ランドローバー・フリーランダー2 HSE(4WD/6AT)【試乗記】
優しいレンジローバー 2007.07.09 試乗記 ランドローバー・フリーランダー2 HSE(4WD/6AT)……530.0万円
2006年7月のロンドンショーで発表された新型「フリーランダー2」が、日本に導入された。最先端の技術を装備したニューモデルに試乗した。
「RAV4」から「X3」まで
「ランドローバー・フリーランダー2」は、つまり「レンジローバーのハイソは感じにはあこがれるけれど、車体の大きさとお値段がちょっと……」というお客さま向け。2007年6月9日から販売が始まった日本仕様は、全車右ハンドルで、3.2リッター直6(232ps)と6段ATの組み合わせ。いうまでもなく、フルタイム4WDである。
布内装の「S」が390.0万円。
ハーフレザーの「SE」が460.0万円。
フルレザーの「HSE」が530.0万円。
いわゆるジャーマン・プレミアムのセダンを買うより、押し出しがきいて“お買い得”ということはできる。都市部で使われる小型SUVの存在理由である。
2代目フリーランダーの大きさは、全長×全幅×全高=4515(135)×1910(100)×1765(−5)mm(カッコは先代比)。ホイールベースは、先代より110mm長い2660mmとなった。たしかに旧型より大型化したが、“レンジローバーなカタチ”から想像すると意外なことに(?)、北米志向を強めた「ホンダCR-V」とほぼ同じサイズである。
フォードグループ内のプレミアム担当「PAG(Premier Automotive Group)」の一員として、日本では「BMW X3」を仮想敵と謳うが、ディーゼル4気筒とMTが用意され、より廉価なバージョンを擁するヨーロッパでは、「トヨタRAV4」「ホンダCR-V」がいい競争相手となる。
ノウハウが降りてきた
ジェフ・ユーペックスのディレクションのもとスタイリングされたフリーランダー2は、「クラムシェル状のボンネット、そして段のついたルーフ」といった初代のデザインを引き継いだ部分もある。が、むしろ評価の高いレンジローバーのイメージを投影した旧型マイナーチェンジ後の路線を押し進めた印象が強い。一部が重なった丸目、フロントドア前のアウトレットと、上位モデルのデザインアイコンが上手に取り込まれる。
ランドローバーのラインナップは、全体に価格帯が上がったから、旧ディスカバリーのオーナーが乗り換える際にも、これなら“グレードダウンした”気持ちを抱かずにすむだろう。
試乗したのは、フリーランダー2のトップグレード「HSE」。シートヒーター付きの革内装、ナビゲーションシステム、プレミアムオーディオなどを標準で装備する贅沢なグレードで、足もとは他グレードより1インチアップの18アロイホイールを履く。
「コマンドポジション」と呼ばれる高い着座位置からは、フロントスクリーンのむこうに四角いボンネットがよく見える。見切りがいい。いかにもランドローバーの一族だ。フリーランダー2は同家の末子といえども、ちょっと驚くことに、いまや初代のランドローバーより大きく育った。ユーザーの欲求とは限りないものである。
インテリアはコンテンポラリーに整理され、センターコンソールの高い位置に7型ディスプレイが置かれ、メーターナセルの端にはスターターボタンが設置される。
しかし、新型フリーランダーにおける最も実質的な進化は、シフター前に置かれたダイヤル「テレイン・レスポンス」である。ダイヤルを回すことで、「通常走行」「草/砂利/雪」「泥/轍」「砂地」のなかから最適なドライブモードを選ぶことができる。路面の状況に合わせて、エンジン、ギア、ブレーキ、そしてトルク配分を統合的に司る、個別のプログラムが呼び出されることになる。上級モデルに搭載された、ランドローバー社が培ってきた走行ノウハウが、いよいよボトムレンジのモデルに降りてきたわけだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
魅力の数々
日本に入るフリーランダー2がパワーソースとするのは、3.2リッター直列6気筒。232ps/6300rpmの最高出力と32.3kgm/3200rpmの最大トルクを発生する。「コンパクトなストレート6を、なんと横向きにエンジンルームに押し込んで……」というフレーズは、ご存じのように最新ボルボ車の解説でもよく使われる。ランドローバーのコンパクトSUVは、同じくフォード傘下にある「ボルボS80」のフロントセクションを活用し、ということは、フリーランダー2は「ボルボXC90」と世代を隔てた親戚ということになる。
![]() |
そもそも新型フリーランダーのシャシーは、フォードグループ内「欧州用CDプラットフォーム」にあたり、「フォード・モンデオ」や「同ギャラクシー」がボリューム車種として使用するもの。フリーランダーは、シャシーはじめ、エンジン、トランスミッション、デファレンシャルといったコンポーネンツをグループ内で共有することで、ランドローバー車として、より個性を強める部分に資金をまわすことができた。たとえば、タフなリアサスペンション、サブフレーム、頑丈なモノコックボディなどは、フリーランダー2専用である。
![]() |
さて、ニューフリーランダーでオンロードに出てみれば、新しいSUVの進歩は如実で、かつて感じられたどこかリジッド風に(?)かすかに揺れる乗り心地は消え去った。月並みな言い方をすると、背の高い乗用車的な運転感覚となった。
印象的だったのは、高いボディの剛性感と、意外とクイックなステアリング。剛性アップと引き替えに、2代目の車重は1920kgと、2トンにあと一歩。カタログ燃費は8.1km/リッターと、けっして褒められたものではない(約2.5トンのレンジローバーは、リッター6kmだが)。
それでも軽々しさのない走り、予想よりずっと鋭く向きを変える機敏さ、街なかでも我慢を強いられない大きさは魅力的だ。最上級のHSEでさえ、レンジローバーの約半分というプライスも。
ブリティッシュな4WDに憧れる層にとって、フリーランダー2は、懐にも、街なかでも、優しいレンジローバーである。
(文=webCGアオキ/写真=菊池貴之)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。