アストン・マーティンDB9ヴォランテ(FR/6AT)【試乗記】
偽りなき極上車 2008.02.04 試乗記 アストン・マーティンDB9ヴォランテ(FR/6AT)……2191万2100円
イギリスのゲイドンで手造りされる、12気筒の高級スポーツカー「アストン・マーティンDB9」。オープンバージョンの「ヴォランテ」を駆り、その魅力を探った。
2000万円の理由
「アストン・マーティンDB9ヴォランテ」は“素”の価格で2107万円もする高級スポーツカーである。総アルミボディ、V12エンジン、トランスアクスル、とスペックを並べただけでも納得はできないだろう。
なぜこんなに高いのかといえば、それは手作りによる入念な造り込みが行われているからで、もちろん生産台数もおのずと限られてくる。
そのひとつの証が、フェンダーに切り欠かれたヘッドランプユニットの穴。この目元がスッキリ綺麗に見えるのは、細切れプレスの板を寄せ集めて作ったような、量産車にありがちな合わせ目の無粋な線がないからだ。メッキのリムで周囲を覆って、合わせ目の雑な仕上げを隠すのでもなく、すっきり処理できているのは手作業による丁寧な造りであることの証拠だ。
この精緻なボディ造りが、価格の半分以上のコストを占めるのだろう。内装の仕上げも推してしるべし。外装以上の入念さで作られているが、これだけに文字を費やすのは許されないから先に進もう。
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骨の髄までスポーツカー
V型12気筒のDOHC5.9リッターエンジンは、450psを発生する。初めから軽く回る最近の量産エンジンと違い、じっくり馴らす必要を感じる程度のフリクション感があり、きっちり詰めて組まれた手応えがある。手組みによる丁寧な仕事ぶりを感じる。
エンジンはダッシュボードの下まで後方に押し込まれているが、その割りに室内への張り出しは少なく、左側足元の空間もほぼ四角く抉られている。
その代わりプロップシャフトを通すトンネルは立派。狭い後席の真ん中は大きく膨らまされている。ここにギアボックスが納まっており、デフに直結して後輪を駆動する。つまり、トランスアクスルだ。
ATモデルはこの膨らみにトルコンも内蔵するが、弟分の「V8ヴァンテージ」に備わるクラッチレスの2ペダルMTとは違い、発進や変速などの仕事ぶりはあくまでも滑らかにして静粛に行われる。
5.9リッターもの排気量やATならば、さぞや低回転でソロソロと走ると思うかもしれないが、DB9がスポーツカーである証は、1速以外は2000rpm 以下を使いたくない性格が顕著なことだ。馴らし中とのこともあり5000rpm 以上は遠慮したが、Dレンジでトローンと流すよりも、タコメーターを見ながらパドルで2000rpm 以下に落とさないよう、また回し過ぎないように、上限下限を管理する乗り方こそDB9をそれらしく走らせるコツだ。これも馴らしが進行すれば、Dレンジ入れっぱなしや2000rpm以下をキープする状況でも、ストレスを感じないようになるのだろう。
DB9の乗り心地は素晴らしくフラットで、ダンピングの処理も良い。自重1910kgは、決して軽くはないものの、逆に重さを感じないのも事実だ。これは乗り心地も操縦安定性もボディの動きに無駄がなく、一貫してソリッドな動きに終始するからだ。
エンジンやトランスアクスルの前後を結ぶセンターチューブなど駆動系の骨格がしっかりしており、駆動系の剛性感の高さは比類がない。それに外皮がアルミの軽装とくれば、ステアリングの入力にも遅れは無く、スッと回頭する素直さには脱帽というより感激に値する。
フルロック3回転のラック&ピニオンパワーステアリングは、ことさらギア比が速いわけではなく、この比率をことさら小さくしてビックリさせるクルマをあざ笑うかのようだ。
自在に操れる
最近では電子デバイスが大流行で、ある程度雑に作っても、最終的な限界付近は適当なところでカットしてしまい、危機的状況に陥らせない措置が講じられている。
そんな安易な方法であれ、それらデバイスがいっぱい装備されていることが、あたかも高級ででもあるかのように謳うクルマもある。
しかしそれは少し違う。
根本に立ち返ってみれば、クルマの基本構成とチューニングが確かならば、その挙動は自然であり、限界も掴みやすい。絶対値は容量でまかなうことができる。そんな理想を実現するにはコストがかさむけれども、この高級スポーツカーはそれに近い姿が実現されている。
具体的な例をあげよう。重量の前後配分は50対50がよいとされる。これは、単に補記類を軸荷重を均等に割り振るように置くことでも実現は可能だ。しかしボンネットを開けるとエンジンは前の方へ置かれ、トーボードとの間に大きな隙間があったり、ホイールベースが冗長だったり……「単なる数字合わせ」でいい結果がでるはずはないのだ。DB9はトランスアクスルにすることにより、まず大まかな配分を決めているが、全重量の85%をホイールベース内に納めているという。この事実だけでも注目に値する。
もちろんABペダルを同時に踏んでもエンジンがストールすることなどない。そんな小手先の小細工を弄する必要もなく、自在に操れる楽しさに満ちている。
DB9は同じスーパーカーでもフェラーリほど派手ではないが、日常生活をおくるうえでのストレスはないし、スポーツカーとして所有する満足感は極上と思われる。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
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