ボルボXC90 3.2 Sport(4WD/6AT)【短評(前編)】
ボルボらしさ(前編) 2007.07.01 試乗記 ボルボXC90 3.2 Sport(4WD/6AT)……698.0万円
2006年末にマイナーチェンジした「ボルボ・XC90」から、スポーティな特別仕様車が発売された。北海道は稚内からの報告。
オバフェン+19インチ
北海道の丘陵地を「ボルボXC90 3.2 Sport」で行きながら、心のなかで歓声をあげた。草の斜面を、鹿が、われわれと並行して走っている。「大海原を疾走する白いヨット。舷側に、競うように泳ぐイルカの群れ……」と月並みな連想をしたところで、鹿たちは緑の丘のむこうへと駆けていった。
ボルボのSUV「XC90」のスペシャルモデル「3.2 Sport」のプレス試乗会は、稚内を基点に行われた。3.2 Sportは、2007年6月9日に発売された限定150台の特別仕様車。3列シート7人乗り、右ハンドルのみの設定となる。価格は698万円。
3.2リッター直列6気筒エンジン(238ps、32.6kgm)に6段ATという組み合わせはノーマルの「3.2」と変わらないが、特別なボディカラー「パッションレッド」で華やかに塗られ、足もとは2インチ(!)アップの19インチホイールを履く。薄く巻かれるタイヤは「225/50R19」とスポーティなサイズ。
「スタッドレス用に17インチホイールも用意しないとなァ」と小市民的な心配が頭をもたげるが、それはともかく、気になるのは乗り心地である。前後バンパー下部、サイドステップにルーフレールと、随所に“シルバー”が配され、赤いボディを引き締める。太くなったタイヤに合わせ、フェンダーには、ごく控えめにだがエクステンションがついた。
ボルボ車のスペックに、「ニヒャクバリキ」を超える出力を見ることが珍しくなった今日この頃。それでも、北欧のメーカーから“19インチ+オバフェン”のSUVが出されることになろうとは……。感慨に浸っていても仕方ないので、ドアを開けて運転席に座る。
ボルボらしさ
ボルボ初のSUV「XC90」がデビューしたのは、2002年のデトロイトショー。自社モデルについて、FR(後輪駆動)を至上とし、SUVはおろか4WDの必要性さえ疑問視していたこともあるボルボだが、ときは流れ、技術の進歩は続く。主要マーケットである北米で必須だったスポーツ・ユーティリティ・ヴィークルを開発するにあたり、スカンジナビアの自動車メーカーは独自の視点からことにあたった。
頻発した「フォード・エクスプローラー」の横転事故に鑑み、RSC(ロール・スタビリティ・コントロール)システムを搭載した。
これは、各輪のブレーキを個別に制御して乱れた挙動を修正する「スタビリティ・コントロール」の応用版といえる。車内のジャイロセンサーでクルマの傾きを検知、ロールオーバーの危険を感じた場合、エンジン出力を絞り、さらにアンダーステア気味の挙動を強制的につくりだしてロールオーバーを抑止する。“転ばぬ先の杖”である。
それでも転んでしまった場合のためにROPS(ロールオーバー・プロテクション・システム)が用意される。各ピラーおよびルーフ部の強化はじめ、キャビンを守るボディ構造。乗員をしっかり固定するシートベルト。そして、サードシートまでをカバーするカーテンエアバッグが乗員頭部の衝撃を軽減する。
トラックベースのSUVが流行しはじめたころ、地上から高い位置にフレームをもつこれらSUVが、乗用車との衝突時に「相手のボンネットに乗りあげキャビンを直撃する」という致命的な事故が数多く報告された。
XC90は、「地上高が高いにもかかわらず、ボディの構造部は他の乗用車のバンパーと同じ高さに設計されています」と説明される。コンパティビリティが高いということだ。
ボルボといえども、当たり前だが、利益を追求する自動車メーカーである。生命線であるアメリカでSUVが必要とならば、つくらないわけにいかない。それでも、なんとか自社のポリシーと整合性を取ろうと真摯に努力する姿は立派だ。
法制度の違いこそあれ、3列目には実効に疑問符がつくベルトしか装備されないミニバンや、中央席にはヘッドレストも3点式シートベルトも備わらないリアシートをもつ乗用車が散見される国内市場を振り返ると……と、がらにもなく“説教モード”に入りつつある自分を笑いながら、XC90 Sportのステアリングホイールを握った。(後編へつづく)
(文=webCGアオキ/写真=菊池貴之)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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