トヨタFJクルーザー オフロードパッケージ(4WD/5AT)【試乗記】
ジマンは地盤 2011.05.09 試乗記 トヨタFJクルーザー オフロードパッケージ(4WD/5AT)……350万5850円
ジャパンメイドの北米向けSUV「FJクルーザー」の評判がいい。なにが、そんなにイイのか!? モリケータはその“地盤”に注目した。
オススメトヨタNo.1
クルマは動くリビングルームである、という意味のことをダンテ・ジアコーザ(Dante Giacosa)が書いている。「Forty Years of Design with FIAT」という彼の著書でそれを読んだ(したがって原語でではなく翻訳された英語で)。動くリビングルーム。昔の恐竜アメ車あたりの客室デコレーションのどハデぶりや走りと乗り心地のフワンフワンぶりを(たいていの場合はヨーロッパのクルマのそれらと対比させながら)語る際に使われがちな言葉であるけれど、イタリアを代表する名自動車デザイナー、ただしスタイリストではなく設計者が、長くかつ濃密だった設計者生活を終えるにあたってモノした本でクルマをそういうものだといっている。調理したり入浴したり大小便の用を足したりベッドで眠ったりすることなく、特別なにをするわけではなくともそこにいる場所。すごす空間。でもってそれが路上を動く。
クルマが動くにあたってはもちろん人間が運転をするわけだけど、それは特別なことではない。特別なことであるともいえるけど、要は歩くように、呼吸するようにナンてことなく(しかもちゃんと)ドライブできないと本来クルマはマズい。または、そうであったら最高。運転せず移動中おもにただ座ってすごすだけのほかの人たちにとってのもふくめてそのへんの環境は良好か劣悪か、という話がいわゆるインプレ、試乗記には書かれている(はずですよね)。
動くリビングルームとして「FJクルーザー」は、少なくともドライバーとその隣の席に座る人にとっては、ものすごくデキがいい。やや特殊だったり難アリだったりのところがゼロでは必ずしもないけれど、いま買える新車でこの程度の値段(ご参考までに、「ゴルフヴァリアント」の1.4TSIコンフォートラインと同じくらい)でこんなにぜいたく、こんなに快適であるのはトンでもなく素晴らしい。価格の何倍もの価値がある。逸材。たとえばの話、まさにいま「ゴルフ1.2TSI」や「シャラン」を真剣に買おうとしている人に向かって「そんなのはヤメにしてこっちをどうぞ!」といいたくてしょうがなくはならない。でも少なくとも、いまトヨタ銘柄の新車のなかからどれか買うならオススメ1位はこれでしょう。1位というよりオンリーワン、かなー。
「レクサスSC」が“ディスコン”(※discontinued/絶版)になって、新車の乗用車(商用登録ではないクルマ)のモリケータ強力推奨銘柄はトヨタ方面からは「ハイ消えた!」−−とガックリ(?)していたらFJクルーザーが出た、というか日本へでも売り出された。で、プレス試乗会。元祖にして名車、この場合はヨンマル系「ランクル」への冒涜(ぼうとく)にも等しい「ニュービートル」と同じ穴の物件だからとすっかりバカにしつつ憎みつつ乗ったらエラくヨカッタので大喜びして、何年ぶりかわからないくらい久しぶりにトヨタの試乗会からニッコニコで帰宅した。やはりというか、同業者でこれに乗った人は俺が知るかぎり皆さんホメていた(そりゃそうだ)。そのあと某クルマ雑誌の連載企画で一週間ほど借りつづけ、もはや買ったも同然なくらいナジんだ。そうでなくても初手からナジむけど。俺とオマエ。
買ったらなおのこと気になる燃費は、そのときは全行程中の約95%が首都高または高速道路の往復ルート、平均時速70km/hとかの110kmで、リッター11.6kmと出た。レギュラー燃料でOK。スタート前とゴール後の給油には正確を期した満タン法……とはいえ距離的にも給油量的にもだいぶアレですが。なお、そのとき借りた「X-REAS」つきの仕様(20インチ)の距離計はほぼデッドに正確で、常磐道の距離ポストを眺めながら20km走って20mと狂わなかった。
で、オチとしてはFJクルーザー、わざわざ一週間も借りなくてもわかることだけど俺んちの車庫に入らなかった。高さの都合で。ウチの場合1700mmちょっとぐらいがたぶん実用上の限界なんだけど、コイツの全高は1840mmある。うーん、残念。そして迎えた今回の試乗。今度は「オフロードパッケージ」だ。
