り物」であるはずが、実は最新のSUVとしてもなかなか優れた実用性の持ち主であることに感心した。
前述のように本格フレーム式ボディの採用もあり、高いフロア/シートへの乗降性は優れているとは言えない。しかし、外観からは期待のできなかった後席スペースにはそれなりのゆとりがあるし、ラゲッジスペースは後席使用時でもドカンと広い。“キュービック・フィート”で表示されるEPA測定法によるラゲッジスペース容量を換算してみると、後席使用時で790リッター、後席アレンジ時には1892リッターにもなったからそれも「なるほど」だ。こちらもまた、“ポンド”を換算した結果に得られた車両重量は1948kg。本格的なオフローダーという点を考慮すると「意外に軽量?」というところだろうか。
そんなFJクルーザーを、6気筒の4リッターエンジン+5段ATという組み合わせは、まずどのようなシチュエーションでも不満なく加速させてくれた。フリーウェイジャンクションの坂をのぼりながらの合流や、砂漠地帯の丘陵を越えるための延々何マイルにも及ぶダラダラ坂といったアメリカではありがちな条件下では、まず何よりもエンジン排気量がモノをいうもの。こうした時には4リッター排気量もさして“大排気量”とは思えなかった。それでも特にアクセルペダルを深く踏み込む要もなしに、なんなく走り切ってくれた。
オールラウンダー
フルフレーム式のボディゆえ「ブルブル来るかな?」とある程度覚悟をした乗り味も、路面凹凸を乗り越えると多少“その気”はあるものの“乗用車”として長時間を乗り続けても不満のない快適性を提供してくれた。それはハンドリングの感覚でも同様だ。見渡す限りが地平線、といった状況下で強風に吹かれても進路の乱れは最小限。むしろ舵の正確性は、全高が1.8mを超え、オールシーズンタイヤを履くという点を考慮に入れればこれもまた「想像と期待以上!」という評が与えられる。
今回はちょっとばかりのオフロード走行にもトライをしてみた。こんなシーンではさすがは“プラド譲り”の踏破力が輝くことに。
サスストロークの長さは「さすが」の一言だし、荒れた路面でキックバックを巧みに遮断してくれるステアリングシステムも、昨今流行の“SUV”とは一味違う本格派の仕上がりだ。
一方、ちょっと残念なのはせっかくの4WDシステムの恩恵をオンロード上では受けられない点。MT仕様ではトルセン式のセンターデフを用い、フルタイム4WD車としての扱いが可能なFJクルーザーだが、AT仕様のシステムはパートタイム方式。しかも、それを4WD位置に切り替えるとESC(トヨタ名“VSC”)がカットされてしまうこともあり、日常ユースでの4WDポジションの使用は推奨されないのだ。
それにしても何より悔しいのは、これほどの美味しいモデル(それも実は日本国内製なのだ!)を事実上アメリカ人に“占有”されてしまっていること。もう少し幅狭で、もちろん右ハン仕様の日本向けモデルをこしらえて貰えれば、きっと現在のトヨタラインナップの中でも飛び切りのオススメモデルとなってくれそうなのに……。
(文と写真=河村康彦)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
BMW R12 G/S GSスポーツ(6MT)【試乗記】 2025.10.4 ビッグオフのパイオニアであるBMWが世に問うた、フラットツインの新型オフローダー「R12 G/S」。ファンを泣かせるレトロデザインで話題を集める一台だが、いざ走らせれば、オンロードで爽快で、オフロードでは最高に楽しいマシンに仕上がっていた。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? -
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.10.9試乗記24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。