第357回:「iMiEV」=三菱にとっての「プリウス」!
もしかして真の敵は“お役所仕事”!?
2008.04.18
小沢コージの勢いまかせ!
第357回:「iMiEV」=三菱にとっての「プリウス」! もしかして真の敵は“お役所仕事”!?
現在最も現実的な電気自動車
いやビックリしちゃったぜ三菱「iMiEV」! すでにいろいろレポートされてるけど、軽自動車「i(アイ)」ベースのメチャクチャ完成度の高い電気自動車で、上手くいけばわずか2年後の2010年には実用化が見込めるってシロモノだ。
ほかにも日産やらスバルやら、電気自動車のプランは数あれど、ここまで現実的なのも珍しいんじゃないでしょうか?
実際、俺も今年始めにお台場周辺で乗ってビックリ。バッテリーを床下搭載するがゆえの低重心ボディからくる乗り心地の良さや、ハンドリングの良さはもちろん、加速力もエンジンの代わりにリアに積んだ47kW、つまり軽自主規制枠と同じ出力の64psモーターで文句ナシ! いや文句ナシどころか一部低速トルク、滑らかさはエンジン以上なわけで、逆にノーマル「i」以上の部分もある。
唯一、走りの“質”に関しては超低速、つまり発進直後にガソリンエンジンじゃありえない極太トルクゆえのネジリ共振が発生しやすいんだけど、それもほとんど解決できてて、あら探しレベル。問題だった航続距離も、現在はGSユアサと三菱グループが共同開発した200kgのリチウムイオン電池によって、最大160kmぐらい走れるそうで、街乗りだけならほぼ十分な距離だろう。
充電についても、家庭用の100V電源やら200V電源を使ってできるのでインフラの問題も特になし。急速充電器を使えばわずか30分でバッテリー容量の8割がた充電できるっていうのもポイントが高い!
つまり、あまり遠出はできないけど、近所の買い物やら通勤に使うには全然OKってわけよ。
一発逆転の貴重なプロジェクト
いよいよ残る大きな問題は、温度環境と車両価格。いまのところ砂漠のような高温、北極みたいな極寒低温地域でのバッテリー性能が確保できていないし、それから1台1000万円以下の車両価格を実現するのがかなり難しいらしい。
チーフエンジニアの吉田裕明さんに聞いてわかったんだけど、ようするにiMiEVってのは、三菱にとっての「プリウス」みたいなもんなのよね。なんというか、つまり三菱自動車全体の意地と威信をかけた開発だ。
吉田さんは実に1994年から電気自動車プロジェクトに関っているそうで、いろいろ捨て身で仕事をやらざるを得ない三菱自動車にあっては、まさに起死回生、一発逆転満塁ホームランのような貴重なプロジェクトなのだ。
正直、三菱のラインナップを見渡すと、他で目立てるプロダクトはランエボぐらいしかない。iMiEVは同社の次期イメージリーダーであり、命運がかかってる部分もある。だから是が非でも、石に食らいついてもものにしてやる! という気合いが感じられるわけ。ぜひがんばってください!!
新しいモノを開発する気ある?
だが先日、ふと先日、小耳に挟んだのが意外なところからの障害だ。そう、この電気自動車の開発、三菱に限らずお堅い国土交通省がネックになってるみたいなのだ。
わかりやすい例では「電気自動車は静か過ぎて危ないからなんとかしろ」という問題。つまり、静かな電気モーターがゆえだが、専門的なところではブレーキもそう。国交省が「踏力が変わってはいけない」という厳密な決まりを作ってるおかげで、簡単、そして安価には回生ブレーキを入れられないらしいのだ。そのほかリチウム電池には「飛行機じゃ運べない」という輸送規定があり、ここでも開発はもちろん、販売の妨げになっているらしい。
たしかにカンペキなデキを期したい自動車。だが特にこういう新しいもの開発には、ゼロリスクというのはありえないわけで、そこは法の番人なり規制の番人の裁量が問題になる。
そして絶対的ことなかれ主義最優先の日本。「とにかく問題のないデキ、ガソリン自動車とまったく同じにしろ」というらしい。
そのキモチもわからないではない。でもね、正直“本気で新しいモノを開発する気あんの?”って気もする。このままじゃせっかく開発で一歩先を進んでる電気自動車でも、欧米はもちろん、中国にも追いつかれかねない。
そんななか、とにかく頑張るしかない三菱自動車、小沢は期待してまっせ〜。
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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