目立つけど隠れ家
ドアを開け、Aピラー内側のハンドルを握りながらヒョイと登る感じはイイ。これからFJを駆るタフな俺、の気分がアップ。でストッと運転席に座ると、いわゆるヒール段差、すなわちフロア面から座面までの高さが、このテのクルマにしてはミョーに小さいというか低い。オフロード走行をマジメに考えて作られたクルマの場合ココの寸法はたっぷり確保しておくのが定石(お手本は「ディスカバリー」とか「レンジローバー」の、ランドローバーいうところのコマンドポジション)。でもFJクルーザーの運転ポジションはそうなっていない。「ランクル プラド」というよりは「ハイラックス」、つまりピックアップから派生したクルマなのかと思わせる。ホントにそうなのかどうかは知らない。ほかが現状のママで着座位置だけコマンドポジションにするとおそらく天井にアタマがつかえるから、エクステリアのスタイリングの都合でこうなっているのかもしれない。
ステアリングホイールはイイ。ナニがって、まずリムがレザー巻きでない。仕様によってはレザー巻きのがついてくるけれど、やっぱ樹脂モロが好き……というのは俺個人の偏った意見かもしれないですが、ちょっとプロテイン塗装みたいなムニュッとした、もっというとピタッとしてザラッともした触感は一握の価値アリ。アタリマエだけど、レザーが巻いてないとレザーの継ぎ目もない。あと、フツーに円形のリムが太すぎず(いまの基準でいうと細く)、またその断面形状が全周にわたってほぼ不変でかつスッキリ丸いのも加点要素。グリップしやすい箇所が限定されてるハンドルはうっとうしいし、メーターが見やすいように楕円(だえん)にツブされたハンドルやレーシングカーのマネをしてパンクしたタイヤみたいに下がフラットなハンドルはもっと悪い。論外。
ステアリングホイールは、チルト調整ができる。ただしこのチルト調整機構がスゴくて、まず首振りの支点がハンドル手元からごく近いところにある。簡単にいうと昔タイプ。なので、高さ調整というよりは角度調整みたいなことになっている。ちょっとおおげさにいうと、バスみたいに水平に(ハンドルポスト的には垂直に)するか、逆にレーシングカーみたいにするか、みたいな。さらに、可動範囲内のどこでも任意の位置で固定できるわけではなくてノッチがある。そして、そのノッチの間隔がすごくデカい。ロック解除レバーを引いて、カックンカックン。またはパッコンパッコン。
そういうわけで、キメ細かい調整はできない。できないけれど、シートのほうのと併せて「ココだ!」というポジションは出る。ハンドルの高さというか角度というかをもっともフツーっぽいところにしておいて、座面の高さを適当なところに上げて(ないしは下げて)、さらに座面前端を少し持ち上げ気味にして、シートをググッと前へ寄せる。と、「ここしかないか」。ちょっと体育座りみたいな感じで、ハンドルを抱え込むような。これはこれでしっくりくるし、またアメリカっぽいかもしれない。幸いなことにAピラー+ウインドシールドはほとんど直立しているので、ググッと前へツメても目の前のガラスがグワッと迫ってウザ……くは全然ない。スタイリングの妙、というべきか。
そのウインドシールド(日本語だと風防)+Aピラーはまた、上下方向の寸法がハンパなく短い。上下チョン切ってパノラマ、みたいな。そして、ふり返るとリアコンパートメントは昼でもズドーンと暗い。ないしは昏(くら)い。なので、FJクルーザーのキャビン内はリビングルームというより洞窟(どうくつ)、いやトーチカのようなコトになっている。トーチカ、ロシア語。日本語にすると掩体壕? 戦争のときに使う、敵の銃弾を防いでもらいつつこっちからも撃ちまくるためにそのなかに入る(鉄筋コンクリートとかの)建造物。
で、これがまた実にホッとする。ホンモノのトーチカはどうか知らないけどFJのキャビンの居心地は。イマふうにホメるなら隠れ家タイプ。リアシートに関しては、ちょっと押し入れのなかにいるみたいな。隠れ家、逃げ込みたい人、多いでしょ? こんな色(ほかのもたいがい目立つ、というか被視認性高し)でこんなカタチのクルマ乗って高いとこから天下の公道を見下ろしながら走って隠れ家もないもんだけど、でも乗ってるほうにしたら気分はモロそっち系。俺の嫁、ならぬ俺の基地。イマっぽくいうとベース(笑)。俺様の、どこでもベース。それがたったの300万円チョイ。安っす!! 別に逃げ込みたくなくても、基地ゲットしてジマンしたい人は少なくないでしょ? または、「キミはトクベツ」とかいって誰かをそこへ招き入れたい人。
