第7回:まさに「どこでもパーキング」! 魔法のカーペット発見(大矢アキオ)
2007.09.08 マッキナ あらモーダ!第7回:まさに「どこでもパーキング」! 魔法のカーペット発見「イージー・パーキング」の正体は!?
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折り畳み式駐輪場
イタリアの自動車雑誌をパラパラめくっていたときである。ある広告ページで、目が点になってしまった。
「イージー・パーキング」という商品だった。
何か?といえば、「どこでもバイク駐輪場」である。
白線が引かれたカーペットを路上に敷くことによって、バイク4台用の駐輪スペースが確保できるというものだ。
使用例として、路肩の縦列駐車場に敷いて、ヤマハのビッグスクーター「マジェスティ」を停めた写真まで掲載されている。
「駐車の心配よ、さようなら! 実用的な折り畳み式・布製「イージー・パーキング」は、広げるのも数秒。あらゆる場所に4台のバイク用駐輪場を設営できます。リバーシブル。耐久性に優れ、水洗いも可能です」
畳み方の図説もあり、長さ20cm、直径8cmの折り畳み傘のようになる収納時の写真も載っていた。
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気配りのリバーシブル仕様
「イージー・パーキング」には、裏表のデザインによって「ミラノ」「ローマ」「トリノ」の3タイプがある。「トリノ」を除いて、表面にはアスファルト路面、裏面には各地の路面にマッチする石畳が印刷されている。敷く路面に合わせて、使い分けられる。なかなか気配りの利いた企画である。
このカーペットを商店の前などに敷いて、通常1台しか停められないところを縦に4台停めるよう誘導すれば、ささやかながらも都市の駐車環境改善にもつながるだろう。
そこで、この“魔法のカーペット”を製造する会社のホームページを訪れてみることにした。
ちょいと、まずくないか?
「トゥカーノウルバーノ」というその会社は、約10年前に設立された2輪グッズ専業メーカーだった。ミラノ郊外を本拠にしていて、バイク用カバーやレインウエア、グローブなどを製造している企業だった。
友人のBMWバイク乗りドゥッチョも、同社のカバーを愛用しているのを思い出した。
『webCG』に紹介するため、写真が欲しい旨メールをしたためると、フランチェスコ氏という広報担当者から
「お問い合わせありがとうございます。残念ながら、今のところ該当する写真がないので、高画質の広告原稿をお届けします」
という返事とともに写真が届いた。
しかし、ふたたび広告の写真をよく見てみて気になることがあった。青線が引かれた、有料ゾーンだ。つまりパーキングメーターにコインを入れるか、もしくはチケットを買って停めるゾーンに、無料ゾーンを示す白線の「イージー・パーキング」を敷いて撮影している。そこに停めるバイクがちゃんと料金を払っていれば問題ないのだろうが、なにか面倒くさいことが起きそうだ。
なにかテレビ・アナウンサーの些細な言葉遣いに反応して投書する視聴者のようだが、やはり気になる。
また、広告には「特許申請および一般販売はされていません。注意:公共スペースの不正な占拠は禁止されています」などと断り書きがある。なんだかわからないが、建前を言いながら広告するあたり、「自動速度取締器にナンバーが写らないフィルター」に似た匂いを感じた。
ドラえもんじゃあるまいし!
せめて、「闇」値段でいいから、頒布価格を聞かせてほしい。ボクはふたたび、フランチェスコ氏にメールをしたためた。
ところがやってきた返事は、意外な書き出しで始まっていた。
「イージー・パーキングには、価格はありません」
そうか、やはり法スレスレのものだけに、大っぴらに売っちゃまずいんだろうな……などと勝手に納得しながら、続きを読んで、またまた目が点になった。
「なぜなら、存在しない製品だからです。衆目をひくための広告手法です」
さらに彼は、実際に広告の片隅に書かれた小さな但し書きを指摘していた。
「本当にあったらいいな、と思う商品がここにある。」と書かれている。
「こんなこといいな、できたらいいな〜♪」って、
ドラえもんじゃあるまいし! いやー、すっかり見落としていた。写真も仔細に確認すると、街の風景に別撮りの「イージー・パーキング」を組み合わせた、合成だった。
さらに解説を再読すると、「ローマ」仕様の石畳プリントには「サンピエトロ風」とある。いくら「イージー・パーキング」でも、ローマ法王庁の大聖堂前広場で広げる不心得者はいるはずがない。
自分の眼前に「どっきりカメラ」と書かれたプラカードを持った男が現れたような気さえした。
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会社は意外にマジ
でも、このバイク用品メーカーでいたく感心したことがある。
高い広告料金を払って、自動車雑誌にありもしない商品の広告を出す勇気と同時に、その誠実な対応である。
フランチェスコ氏の最初のメールは、バカンス真っ盛りの時期、それも日曜の深夜に返信されてきたのだ。このシーズンのイタリア企業はほとんど“死んで”いる。だから、このバイク用品メーカーの対応はイタリアの奇跡といえる。
事実、ある有名自動車ブランドの広報部にあてて7月末に出した依頼の返事は、いまだ音沙汰ない。
陽気なイタリア人のごとく妙にふざけたバイク用品メーカーには、イタリアらしからぬ律儀さもあった。
かくも自分のあまりの注意力欠如が情けなくなっていたところに、ふたたびフランチェスコ氏からメールが舞い込んだ。
「実際、たくさんのお客様からも同様の質問を頂きます」
恥をかかせぬ気配りに接し、さらに赤面したボクだった。
(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ、tucanourbano)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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