第43回:「イタリア式自動車教習所」なら、もう一度通える……かも?
2008.05.31 マッキナ あらモーダ!第43回:「イタリア式自動車教習所」なら、もう一度通える……かも?
コースがない!
イタリアに住んで驚いたことのひとつに、「自動車教習所」がある。まず門構えからして違う。古い館の中にあることが多いのだ。
自動車雑誌『NAVI』2008年6月号で「フィアット・チンクエチェント(500)を導入した教習所」として取材したバルツァナ自動車教習所も、その一例である。
ユネスコ世界遺産にも指定されているシエナの歴史的旧市街。煉瓦造りのパラッツォ(館)の一角にあって、アーチ状の玄関をくぐってはいる。
なぜそんなところで教習所が営業できるかというと、『NAVI』誌にも記したとおり「教習コースが要らないから」である。イタリアでは原則としていきなり路上教習から始まるのだ。
ちなみにイタリアも、免許取得可能な年齢は18歳から。
取得費用も日本同様技量によるが、教習料・受験料・印紙代・所定の健康診断を含めて、およそ700ユーロ(約11万円)である。10年前に他の教習所を取材した時のノートをめくってみると、約6万円だったから結構値上がりしている。
日本の仮免許に相当するのは「フォリオ・ローザ(ピンク色の紙)」というものだ。教習期間中に“自主トレ”できる許可証で、一定の運転経験をもつ人が同乗していれば公道走行できる。
2007年夏、この仮免許を所持していれば、16歳から運転できるようにしようという法案が審議されたが、実現に至っていない。
いっぽう実技試験は、所轄官庁の試験官がわざわざ教習所まで出張してきて行なわれる仕組みだ。
教習所とは一生のおつきあい
もうひとつイタリアの教習所で特筆すべきは、「サイドビジネスが多い」ことである。
たとえば「チンクエチェント教習所」の場合、モーターボート免許教室もやっている。ボクも取材中だというのに「おひとつ、どう?」と薦められた。夏を前に勧誘強化中とみた。
またイタリアでは、2003年の違反点数制度導入に伴い、教習所で講習を受けることにより失った点数を取り戻すことができるシステムも始まった。「チンクエチェント教習所」も、そのための講座を開講している。
さらに免許の更新も受け付けている。イタリアで更新手続きは各町にあるACI(イタリア自動車クラブ)でするのが基本だが、教習所のほうが手続きに必要な健康診断の警察医師が頻繁に来る。さらに、絵に描いたお役所仕事のACIと違い、営業時間中ならいつでも受けて付けてくれるのも便利なのだ。
イタリアの教習所は、ほぼ一生のおつきあいなのである。
スタッフは全部で5人
おっと、もっと大切な違いがあった。それは教習所の規模である。
まずクルマの数。「チンクエチェント教習所」の場合も、僅か4台である。前述のように教習コースがないので、休憩時間は路肩に停めておく。さらに昼休みや休業時間は、インストラクターが、家まで乗って帰る。
ちなみに、大型教習用のトラックとバス各1台は、ふだん郊外の空き地に停めてあって必要なときにそこまで行くというぐあいだ。
従業員数も少ない。インストラクターは経営者のヴァルテルさんを含む4人と受付のシルヴィア嬢の計5人である。
学科教習もイントラクターが交代で親身に指導している。
参考までに、取材した週と翌週の時間割は、こんな具合だった。
火:9-10時 (今週)道路と車両/(翌週)灯火類
水:18-19時(今週)保険/(翌週)危険標識
木:9-10時 (今週)停車と駐車/(翌週)優先標識
金:18-19時(今週)道路・車両・応急措置/(翌週)禁止標識
月曜と、教習所が閉まる土・日には授業はない。
さらに嬉しいのは、スタッフがクルマ好きであることだ。
この教習所は、以前製薬会社に勤めていたというヴァルテルさんが脱サラ開業して以来、「ランチア・イプシロン」「オペル・コルサ」「ニューMINI」をそれぞれいち早く導入してアイキャッチとしてきた。
ヴァルテルさんは、「コルサは意外に長距離選手。もしミラノに行くなら、500よりもコルサを迷わず選ぶね」などと、1台1台を熱く語る。
アットホーム
なお、イタリアの日常習慣といえばそれまでだが、従業員同士も教習生も、みんなファーストネームで呼び合っているのも良い。
思い出せば、ボクが東京で免許をとった1984年の自動車教習所ときたら、クルマはボロボロのトヨタの初代「クレスタ(X50系)」だった。今日の教習所業界のようなお客様意識はまるでなく、教官の大部分はやたら態度がデカかった。
当時は若く、かつクルマを運転することに無限の夢があったから耐えたが、今だったら「クルマなんか運転できなくて結構だぜッ」と捨て台詞を残してやめてしまうに違いない。
それに対して、アットホームな「チンクエチェント教習所」なら、万一のことがあっても、もういちど通えそうな気がするのだった。
ただし、イタリアにおける学科試験は、間違えたり白紙解答できるのは30問中たった4問という。何かとゆるいイタリアで妙に厳しい。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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