そういったうれしさの代償として、たとえば斜め後方視界はよくない。劣悪、といってもいい。真後ろ視界もたぶんよくない。そのへんは要覚悟。ただしFJクルーザー、ミラーだけを頼りに駐車場とかでナナメらずにバックで止めることは難しくない。あと車幅間隔の把握も容易。Aピラーの位置や角度やダッシュボードの全体のカタチがイイのと、あと車両感覚のつかみやすさは何割かは(視界や着座位置等のカタチ環境ではなく)ハンドル手応えその他ドライバーが操作する部分のデキ(これから書きます)によって決まるものでもあるから。つまり、そっち方面もイイから。
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堅牢にして強靱
エンジンは実用域のトルクがちゃんと出ている。順当に排気量なり、でしょう。ちなみに4.0リッターで6気筒。ド新車かそれに近い状態だと、発進のときトルコンが滑ってズワン! となるのが(またはそうなりすぎるのが)気になるかもしれない。実際、プレス試乗会ではそのケがあった。距離が進むと大丈夫になる。オートマの変速の仕事ぶりもふくめて、パワートレインの印象は……やっぱり「大丈夫」。おおらかタイプ。「なぜオマエはそこでそういうコトをする!?」ってなってその後タコメーターの目盛りと針の動きをシビアにチェック……ということにはならなかった。車重にしても、こんなクルマでいまどき2トン切りはむしろ軽いとすらいえる。だからというか、オソくない。全然。またその一方、ゆっくりゆっくり走り続けることもイヤではない。トばせることはわかっているけど、満足しちゃってあんまりその気にならないタイプ。
操縦性および安定性方面に関しては、真っすぐ走る……というと直線だけイイのかと思われるのでもっと詳しく書くと、走行レーンの真ん中をキレイにキープして走りつづけることがきわめて容易なタイプであることが特筆される。走行ラインをちゃんと管理することに手間がかからない。フリーハンドで書いた墨痕が黒々と伸びやかに、という感じか。いわゆるリジッドアクスルのリアサスのよさ(この場合は、路面のさまざまな凹凸を左右輪がそれぞれに乗り越えてタイヤの接地状況が変わりつづけるなかでトー角がフラフラ変動しないこと)がハッキリと表れているケース、といえる。
その一方で舵感(だかん)も非常にイイ。もちろんパワーアシスト(トヨタFR系のなかでは貴重な油圧)は入っているので手応えがナマそのものではないけれど、接地面からハンドル手元までの間のどこかにヘンなたわみやヨレが入ってこない。ジャマされずにフロント2輪の状況をモニターしていられる。たっぷり特盛りの大丈夫感とともに。そしてやはり、おおらか。そういうわけで、FJクルーザーは実はというか当然ながらというか曲がりもイイ。山道を勢いよくトばしてみて初めてそれとわかる“走りのいいクルマ”なんてものは基本的にない、と覚えておきましょう。
どうしてこんなにイイのか。モノのわかった人たちが開発し仕上げたから(だろう)、というのはもちろんあるけれど、そういった経緯が直接ブツとして見えるわけではない。で、クルマの奥のほうをのぞき込んでみて納得というかそりゃそうだというか。FJクルーザーはいわゆるラダーフレーム、つまりボディ上屋とは独立のはしご状に組まれた骨格というかゴツい鉄骨が車体の主構造になっているタイプのクルマで、たとえばステアリングラックはそこにマウントされている。左右2本あるはしごの縦の部材をブリッジ状につなぐかたちでビチッと線付け溶接されて一体化した、いわゆるクロスメンバー(いくつもある)のひとつの上にドン。サスペンションのロアアーム(それじたいゴツい)も、ゴツいフレームに直。こりゃあ見るからにブレなさそうだわ。ホレボレ。ただしというか、独立ラダーフレームのあるクルマがどれもこんなにイイわけではない。
乗り心地も良好。ハンパでなく快適。で、ココに関しても独立フレームはおそらく、いやきっと大いに効いている。ヨリ具体的には、路面をタイヤが踏むことで発生するビシビシだったりザワザワだったりソワソワだったりイライラだったりのさまざまなショックや振動が、客室フロアに届く前のところでビシッと阻止されているかまたは大幅にその勢いを弱められているような感じが明瞭(めいりょう)にある。下にあるゴツくて分厚いナニモノか……ってフレームですが、ソイツがビクともせずにそれらを受け止めている。また一方、フレームに載っかった上屋がフレームとは別のモードでブルブルすることもない。
いわゆるモノコック、というかユニタリーコンストラクション、つまりスチール(やアルミ)の薄板を接合して一体にしたものを車体主構造とするクルマでこのアジをモノにするのは、控え目にいっても非常に難しいと思う。もし仮にモノにすることができたとしても、そのクルマが2011年のいま日本で新車300万円チョイの商品になることはまずありえない。FJクルーザー、表面的なイイモノ感というか高級感はせいぜい価格なりのものでしかない。見た目に楽しげだとかウザくないとかは大いにあるとしても。でも、この乗り心地というか乗りアジのぜいたくさには、アタマのほうでも書いたとおり価格の何倍もの価値がある。ルーム云々ということでいうと、この“部屋”はそもそも建っている地盤がすごくイイ。堅牢(けんろう)にして強靱(きょうじん)。だから、壁紙や家具をどんなにフンパツしても得られない種類のぜいたくさがある。人間、もっというと動物としてズッポシ安心できる環境。
買うならコレでしょう
最後に、もうちょっと細かいバイヤーズガイド情報を。FJクルーザーを買って「できたらいっぺんはオフロードを……」な人は、今回借りたのと同じオフロードパッケージつきの仕様がいいでしょう。オフロードなぞ一生走るつもりがない人も、やっぱりオフロードパッケージつきがいいでしょう。理由は、主にダンパーがイイから。クルマの重心が高くてサスペンションの有効ストローク長がそれなりたっぷりある(特にリア)なかで、タイヤが岩とかを踏んだ際のキツいショックはうまくいなしながら、でもグラッと系の速くて大きいロールやその揺り返しはしっかり抑えたい。そういう方向で、素性の悪くないダンパーを丁寧に仕上げた「んだろうなー」という感じが、乗っていてよく伝わってまいります。でもってそれは、舗装路上のみを走っていてもやはり気持ちのイイものですよ。本格的にオフロードへ踏み込まなくとも、たとえばどこかの湖畔あたりの未舗装路というかゴツゴツ未舗装エリアをゆっくり走ってみるだけでもいい。ナルホドと思えます。
20インチを履いてさらにX-REASでロールやピッチの動きを抑えたアシの仕様は、たしかにそれっぽい。つまり、ワインディングロードとかでホイホイとトばしやすそうなものになっております。だからといって乗り心地がビシビシということもない。でもロールやピッチの動きを無理やり止めているようなところがあって、その弊害としてちょっと気に障る種類のヒクヒク細かい揺れが出ちゃっています。俺の仕事仲間のある編集者が「ミョーにフラット」といっていたのはまさに。せっかくのFJクルーザーなのにその本来の走りのキャラやポテンシャルをあえて少し殺しているように思えるところも、残念といえば残念。「でも、そこがイイんじゃない!!」という人は、まあどうぞ。なにしろ地盤がものすごくシッカリしたクルマなので、たかだか20インチやX-REAS程度でよさが台無しになるようなことはありません。X-REASつきなら即納だけどほかは1年待ち、とかだったら俺もこれにするかもしれません。
あと、スタンダードのアシ。この仕様はあんまりちゃんとは試せてないですが、フツーのボロい国道を走っていて遭遇する程度の凹凸を踏んだ際のショックのいなしというかバネ下の暴れのおさめがイマイチ。「タフな見た目をことさら演出するためにあえて特別デカいサイズのタイヤを履かせた仕様か?」と思って降りて眺めたらそうでもなかった、ということがありました。
それと、もういっこ。これまで試したFJクルーザーはどの個体もブリヂストンのタイヤを履いていて、それらの印象を通じて俺は同社のタイヤをちょっとかもっと見直しました。たわみかたというかケース全体の剛性やその配分がヘンなのか肝心なところ(たとえば直進からちょっと切ったあたり)で手応えが出なかったり、あるいは接地面内の路面の凹凸や傾きのちょっとした変化によって進路が神経質にチョロついたり……といったヤなことがなくて、簡単にいうと、ごくフツーで良かった。
(文=森慶太/写真=小河原認)

森 慶太
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